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逆雷戦記  作者: 2626


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17/25

魔法

 幸と不幸は本質的には同じものである。

いつしか幸せは不幸になるし、不幸が幸せになるからだ。

運命とは幸せと不幸せだけでは推し量れぬものなのだろう。


 もしもその運命が大河のようであるとしたら、ムザブの生涯は、激流の中の木の葉のように常に動乱の中にあった。


 反乱が起きたのだ。

前回のノナレアデヴェのような、行き詰まった平民達による単なる暴動ではない。

霊峰クォルタスを中心とする地方で蔓延っていた邪教集団が、帝国に対して正真正銘の反乱を起こしたのである。


 その邪教集団の教祖の男ルテロは先月、『淫惰な皇帝を打倒し新たな皇帝と即位するよう神々より天啓を授かった』と吹聴した。

元々は地方の文官だったのに、ルテロはおよそ人の所業とは思えないほどの奇跡を起こし数多の信者を集めていた。

けれども、金と違法薬物に次第に溺れ、信者との淫らな行為に耽るようになり、そして――。

「私こそが正統なる皇族の血を引いて【精霊】を従えているのだ! 今こそ立ち上がって皇帝を討つぞ!」

突如として千人ほどの信者達を率いて、反乱を起こしたのだった。




 モルガ達はこの反乱の情報を得るのがあまりにも遅れた。


 霊峰クォルタスから帝都にかけての地域を統治していた行政府の長官達が、不運にもモルガらとは不仲な寵姫達の縁者だったこと。

その長官達がノナレアデヴェでの『元』太守の失態を聞いていたためか、モルガ達に知られぬように内々に解決しようとしたこと。

しかし、彼らの中の何人かが金と違法薬物、淫らな行為のためにルテロと密かに癒着していたこと。

そんな中で焦った者が地方の軍を勝手に動かして反乱軍を鎮圧しようと試みたが、歴史に残る大敗を喫したこと。

負けた敗残兵がルテロの起こした奇跡を見て、反乱軍に吸収されてしまったこと。


 ――ここまでであれば、直ちに帝都近郊の軍を招集すれば無事に対応できたかも知れない。


 しかし、同時期に帝国最大の穀倉地帯であるノーフォーレザ河流域にて、たまたま大雨による氾濫があり、そちらに帝都とその周辺の有力な武官と軍の大半を臨時で派遣していたのが、彼らにとって最大に災いした。




 それでもなけなしの帝国軍六万が、すぐさま派遣されることになった。

士官学校の上級生達も従軍することとなった。

この時、ムザブだけでなくモルガまで出陣している。

またも身内の失態が露呈することを恐れた寵姫達が、悪意滴る虚々実々を、皇帝と皇太子の耳に吹き込んだのである。

「モルガドリック殿下に叛意の恐れありとの噂がございます」

「でなくば何故、地方で反乱が起きた時に帝都に武官がおらぬのでしょうか」




 「最悪だ……」

空の遥か遠くに霊峰クォルタスの白い頂が見えてきた。

間もなく反乱軍と一戦交えるかも知れないと知って、陣地の天幕の中で総大将(※名目だけの)モルガはムザブにだけ聞こえるように泣き言を言った。

戦いに赴くとあって彼も武官の格好をしているが、どうにも重たいし、暑いし、慣れぬ馬に乗って移動するだけでくたくたに疲れてしまった。

「どうして、こう、悪い時には悪いことばかりが重なるのだろう……」

愚痴をこぼした異母兄に、ムザブは笑って告げる。

「兄貴。 逆に良い時には良い追い風が吹くもんだ。 俺が勝利を連れてきてやるよ」

モルガは、思わず異母弟をじっと見つめた。

相変わらず【狂犬】のような性格だが、この非常時には逆に頼りがいがある。

いつの間にか身長も己を追い抜いた。

こんなにも大きくなったのだ……。

「……そうだな。 良い時に良い追い風が吹くのなら、まず良い心構えから持つ必要があった!」

そうだった。

一応は総大将の彼が、くよくよと泣き言を言ったのは間違っていた。

気を取り直して、モルガは微笑んだ。

「そうさ。 兄貴は俺が守ってやる。 だから見てくれだけでも堂々としていろよ!」

ムザブは異母兄の肩を叩いてから、副司令官のアウルガの元へ走った。




 「うんと足の早い騎兵を百ほど貸してくれないか」

いきなりだ。

動く破天荒、生きた奇天烈のようなムザブがやって来たと思ったら、これである。

「何をするおつもりですか」

アウルガは各隊長達に指示を出しながらも、率直に聞いた。

「この先の進軍経路の一つに、渓谷にかかった橋があるはずだろ? 反乱軍に落とされてないか心配なんだ」

「嘘は圧倒的な事実を交えて語るものですよ、『殿下』」

参った。

全部お見通しかよ、アウルガ。

ムザブは顔をしかめて舌打ちしたが、

「……分かったよ。 これから少数で夜襲をかける。 目的は、ルテロの捕縛だ」

「「なっ!?」」

天幕から退出しようとした隊長達まで驚いた顔で振り返ってムザブを見つめた。

一応はムザブは皇子なので、弱った顔をしてアウルガは続ける。

「却下いたします。 今、ルテロが反乱軍の占拠する行政庁内部を偵察させている真っ最中です。 報告によれば、捕縛など到底――」

「充分に可能なんだよ」

今度は嘘ではないとアウルガは理解した。

これはムザブにとっての事実か、彼が事実だと思い込んでいることを言っているのだ。

「どうして可能だと分かるのですか?」

冷静なアウルガは、その説明だけでも聞くことにした。

よし、とムザブは話を始める。

「ガルヴァリナ帝国の武官文官は、己の【固有魔法】を帝国に報告するように法律で決まっている。 ルテロもだ。 だけど皇族はそうじゃない。 俺の【固有魔法】、知っているヤツはいるか?」

「確かに、存じ上げません。

……しかし、人一人の【固有魔法】で戦況を左右できる事態に動かしうる場合は、非常に稀ではありませんか?」

ニヤリとムザブは獰猛な笑みを顔中に浮かべる。

戦いに飢えた、【狂犬】の笑みだった。

「ゼーザ副司令官の【音波(サウンド)】と組み合わせれば、簡単に出来るぜ?」

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