ナナザールへ
僕は王宮を後にし、自宅のある地区まで戻ってきた。自宅のある地区は町工場の職人から学校の教師までさまざまな職場に就いている人々が暮らしている。
そのなかで僕は比較的外交省まで近いという理由でこの地区に住んでいるのだが、人付き合いもあまりなく挨拶を交わす程度だ。
一人暮らしで両親とも時々会う程度で、比較的平凡な暮らしを営んでいる。
自分の住んでいる二階建ての煉瓦造りの一軒家に帰り、すぐさま出かける準備を始める。
「ナナザールまで船でカナタを経由して7日...しばらくかかりそうだ...」
と呟きつつ衣服や日用品を移動用のケースに詰め込んでいく。
ケースは手持ち用の革作りの材質で、見た目以上にしっかりとした作りだ。
ケース2個ほど用意したがすぐにギッシリと詰め込まれ、少しの隙間もない。中身を確認して
「これでよしっと」
と呟きながらケースをガチャっと閉める。
ケースは見た目以上に重く、少し離れた港まで持って行くのはいささか無理があると判断して僕は馬車を手配することにした。
幸いにしてすぐに馬車は見つかり、家の前でケースを詰め込む作業を馬を引く髭面の男に頼んでしてもらってすぐに出発した。
馬車は快調に休日の街中を進んでいく。
馬車の造りは客が乗るゆったりとしたスペースがあるが、所々レンガの段差にガタンッ!と揺れながら僕は道中を進んでいく。
港に着き髭面の男は
「お代は銅貨2枚ね」
と言いながら手を出してきた。
お金は銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚という感じだ。
「ありがとうございました」
と言いながら僕は銀貨を渡す。
「まいどあり!」
と元気よく男が口にして、荷物のケースを下ろして僕に渡す。
僕は荷物を受け取り、目的地に向かう汽船の切符を、船着場の近くにある小さな小屋のおばさんから
「切符は銀貨5枚ね」
と伝えられ、財布から銀貨を取り出して支払った。
「確かにもらったよ」
とおばさんから代わりに手のひらサイズ細長い切符をもらい、僕は思いついたように港で売られていた瓶に入ったお酒を購入し、船に乗った。
船のデッキは木の板を敷き詰めて出来ており、汽船の推進力を出す煙突は細長く聳え立っている。
客も貴婦人から子供まであらゆる年齢層の人々が乗っており、活気付いている。
そのような雰囲気をよそに僕は荷物を客室に運び、お酒を大切に机に置き、出港に備えた。
客室は一人部屋でシングルベッド。小さな机に天井から灯りが点くシンプルな造りになっている。
こんなものだろう、と僕は思いながら出港を待った。
大きな汽笛と共に船は出港した。
ナナザールまでの航路は経由地のシャール領カナタ島を挟んで7日間。
暫くの船旅を僕は束の間の休みとしてゆっくりすることにした。
日付は経ち、5日後経由地のカナタに着いた。
カナタ島ではシャール王国本土に比べてナナザールにも比較的近いこともあり、ナナザールの国民も多数住んでいる特徴がある。服装も暖かいこともあり、半袖姿が目立つ。
客の乗り降りや船の整備の為の少しの休憩の間、カナタ島に住んでいる僕に情報提供をしてくれる情報屋に話を聞く事にした。
僕は船を降りて船着場の近くにある小さな木で作られたバーに入った。
バーの奥に情報屋の少し白髪がかった男が座っており、港で買っていたお酒を片手に男の隣に座った。
「ほら、好きだろ、このお酒」
と言いながら僕は情報屋にお酒をテーブルに置いて渡す。
「ありがとうな、で今日は何が聞きたいんだ?」
と僕に尋ねる。
「ナナザールで最近気になる動きとか変化はなかったか?」
「そうだな...確か盗賊団が最近活動を活発にしているみたいだな。金目のある奴を狙うみたいだぜ」
「何か他に情報はないか?」
「確か、盗賊団の一人が捕らえられて今は牢屋にいるっていう話だぜ」
「僕が2年前にナナザールに行った時はそんな事なかったんだけどな...」
「なんでも突然現れて悪さをしているみたいだぜ」
「そうなのか...僕も気をつけないとな、分かった、ありがとう」
「また、いつでも来いよ」
と会話をして、僕は立ち上がり、バーの扉を開けて眩しい太陽の日差しを手で防ぎながら船に戻った。
「盗賊団と今回の件...何か関係があるのか?調査してみてもいいかもしれない」
と呟きながら歩いて自室に帰った。
それから2日後、ついにナナザールが船から見えてきた。
ナナザールは観光が盛んなだけあって船のデッキから眺めても人々が行き交い、活気付いているのが見てとれる。
シャール王国とは違い、暖かいナナザール。人々も薄着の過ごしやすい格好をしている。
僕も気候に合わせて半袖姿の薄着に着替えて船を降りる準備をした。
船の大きな汽笛と共にナナザールの港に汽船は着岸し、僕は荷物を持って降り立った。
すでに夕暮れということもあり、僕は近くの宿屋を探す事にした。
幸い何度も仕事で訪れていることもあり、街並みも見覚えがあるところばかりだ。
周囲は薄暗くなっていたが、人通りも多く、店の中が通りから丸見えの作りの酒場では人々の笑い声が盛んに聞こえる横を通り過ぎる。
僕は入り口でランプが灯っていた風通しが良さそうに木で作られた大きな入り口に、床や壁も丸くて太い木材で作られた宿屋に入った。
中の若くて日焼けした優しそうなオーナーが
「いらっしゃい」
と声をかけてきた。
「一人空いてる?」
「空いてるよ、食事はどうする?」
「いただくよ、すぐに持ってきてくれ」
「はいよ」
と会話をし、僕は部屋に入った。
部屋は床から天井まで木の作りで、窓は大きく風通しがいい。
ベッドも白いシーツにゆったりとした大きさだ。
テーブル付きのベランダも備え付けられている。
すぐに大きな骨つき肉とナナザール名物の小麦をこねて伸ばして焼いて作った生地に特製のソースをつけて食べる食べ物をベランダに運んでもらい、月に照らされ、通りに灯されたランプや活気付いている人々を眺めながらテーブルに就いて食事をしている。
「明日から本格的に忙しくなるぞ、少しでも手がかりを見つけられれば...」
と考えながら食事をし、僕は次の日に備えて体を休めた。




