↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明のデシリア  作者: 中條利昭
第三十五話「秋空より、天の川へ」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
245/266

第三十五話「秋空より、天の川へ」-7-

第三十六話「月の音色」2026/10/17 8:00投稿予定

 おなかがいっぱいになると、人は眠くなる。

 それは、どれほど過酷な運命を背負った小さな戦士でも、例外ではなかったらしい。

 心地よい秋の日差しの中、瑞季の肩を枕にして、穹はすうすうと穏やかな寝息を立てていた。

 四人は、その寝顔を静かに見つめていた。

「かわいい寝顔ですね」

「うん。こんなに小さな子が色々なものを背負ってたなんて。今は何も考えずにゆっくり休んでいてほしいね」

 優菜の優しい言葉に、星輝も深く頷いた。

「ああ。そう思うと、穹がヒナと出会えたのは、幸運だったのかもな。ひとりだったら……ウチなら耐えられない」

「うん……」

 瑞季は、穹の桃色の髪を撫でる。あまりに柔らかい髪だった。

 秋の心地よい風が、少女たちの間を吹き抜ける。

 ふと、アスラが疑問を口にした。

「そういえば私たちは、未来で優菜さんが星輝さんを殺めることになると、ずっと勘違いしていましたよね。瑞季さんは、未来の瑞季さんに嘘をつかれていたってことですか?」

「ううん」

 瑞季は首を横に振る。

「私が勘違いしてただけだよ。嘘はついてない。いかにも私が悪役になったら使いそうなミスリードだよ」

 瑞季は自嘲気味に笑った。

 そのときだった。

 瑞季にもたれかかる穹の身体が、もぞりと動いた。

「ん……」

「あ、起こしちゃったかな。ごめんね」

 穹はゆっくりとその瞼を開けると、しばらくぼんやりと空を見上げていた。

「お疲れのようですね。もう少し休憩してから帰りましょうか」

 アスラの優しい言葉に穹はこくりと頷く。

「うん……。そうお願いしたいニャ……」

 一瞬、時間が止まる。

 言葉の最後に付いていた奇妙な響き。

 穹は自分の口から出たそれにハッと我に返ると、猫のようにびくりと肩を揺らした。

 四人は、その反応に、思わずぷっと吹き出してしまう。

 瑞季がニヤニヤしながらからかった。

「穹ちゃん。かわいいニャ」

「ニャなんて言ってない! 言ってないったら言ってない! わ、忘れろー!」

 叫びながら、穹は、心の中でしたり顔するヒナの姿を見た。

《語尾ニャの素晴らしさに、おぬしもようやく気づいたかニャ》

 恥ずかしさで顔が真っ赤になり、額にじわりと汗が浮かぶ。

 だがその心の奥底には、一筋の冷たい感覚もあった。

 確実に同化が進んできている——。

 今はまだ分離している穹とヒナの心は、そう遠くないうちに、完全にひとつになるだろう。そうなったら、もう今のように人間の姿と精霊の姿を、行ったり来たりすることもできなくなる。

 そもそも、人間と精霊が同化するなんて無茶なことをしている。どこかで何かの拒絶反応が起きて、息絶える可能性だって否定できない。

「……」

 一抹の寂しさと不安。

 みんなが面白おかしく笑っている中、アスラだけはその穹の一点の曇りを見抜いていたようだった。

「そういえば穹さんの時空では、結局誰がリアマイムとリアスピサになっていたのですか?」

 穹は、優菜と星輝の顔を順番に見た。

 正史のリアマイムとリアスピサが優菜と星輝でないことを、彼女たちが知ったのはつい最近のことだ。それまで、穹はそれを知りながら、自分の身を隠すために話さなかった。

「……知りたい?」

 穹は星輝と優菜の瞳を覗き込む。

 しばらく星輝と目を合わせていると、彼女は首を振った。

「いや、いいよ」

 優菜も頷き、迷いのない笑顔で応える。

「わたしも大丈夫。だってここではわたしたちが、リアマイムとリアスピサだから。別の世界のことは、関係ないよ」

 穹は少しだけ驚いたのち、安堵して肩から力を抜いた。

「……うん。それがいいと思う」

 穹はゆっくりと立ち上がった。

「さあ帰ろう。……あと」

 彼女は一度言葉を切り、そして四人の顔を改めて見渡した。

「ぼくは、この時空の人間じゃない。この戦いが終わったら、元の世界に戻ることになると思う。だから、短い付き合いになっちゃうと思うけど……その、」

 彼女は顔を真っ赤にし、目線を逸らしながらも、はっきりと言った。

「……よろしくね」

 その不器用な挨拶に、四人は笑って頷いた。

「よろしくね、穹ちゃん」

「こんなに心強いことはないよな」

「うん。わたしたちなら、きっと勝てる」

「はい。みんなで力を合わせて頑張りましょう」

 四人がそれぞれ穹に声をかけると、ようやく穹は顔を上げ、四人の瞳を順番に見ることができた。

 星輝が「よーし!」と手の甲を上にして、すっと前に差し出した。

 穹は一瞬困惑したが、優菜がその星輝の手に自らの手を重ね、その上に瑞季が手を乗せるのを見て、その意味を理解した。

 アスラが「お先にどうぞ」と目で促す。

 穹もおずおずと、その小さな手を重ねた。

 そして最後に、アスラがその上に手を置いた。穹の手を挟んだ上下の手は、柔らかくて、温かかった。

 五つの小さな手がひとつになる。

「ウチらは絶対に負けない。負けてやらない。これからもみんなで頑張るぞ!」

「「「「おー!」」」」

 その誓いの後、瑞季がいたずらっぽく笑った。

「よし。さあ、帰るニャ」

「帰るニャ帰るニャ」

「おうちに帰るまでが遠足だニャ」

「今日は本当に楽しかったですニャ」

「もうーっ! だからやめなさいってばー!」

 穹の抗議の声が、秋の澄み渡った空へと、どこまでも響き渡っていった。


 先生は、きっとぼくを戦いに巻き込みたくなかった。普通の幸せから遠ざけることになるから。

 でも——巻き込まれたからこそ、ぼくはここでヒナや瑞季たちと出会えた。笑い合える時間を知ることができた。

 この時空の瑞季を恨み続けていたなら、ぼくは今もひとりだった。

 ぼくが今、ひとりじゃないのは、先生とロイが瑞季とヒナを信じ続けていたから。

 だから、この幸せは、先生たちからのプレゼントなんだと思う。

 ありがとう、先生——。

 秋空の向こう、はるか遠くの天の川へ、穹は想いを馳せた。



(第三十五話「秋空より、天の川へ」了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
優菜も星輝も強いなぁ。私なら気になっちゃう!! そして「先生」がリアマイム…なら、優菜ではなかったということか。誰だろう。 瑞季だけ気づいてる、「語尾ニャ」が同化の深まりの証拠。 一年って、まさに一年…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。