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逆雷戦記  作者: 2626


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22/25

生存

 「我ら武官はただ死ぬために戦うのではありません。 ましてや自滅願望を持った指揮官のために誰が戦いましょうか。 生きるのです。 たとえ泥にまみれ汚水をすすり傷つき飢えて苦しんでも、最後には生きて勝つ。 そのための作戦を我らは考え、我らが実行するのです。 その覚悟無き者に武官は務まりませぬ。 決して指揮官は務まりませぬ。 さては殿下は軍略と武力を持っていれば武官だとお思いだったか。 ……見損ないましたぞ」

言うなりアウルガは剣を抜き、ムザブの胸元にその切っ先を突き付けたのだった。

「副将軍! 流石にそれは! なりませぬ!」

対抗して剣を抜こうとしたウルガンドをムザブの手が止めた。

「……なあ」

ムザブは彼らしくもない、酷く弱々しい声を出す。

「だったらさ、俺はどうすりゃ良かったんだ……?」

「私達、武官の務めは戦うことです。 今ある命のために」


 今ある命――。


 我知らず、ムザブは目を大きく見開いていた。

懐かしい『鳥籠』から出てきた、随分と老いて小さくなったビーラの背後にいた。

『あの時』のように。

無力ゆえにただ泣きじゃくるしか許されなかった生贄の女達が、何人もいたのだ。


 ムザブは『あの時』は、己の魂に徹底的に刻み込んだ。

それしか出来なかったからだ。


 だが、『あの時』とは今は決定的に違っている。

大人になった。

戦う力も手に入れた。

勝つための戦略を、徹底的に練り上げてきた。


 ああ、俺は愚かだ。

所詮は【狂犬】でしか無かった!

絶対的に勝つ戦いで負けることを前提に考えていたのだ。

『敗北主義者』など、人に噛みついた犬のように斬り殺されて当然だ!


 「おいおい、戦う前に同士討ちとか勘弁してくれよ」

ムザブは獰猛に笑って、爪先でアウルガの剣を弾いた。

「ああ、俺は戦ってやる。 生きてやる。 勝ってやるとも!」




 そのままムザブは飯を食いに行くと言って、ウルガンドを連れて軍議室を出て行った。

ムザブの気配がしなくなってから、静かにモルガが顔を出してアウルガを呼んだ。

「愚弟が……迷惑をかけたようだな。 済まなかった」

「殿下、私こそ不敬な真似を致しました。 如何なる処分もお受けします」

相変わらずだが、その強さと同じくらいに生真面目な男だ。

なかなか良い臣下がいてくれて良かった、とモルガは穏やかに微笑む。


 異母弟の様子が最近、どうにもおかしいことは気付いていた。

けれど武官ではない彼は、武官として異母弟を激励する言葉を持っていなかったのだ。


 「処分と言うなら、勝ってきてくれ。 それで良しとしようじゃないか」

アウルガがしかと承ったのを見、更に周りに人がいないことを確認してから、モルガは告げた。

先ほどまでの微笑みをことごとく失った、悲壮な顔をしていた。

「……その。 悟ってはいるだろうが、戻れば私はとうとう処分されるだろう。 この戦いが終わった後になるが、急いで、愚弟が決して私に連座されないようにしなければならない……」

アウルガは目を閉じる。

「恐れながら。 ……皇籍を離れさせ申し上げた方がご安全かと」


 今のムザブならば十分に上級武官としてやっていける。

彼には紛れもなく天与の戦才があるのだ。


 逆にこのまま――後ろ盾が弱いのに、下手に皇族の地位に据えておけば、逆に血みどろの陰謀に巻き込まれかねない。

後宮の女人達にムザブの母メレが虐待された以上の悲劇さえ、簡単に起こりうる可能性が高いのだ。

モルガもそれを察して、泣きそうな顔をして頷いた。


 もしも、後ろ盾である己がもう少ししっかりしていれば。

あるいは、父や兄に逆らってでも帝位をもぎ取る覚悟があれば。

しかし現実としてモルガは気が弱くて、それと同じくらいに優しい男であった。

「うむ。 それが何よりかも知れぬな……」




 明後日からラーレルカイトス付近に雨雲が広がるとの情報を得て、総大将のモルガ率いる帝国軍と【天馬】達はリーセルブルユの前線基地を出撃した。




 この時、モルガは何も知らない。

彼の敵はラーレルカイトウだけではなく、己の背後にも存在していたことを。

そして。

その背後の敵の存在こそが――将来のモルガの魂と運命を完全に破壊せしめてしまうことを。

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