第三十四話「ふたつの空、重なる心」-5-
「瑞季。話したいことがある」
瑞季が灰色に染まったあの日の夜、瑞季の部屋で、ヒナが切り出した。いつものように胸を張るでもなく、冗談で誤魔化すでもない。その小さな瞳には、決意と不安が入り混じっていた。
星輝や優菜、アスラにも聞いてもらうためにチャットを送り、ビデオ通話を開始する。
四人の視線が集まる中、ヒナは一度、深呼吸した。
「緊張するニャ……よし、覚悟を決めたニャ。みんな、見ててくれニャ」
すると、ヒナの身体から淡い空色の光が溢れ出した。
その柔らかい光の中、ヒナのシルエットが薄く見える。
やがて、そのシルエットが大きくなっていく。猫の輪郭が崩れ、小さな身体が伸び、四肢が形を変える。
「!?」
四人が驚愕する中、空色の光が収束した。
そこに現れたのは、深い空色のフードつきパーカーを着た、桃色の髪の少女。その小柄な身体は、小学校高学年ほどの少女に見えた。
四人の中でただひとり、瑞季だけがその姿に見覚えがあった。
「……神辺、穹?」
自分に包丁を向け、殺そうとした、あの少女。
その少女が、瑞季の問いに、こくりと頷いた。
「うん。ぼくは神辺穹。ヒナと同化して、ずっとあなたたちを監視していたの」
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
画面越しの星輝も、優菜も、アスラも。
そして瑞季も。
穹はまず、瑞季へと向き直り、深く頭を下げた。
「瑞季。ごめんなさい」
「え……」
「凪宮くんなら必ずあなたを護ってくれると思って、ぼくは本気であなたを手にかけにいった。ぼくがまだ瑞季を殺そうとしていると思わせなければならなかったから。怖がらせてしまって、本当にごめんなさい」
あの殺意は、演技とは思えないものだった。だからこそ、瑞季も凪宮も、穹の目的が瑞季を殺すことだと信じて疑わなかった。
「そう、だったんだ……」
「でも……もし、あのままあなたが黒に染まっていたら。そのときは、ぼくは迷わなかった。寝込みを襲ってでも、ね。でも、あなたは白に戻った。もし、あなたが未来の染谷瑞季と対峙しても黒に染まらなかったら、全部を伝えようってヒナと約束してたんだ。……本当にありがとう」
瑞季は何も言えなかった。
穹は、かすかにはにかむ。その表情は、不思議と大人っぽく見えた。
「困惑してるよね……。伝えたいことは山ほどあるんだけど、あなたたちが知っているはずがないことを知っていたら、奴らがぼくの尻尾を掴むヒントになってしまう。だから、あんまり詳しいことは話せないの。ごめんなさい」
そして彼女は改めて、四人の顔を見渡した。
「これだけは、伝えておくよ。ぼくがヒナと契約して同化したのは、未来を変えるため。瑞季、あなたが黒に染まらないために、ぼくはヒナと協力して、本来の歴史とは違うことをしたんだ。その結果、未来は大きく変わった。あとは、ヴォイズ・アークに勝利し、先生が護ろうとしたこの世界を、守るんだ」
「先生って?」
瑞季が尋ねると、穹は少しだけ耳を赤くして、瑞季やスマートフォンの画面に映る優菜から、ぷいと目を逸らした。
「……リアマイムの、こと」
「え、わたし?」
画面の向こうで困惑する優菜へ、穹はちらりと目を向ける。しかし、穹は何も言わない。
しばらく、誰も何も言えず、沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、星輝だった。
「ちょっと待って。穹さんは、いつからヒナと同化してたんだ?」
「穹、でいいよ」
星輝にそう伝えた後、彼女は瑞季へと視線を移した。眉をかすかに八の字に曲げたその表情には、後ろめたさが滲んでいた。
「瑞季が初めてリアハイリンになった日の夜、ぼくはこの部屋に侵入したの」




