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黎明のデシリア  作者: 中條利昭
第三十五話「秋空より、天の川へ」

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第三十五話「秋空より、天の川へ」-3-

 柔らかな朝の日差しが、カーテンの隙間から差し込み、秋のひんやりとした空気をじんわりと暖めている。

 瑞季の部屋で、ヒナはゆっくりと目を覚ました。

 ヒナは、また夢を見ていた。

 それは自分の記憶ではない。自分と同化している少女の記憶だった。冷たい世界でひとり震えていた彼女が、初めて誰かの温もりに触れた日の記憶。

 同化してから、こうして穹が体験した出来事を、夢として追体験することがときどきあった。もしかすると穹も、同じようにヒナの夢を見ているのかもしれない。そう思うと、くすぐったい気持ちになった。

 結局、穹はこれからも、基本的にはヒナの姿で過ごすことになった。その方がエネルギーの消費も少ないし、何より寝泊まりや食事の心配をしなくて済む。

 あれから一週間。ヴォイズ・アークがいつまた襲ってくるか分からないため、ヒナは毎日瑞季のバッグに入り込み、学校について行った。だが、穹がその姿を人前で現すことは一度もなかった。月音優菜《つきねゆうな》と高梁星輝《たかはしてんし》しかいない生徒会室で姿を見せてほしいと頼んだときも、「急に先生や生徒が入ってきたらどうするの! それに……恥ずかしいし」と断っていた。

 ピピピッ、ピピピッ。

 スマホのアラームの音が部屋に響き渡る。

 ベッドの上で布団にくるまっていた大きな塊が、もぞもぞと動いた。

「ん……。もっと……もっと甘えてよ……ぐへへ」

 ヒナと、その内側にいる穹が、同時にため息をついた。

「瑞季。変な夢見てないで早く起きるニャ」

 彼女の身体の上で跳ねながら、ヒナは瑞季から発せられている、白感情とも黒感情ともつかない複雑な味のエネルギーを吸収していた。

 布団の中から瑞季が眠そうな顔を出す。

 休日はいつも九時ごろまで寝ている彼女が、今日は平日と同じ六時半にアラームを設定していた。

「ふああ……。ヒナ、おはよう。起こしてくれてありがとうね。今日は、いつ穹ちゃんになるの?」

 瑞季はまだ半分眠っているような声で尋ねた。

「この家を出るときに、なるニャ。待ち合わせの駅の周りは人目も多いだろうしニャ」

「そっか」

 瑞季はのろのろとベッドから這い出すと、クローゼットへと向かった。


 着替えを済ませ、階下で朝食を食べ歯を磨き、すべての支度を終える頃には、彼女の眠そうな目もぱっちりと開いていた。

 瑞季はピクニック用の大きなリュックを背負うと、元気よく玄関のドアを開けた。

 今日はみんなで電車に乗り、隣県の大きな公園へピクニックに行くのだ。

 彼女がドアの外へ一歩足を踏み出したとき、目の前の何もない空間に青い亜空間の渦が現れた。

 そして、その中からひょっこりと、いつもの空色のパーカーを着た穹が姿を現した。背中には、瑞季が小学生のときに使っていた、お古の小さなリュックが背負われていた。

「行こっか、穹ちゃん」

「うん……」

 穹は瑞季に目を合わせてくれない。それが緊張なのか気恥ずかしさから来るものなのか、瑞季には分からない。ただ、彼女はそんな穹を見守りながら、並んで駅へと歩き出した。

 日曜日の朝の住宅街はまだ静かだった。どこかの家から、朝食のいい匂いがしてくる。

 あまりにも平和な空気の中、瑞季はずっと気になっていたことを尋ねてみた。

「ねえ」

「なに?」

「穹ちゃんは、どういう経緯でデシリアになったの? ヴォイズ・アークとの戦いに巻き込まれたとか?」

「ううん。ヴォイズ・アークは未来ではスレイヴを使ったりするような、直接的な破壊活動はしてなかったんだ」

「え、そうなの?」

「世界をリセットさせるためには、デシリアを集めるだけでいいからね」

「あー、確かにそうだね」

 穹は瑞季とは目を合わせないまま、続けた。

「だから、ぼくがリアシエルになったのは、ほんの数回だけ。それも、逃げる目的ばかりだったから、ちゃんと戦ったのは、このあいだが初めてだったよ。もちろん、浄化技も」

「そうなの!? それなのにあんなに戦えるなんて、すごいね」

「まあ、パルクールとか合気道とか、身体を動かすことはたくさんやってきたから。……前に、偶然通りかかったところを助けてもらった人が、リアマイムだったって話は、したでしょ?」

 穹は照れくさそうに言った。

 瑞季たちの前では彼女はまだ、未来の世界で自分が家族から虐待を受けていたことまでは話していない。ただ、劇的にヒーローに助けられ、その人に師事して合気道を学んだということだけを伝えていた。

「うん。それで、一目惚れしてデレデレしてたんだよね」

「デ、デレデレなんかしてないし!」

 穹が顔を真っ赤にして抗議する。この日初めて、穹が瑞季と目を合わせた瞬間だった。

「へえ。一目惚れは否定しないんだ」

「そ、それは……。まあ、その……」

 もごもごと口ごもるその姿に、瑞季は思わずくすりと笑ってしまった。

 穹はその笑い声から逃れるように、ぷいと前を向いて続けた。

「……先生は、ぼく自身も自覚してなかった能力に気づいてたんだ」


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