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ジェイドレゾナンス ー新星に灯る始まりの血脈、深緑の衝撃ー  作者: 未来が見えない
第二章 刻まれた意識

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第六十一話 ザ・クロック・イズ・ティッキング

【キャラクタービジュアル】

〈ソウ:少年期〉序章、二章

ゲンの一人息子。

挿絵(By みてみん)

「親父の背中はいつも遠い、どうしたら、あんたを超えれるんだ……」

 ――13年前の追憶が秒針を刻み、時間の潮流が逆相方向へ転換していく。


 俺はさっき、新しく出来た村長の家の前でローブを渡され、むず痒い気持ちになった体験をしていた筈だ。そうか、これは追憶なんだ。あの少女に何かされて、俺は今、過去を追体験していた。


 リンが殺されたあの日、脳を直接揺らすような銃弾の音が耳鳴りとして蘇ってくる。

 辺りに広がるのは、無惨に襲撃された村の凄惨な景色。血と硝煙の匂い。

 そこから、立ち直ろうとみんなで必死に泥を啜りながら頑張っていたあの日々が、走馬灯のように駆け巡る。

 ソウがどんどんと成長していく姿を見て、本人には絶対に言えないが、健やかに育ってくれて嬉しかった。愛おしかった。


 様々な記憶が、底の見えない暗闇と澱みの中で、鮮烈な断片となって目まぐるしく移ろい、体験として脳裏に直接フィードバックしていく。

 全てが今、この瞬間に起きたかのように再現され、狂おしいほどの現実感を持って五感を支配する。

 何なんだ、一体これは。

 時間も空間も境の無い、ただ自分という剥き出しの意識だけで感じる、この悍ましい場所は。


 ――淀んだ湖面にパキ、と不吉なヒビが入り、そこからぬうっと一つの顔が浮かび上がる。

 その顔を見た瞬間、俺の魂がぎょっと恐怖に、いや、烈しい拒絶に慄いた。

 こいつは……誰だ?

 だけど、肉体の無い意識体であっても本能で理解できる。心の内で沸々と、マグマのように燃え上がる悍ましい憎悪が、こいつの顔を見た瞬間に決壊した。

 何だ? 今まで忘れていたのだろうか?

 分からない。思い出せない……何か、命に代えても忘れてはならない大切な事を、俺は綺麗さっぱり忘れている気がする。


 ――そうだ。さっきの追憶で、こいつは……。

 こいつが、リンを殺したんだ。

 奴の顔を、今になってようやく思い出した。

 憎い。許せない。まだ世界のどこかで生きてるかもしれないと思うだけで、はらわたが煮えくり返る。

 俺は、亡くなったリンを無惨に殺したこの男のことを、どうして一瞬でも忘れるなどという大罪を犯していた……? クソっ……!


『ガニメデ……』

 水色の坊主頭が、湖面から生々しく、醜悪な笑みを浮かべて浮かび上がる。

 そう、奴の名はガニメデ。

 リンの命を無惨に奪った男。あろうことか、殺した挙句にその尊厳すら踏みにじり、侮辱した最悪のクソ野郎だ。


 完全に、目的を忘れていた。一体どこから記憶が狂っていた?

 村を再建して、そして……何かと出会ったんだ。だけど、俺は片時も奴への復讐を忘れることなどなかった筈だ。それなのに、まるで脳のそこだけがスッポリと抜け落ちたように、思い出そうにも輪郭が霧に消えていく。

『思い出したかしら?』

 背後から急に、鼓膜に直接冷気を吹き込まれるような低体温の囁き。少女の声だ。

 いきなり暗闇から現れた気配に、俺の意識体はビクついて過剰に反応してしまう。


『あら、びっくりさせたようね。だけど、その様子だと思い出せたようね。あなたが、この世で最も殺したい人を。――ねえ、思い出せないようなら、あなたはあの記憶の中で、彼女を殺されたまま、何も知らずに人生を終わらせることになったわよ? 何も成せず、敵も討てず、果てはこの村から復讐のために出るという目的すら忘れて、安穏と暮らす。……それで本当に、満足だったのかしら?』


 彼女は、俺の胸の傷口に指を突っ込んで掻き回すような、残酷で辛辣な言葉を吐き続ける。

『うるさい……! 分かっている、そんなことは!』

 最も触れられたくない核心を容赦なく突かれ、激昂が思考を真っ赤に染める。


『居心地が良くなってきたんでしょ? 泥を捏ねるように、村を再建して、北の方に追手が来ないか怯えながら小屋まで作って……最愛の息子と二人、汗を流す修行の日々。そんな、ありふれた温かい生活でもいいと、復讐なんて忘れてしまえれば楽だと、そう思えてきたんでしょ? あなたの考えてることくらい、私には全て視えているわ。村を再建していく過程で、あなたは牙を抜かれ、変わっていった。復讐よりも、今あるものを守る方を優先した。それは人間の道徳としては、きっと正しいことかもしれない。だけどね、それはただの「その場凌ぎ」の現実逃避なのよ。』


