↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明のデシリア  作者: 中條利昭
第二十八話「黒き感情」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
191/217

第二十八話「黒き感情」-2-

「自分の本質に気づいたかい?」

 公園の入り口、クスノキが落とす深い影の中から、磐名式乃がぬるりと姿を現した。

 嘲りを煮詰めたような笑みが、その顔に貼り付いている。

 血のような夕陽が彼女の輪郭を照らし、その影を地面に長く引き伸ばしていた。

「あんた……っ!」

 瑞季の全身の筋肉が強張る。

 磐名は芝居がかった仕草で両手を広げてみせた。

「まあまあ、そう殺気立つなって。血の気が多いのは若さの特権だけどさ」

 その声は、刃物を絹で包んだような、底意地の悪い優しさに満ちていた。

「安心しな。アンタは悪くない。それがアンタの本質なんだから。目の前の弱者を救うより、あのガキどもを叩き潰したかった。違うかい?」

「そ、そんなこと……ッ!」

 否定の言葉が、喉の奥で鉛のように固まる。

 否定しきれなかったから。

 あの瞬間、自分の意識は、怯える少年ではなく、加害者たちへの憎悪にこそ向いていた。

 助けたかったんじゃない。

 罰したかった。

「アタシはさ」

 磐名は優しく笑った。

「いや——アタシらは、そんなアンタを否定しないよ」

 そして、瑞季へ手を伸ばした。

「ようこそ」

 磐名の声は、まるでデシリアがスレイヴの心に語りかけるときのように、柔らかく、そして甘く、瑞季の心の隙間に毒のように染み込んでくる。

「——って、なんでおまえがここにいんだよ!」

 いじめられていた男の子を立ち上がらせた星輝が、磐名の存在に気づき、鋭い声を上げた。

「予告どおり来たんだよ。待ってただろ?」

「待ってねえよ!」

 磐名は肩をすくめ、その視線が、星輝の背後で怯える少年に突き刺さる。

 次の瞬間。

「——こっちだよ」

 声が、背後から聞こえた。

 瑞季の背筋が凍りつく。

 振り向くと、そこに磐名がいた。

 いつの間に移動したのか分からない。

 つい今しがたまで、公園の入口にいたはずなのに。

「純粋だねえ。純粋だからこそ、その恐怖が、深く心に染み付いてる。きっと、一生消えることのない染みだ。多くの人間が、心のどこかに抱えている、ありふれた黒感情」

 磐名は、その手に禍々しく光る黒水晶を握っていた。

 見間違えるはずもない、忌まわしい輝き。

「やめてっ!」

「その子から離れろ!」

 瑞季と星輝が、同時に地面を蹴る。

 だが、数歩も進まないうちに、凄まじい地響きが足元を揺さぶった。

 公園の地面が、巨大な獣の背骨のようにせり上がる。無数の亀裂を走らせながら、分厚い壁となってふたりの行く手を阻んだ。

「なっ……!」

 瑞季は、その光景に息を呑んだ。

 この力には見覚えがあった。

 土を操る力。

 それは、かつてナーサが使っていた……。

「まさか、地のデシリル・ジェム!?」

 瑞季の驚く声は、磐名まで届いてただろう。しかし、磐名は瑞季の声に反応せず、少年に語りかけ続ける。

「そんなアンタには、量産機がお似合いだ」

 土の壁の向こう側から、磐名の冷たい声が響く。

「——『水晶よ、黒を架けろ』」

 壁の向こうから、冷たい詠唱が響く。壁の隙間から、視界を焼くほどの黒い閃光が漏れ、直後、鼓膜を突き破るような少年の絶叫が木霊こだました。

 轟音と共に土の壁が崩れ落ち、舞い上がる砂塵の向こうに現れたのは、もはや人間の姿ではなかった。

 ギヂ、ギヂ、と軋む金属音。公園の遊具——滑り台、ジャングルジム、ブランコ——が、悪夢の中で捏こね上げられたかのように歪に融合し、巨大な異形の怪物と化していた。錆びた鉄パイプが昆虫の足のようにうごめき、ブランコの鎖が意思を持った大蛇のようにとぐろを巻いている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。