第三十話「正義と救済の境界線」-4-
放課後の下駄箱で、瑞季、優菜、星輝、そして沙耶の四人は、並んで自分の靴に履き替えていた。
お昼休みの陣頭愛華とのことは伏せていたが、莉照と少し会話したくらいでは、あの怒りを発散できるはずなんてなかった。星輝はついに、彼女たちに昨日のことと、今日の昼休みのことを話した。
三人とも、驚いていた。
「陣頭さんと分かり合おうとするなんて……さすが高梁さん」
沙耶がそう言うと、瑞季が続いた。
「しかも、ギターに傷をつけられたんでしょ? 楽器なんて持ってない私でも、それが許せないことだってのは分かる。普通は、絶対にそんな相手に歩み寄ろうなんて思わないよ。ほんと、すごいと思う」
「いや、ウチは結局何もできなかった。すごくなんてないさ」
「結果はどうあれ、歩み寄ろうとすることがすごいんだよ。私には絶対にできない」
「でも、かなりムキになっちまったからな……。反省してる」
すると、「いやいや」と瑞季が首を振った。
「星輝は悪くないよ! どう考えても陣頭さんが一方的に悪いよ。ねえ」
「うん。わたしもそう思う」
「星輝さんが落ち込むことはないよ」
必死に庇ってくれる友の優しさが、少しだけ星輝のささくれた心を癒した。
沙耶とは家の方向が違う。校門を出ると、彼女は「気をつけて帰ってね」と何度も振り返りながら、手を振って去っていった。
残された三人。星輝は、少し歩いたところで意を決して、瑞季と優菜に向き直った。
「なあ。ふたりなら陣頭のこと——」
その後の言葉は、不意に遮られた。
瑞季の肩にかかったバッグが、がさりと大きく揺れる。
「ヒナ? どうしたの?」
バッグの隙間から、切羽詰まったヒナの声が聞こえた。
「スレイヴだニャ! それも、かなり近くにいる!」
その言葉に、三人の顔から、一瞬にして放課後の和やかな空気が消え失せる。
人目のつかない路地裏に入り、瑞季がバッグを開けると、ヒナが飛び出してきた。
「すぐあっちだニャ!」
そう言った途端、ヒナが顔を向けた方角から、鈍い打撃音が聞こえた。
「みんな、行こう!」
「アスラちゃんも呼んでおくね。ここからは遠いから時間かかっちゃうと思うけど」
ヒナはその言葉に、小さく首を振った。
「それなら、ぼくに任せるニャ!」
ヒナは一歩前に出て、三人を見上げた。その瞳には、強い決意が宿っている。
「ヒナ?」
「空の邦にいる間、ぼくだってみんなに負けじと、たくさん頑張ったんだニャ」
ヒナがそう言った瞬間、ヒナの目の前の空気がぐにゃりと歪んだ。まるで水面のように揺らめきながら、淡い空色の、円形の穴が現れる。まるで異次元への入り口のようなそれに、彼女たちは見覚えがあった。
「それって……」
「ジンが使ってた瞬間移動の?」
「そうだニャ。空の精霊の難しい術のひとつだニャ。ぼくの力では、せいぜい一回で百メートルくらいしか動けないけど、それを繰り返せば、飛んでいくよりずっと早いニャ。時間はちょっとかかると思うけど、必ずアスラを連れてすぐに戻ってくるニャ!」
ヒナは、その青い渦の中へと躊躇なく飛び込んだ。すると、ヒナも青い渦も、その場から消え去った。
「ヒナ……すごいね」
ヒナの成長に、瑞季の胸が熱くなる。
そして、三人は互いに視線を合わせ、力強く頷く。スレイヴの気配がする方角へと駆け出した。




