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TOKYO PMC  作者: ヒロセカズヒ
ニューロン
21/24

番外編1 指輪

 離婚が成立していなかった。


 事務所で受けた本社の総務課からのメールだった。

 税務処理で齟齬があったとのこと。

 ニューロンの案件が片付いた翌週だった。


 俺はグラスのフレームに触れた。


「……確認しなくては」


---


 戸籍を取り寄せた。


 確かに入ったままだった。


 離婚届を持っていったのは妻だったはずだ——そう思っていた。しかし記憶が曖昧だった。あの頃は鬱だった。専門医にかかる前だった。何もかもが霧の中にあった。


 俺はしばらくその書類を見ていた。


 それから、スマホを取り出した。


 まだ連絡先を消していなかった。


---


 ラインを送ってから+返信が来るまで三日かかった。


「会います」とだけ書いてあった。


---


 場所は表参道のカフェ。


 俺は早めに着いた。

 グラスで入口を見ていた。

 女性が入ってきた。

 グラスが照合した。


 一致なし。


 登録していなかった。登録する機会がなかった——いや、正確には、グラスをかける前に別れていた。


 だが、歩き方で分かった。


「久しぶり」と彼女は言った。


 知っている声だった。


「久しぶり」と俺は言った。


---


 コーヒーが来た。


 しばらく何も言わなかった。


「離婚届を持っていったのは君ではなかったのか」と俺は言った。


「持っていったのは、私の母よ」と彼女は言った。「あなたの対応を確かめたかったみたい。そこであんな男はやめなさいと言われたわ」


 俺はコーヒーカップを見た。


「なら、なおさら——」


「違う」と彼女は言った。「私は母の言う通りにしなかった。だから今も籍が入ったままなの」


 俺は何も言えなかった。


「あなたのことを調べたの」と彼女は言った。「顔がわからないのね」


「その通りだ」と俺は言った。「今まで迷惑をかけた」


「それは私の方にも言えるわね」と彼女は言った。「あなたのことを知っているつもりで、何も知らなかった」


 カフェの中が静かだった。


「俺だっていまだに君の顔がわからない」と俺は言った。少し間を置いた。「……いや……だけど」


「何?」


「君の顔を触っていいか」と俺は言った。「そうすればわかるかもしれない」


 彼女が黙った。


「……本気で言ってるの?」


「本気だ」


「でもだめよ」と彼女は言った。


「……そうか」


「ここではね」


 俺はグラスのフレームに触れた。


 グラスが彼女を照合しようとしていた。


 一致なし。


 俺はグラスをはずした。


 テーブルの上に置いた。


 初めてグラスなしで彼女を見た。


 顔は分からなかった。ただし、そこにいた。


「コーヒー、飲もう」と俺は言った。


「そうね」と彼女は言った。


 二人でコーヒーを飲んだ。



―― 番外編1 了 ――

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