第二十九話「リアハイリン」-5-
「『ヒアリン・フェーズ・ファースト【ケイリン】』」
空気が変わった。
音が消える。風の音や、呼吸の音さえも。
公園そのものが、息を潜めた。
「……まずい」
リアマイムが声を漏らす。
それは、リアハイリンが持つ切り札。敵のエネルギー攻撃を無に帰し、模倣する能力。
この状態で、下手にエネルギーを伴う技を放てば、それを吸収され、模倣され、仲間へと向けられる可能性がある。かといって、物理攻撃だけで、今のリアハイリンを止められるとは到底思えない。
「……はっ。面白いじゃんか」
沈黙を破ったのは、リアスピサだった。
彼女は、不敵な笑みを浮かべると、右手にバスケットボールほどの大きさの火球を灯した。
「スピサ、何を……!」
「おまえの力、見せてみろよ、ハイリン!」
リアスピサは、その火球をリアハイリンへと放った。
灰色のリアハイリンは、無感情に、その火球へと右手をかざす。
その手に触れる寸前、炎は音もなく掻き消えた。
熱も、音も、何ひとつ残らない。
そして、灰色の掌に、炎が灯る。リアスピサが放ったものとよく似た火球だった。
リアハイリンが振り向く。
その視線の先にいたのはリアマイムだった。
「あなたたちも、この痛みを知ればいい」
リアハイリンの照準は、リアマイムへ向く。
仲間を失う痛みを、自分が背負った絶望を、その一端だけでも知れば、きっと諦めてくれる。
そう信じるしかなかった。
「マイム!」
リアウインズが、間一髪で風の壁を作り出し、炎の軌道を逸らす。火球は、公園の地面に着弾し、小さな爆発を起こした。
だが、三人の心に走った衝撃は、その爆発よりも、遥かに大きかった。
リアハイリンが、本気で仲間を傷つけようとしている。その事実が、重く冷たくのしかかる。
「まだだ!」
今度は、リアマイムが水の槍を、リアウインズが風の刃を、同時に放つ。
だが、リアハイリンは、そのふたつのエネルギーを両手で同時に受け止め、消滅させた。
次の瞬間。
リアハイリンの右手には水の槍。
左手には風の刃。
ふたつの技が同時に再現されていた。
「そんな……! 同時に……!」
リアマイムの驚愕の声。
リアハイリン自身も、目を大きく見開いて驚いていた。
「……へえ。同時ならふたついけるんだ」
そして、水の槍はリアスピサへ、風の刃はリアマイムへと、容赦なく放たれた。
三人は互いを庇い合い、それぞれの技を受け止め、吹き飛ばされる。戦闘服が裂け、肌に生々しい傷が刻まれていく。
灰色のリアハイリンの攻撃が、それだけで終わるはずはなかった。
吹き飛ばされ、体勢を崩したリアマイムへと猛烈なスピードで迫る。リアマイムは、反射的に水の盾を目の前に展開した。
だが、盾は瞬時に消えた。
「……っ!」
リアハイリンの力は、聖霊由来のエネルギーである限り、防御壁さえも無に帰すことができる。
呆然とするリアマイムの頬に、拳が叩き込まれた。衝撃で吹き飛ばされ、リアマイムは地面を数回バウンドして、ようやく止まる。
「マイム!」
炎が迸る。
だが、リアハイリンの前に、水の盾が現れた。それは、さっきまでマイムを守っていたはずの盾だった。
炎を吸収した直後、その巨大な水塊がブーメランのように投げられる。
遠心力を乗せて投げ放たれたそれは、リアスピサも、リアウインズも、ヒナさえもまとめて飲み込む。三人は木の葉のように吹き飛ばされ、公園のフェンスに叩きつけられ、折り重なるように倒れ込む。
その前へ、灰色の少女だけが、静かに歩いてきた。