 光のシルエットは歪みながら言葉を紡ぐたびに揺らぐ。俺はその様子を見て苛立ちがとめどなく出てくる。


『お前に何が分かるんだよ! 始まりの神だか何だか知らねえが、他人の生き方にいちいち首を突っ込んできやがって……っ!』

『はあ……あなたって、私の声にちっとも耳を貸さないのね。あの子の方が、まだよっぽど素直に私の言葉を聞く耳を持っているわよ?』

『あの子って……お前! ソウに何かしたのか!!』

 息子の名が出た瞬間、俺の意識が激しく波打つ。

『心配要らないわよ、あなたと同じように深く魂を繋げたわけじゃないわ。ただ、ほんの少し会ってお喋りをしただけ。とても良い子ね』

『お前のせいで、リンは二度も死んだんだぞ……っ! そんな奴の言葉を、信じられる訳ないだろ!』

『そんな大事な因果すらも、あなたは綺麗に忘れていたじゃない。その胸元に大事そうにぶら下げていたネックレスの意味も、本当は分からないままだったくせに。それが何を意味していたのか……憎き仇敵が残していった「置き土産」を、あろうことか守り神のように首飾りに仕立てて身につけているなんて、滑稽だわ。あなたの方がどうかしてる。』

『そ、それは……』

 言葉が詰まる。そのネックレスの出所が、まさかあいつが撃ったものだったことは忘れていた。だが、それはリンの形見でもあるんだ。奴を忘れないため、首飾りにした事も忘れてしまっていた。やるせない。


 光の粒子が、暗闇の中で微かに少女のシルエットを型取りながら、ゆっくりと歩き出し、俺の魂の深淵を見据えるように静かに語りかける。

『覚えていないから、私がいまここで、あなたの眠った魂を呼び覚ましているんでしょ? だけど、あなたは記憶が抜け落ちたあの日から、ずっと私を拒絶している。一番大事な真実には耳を塞いで聞こうとせず、ただ私の力だけを都合よく利用していた。……そんな傲慢が、私相手に許される筈がないわ。約束した筈よ、何にでも相応の代償は伴うもの。それに、まだあなたは全ての記憶を追憶した訳じゃない。――その先は、私の力をもってしても、思い出させることは不可能なのよ』


『分かってる……力を貸してくれるから、割り切って付き合っていただけだ。拒絶するも何も、お前と対話するだけで、こっちは脳が割れるように頭が痛いんだよ。仕方ないだろ。……それで、その先って何だ? これ以上、俺の記憶に何があるっていうんだよ』

『そうね、それに関してはあなたのせいじゃないわ。あなたの意識体を内側から蝕んでいるのは、この国を統べる「レー神王」の力よ。――いいえ、厳密にいうと、レー神王がその禁忌の術で生み出した「化け物」の呪い。私も、そしてあなたも、その毒に蝕まれた。間一髪、私があなたの魂を引っ張り出して助けたものの、あなたの意識体の記憶は、完全に奴に奪い去られた。だから、あなたは最も重要な局面を覚えていない。あなたが辛うじて覚えているのは、ただの視覚的なシルエットだけ。だけど、どうやってその化け物と出会ったのか、どんな理不尽な方法で記憶を奪われたのか……そのプロセスが抜け落ちている。私もあなたと意識を接続している身だから、その領域のことは追えないのよ』


『レー神王って……?それは、王国を支配する、あの王様のことか……!? そんな雲の上の奴が、一体どうして、俺みたいな一介の男をわざわざ狙うんだ……!』

『どうやら、あなたの存在そのものをひどく危険視しているみたいね。より強靭な生命力、より強大な魂を持つ者に狙いを定めているのよ、あの化け物は。そして、恐らくね……今回の、この村の民が――』

 少女の言葉が、急速に遠ざかっていく。

 視界を構成していた光の粒子が、猛烈な渦を巻いて霧散していく。


 ◆

 …………………熱い。息が苦しい。

 底知れない深層意識の沼から、肉体という重い檻へと、意識が急速に覚醒していく。

「ゲンさん!!大丈夫ですか、目を覚ましてくれ!」

 強烈な揺さぶりと共に、鼓膜を突き破るような大声。

 ゆっくりと重い瞼を開けると、そこには――13年という果てしない時を超えた、いや、紛れもない「現在」の姿のラルクが、焦燥に駆られた顔でこちらを覗き込んでいた。知っている筈なのに、勇ましく育ち、狩人になった姿を見て感心する。


 そのそばには、蛇肉を処理しながら見ているサブもいる。頭頂部のトレードマークであるモヒカンはなお健在のようで、今日も彼の焦りに合わせてひとしきり左右に揺れている。


「ん、ああ……。すまん、大丈夫だ……」

 掠れた声を絞り出す。

 鼻腔を突いたのは、炭火でじっくりと焼かれたシクティスの、こんがりと香ばしくジューシーな匂い。脂の爆ぜる音がパチパチと鼓膜に届く。

 しかし、そんな平穏な匂いとは裏腹に、周囲には村の民たちがゾロゾロと集まり、誰もが俺を不安げに見下ろし、青い顔で行方を見守っていた。


 自分が今、確かな現実を実感するまでに、数分もの時間を要した。

 長い。あまりにも長い、そして何やら現実的感がある夢だった。

 背中からは、拭っても拭いきれないほどの冷汗が文字通り湧き出ており、衣服を濡らしている。露出した肌には、恐怖の余韻を証明するように、ぷつぷつと鳥肌が波打っていた。


ここまで、お読み頂き感謝感激の舞レベル200です。出来れば、出来ればで良いんです。私に星を下さい。そうすれば、あなたと私は星と共に宇宙へと昇ることができます。そうです、宇宙の旅へ一緒に行きましょう。私のモチベーションがぎりぎりのぎりなので、私のメンタルケアと思ってポチッと押して貰えたら嬉しいなあああああ。あと、いつも読んでるそこのあなた!いつも見てるでしょおおおお?ブックマークしたらいつも見る時楽だよ?ね、ブックマークしよ、そして星も付けちゃお?そしたら作者喜んじゃうよん。


嘘です。嘘じゃないですけど、読者様に少しでも楽しんで貰えたら私はとても嬉しいです。引き続き作品をお楽しみ下さい!

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