シャール王との謁見
シャルテは外交省を後にし、王宮に向かう道を歩いている。
季節は冬を過ぎ、暖かくなり出してはいるが、まだまだ肌寒く、行き交う人は厚着をしている。
道はレンガで整備されていて歩きやすい。外交省から王宮へは馬車や最近発明された四輪で走る車などが入り混じり、活気付いている。
しかしこの王国も以前、内戦が数多くあり、その度に街並みは破壊と再生を繰り返してきた。
先代の王が即位されてからは国も地方では小さな火種はあっが安定して首都シキを発展させ、近隣との交易も積極的に行った。
その結果、民の暮らしは豊かになりつつあり、大陸の中でもここ数十年の中でもっとも成長した国こそ、このシャール王国である。
そのような歴史を歩んできたシャール王国に何が起こったというのか、シャルテは歩みを進めながら頭の中で考えた。
「何か隣国と交易でトラブルか?」
「王宮内で何か問題でも?それならなぜ僕が?」
あらゆる可能性を脳内で巡らせたが思い当たることはない。
考えながら歩いていたその時だった。
薄茶色の帽子にブルーの目、少し傷んだ上下の服に身を包んだ男が話しかけてきた。僕は歩みを止める。
「よお、シャルテ、休日に何してるんだ?」
親友のバーゼルだった。
バーゼルは僕の学生時代からの古い仲で、時々会っては呑みに繰り出すほどの仲だ。
僕はバーゼルの問いかけに
「ちょっと用事があるんだ。それこそ君は?こんな朝早くに何をしてるんだ?」
と答える。バーゼルは
「俺は妻に言われて市場に買い物に行く途中なんだ。全く休みの日くらいゆっくりしたいぜ。」
とため息混じりに答えていた。
「それはご苦労様。買い物を早く済ませて休めばいいさ。」
と話し、僕は先を急ぐためバーゼルに
「用があるからまた今度呑みに行こうよ。」
と伝える。
バーゼルも
「おうよ!」
と答えて二人は短い立ち話を済ませてそれぞれの目的地に向かって歩みを進めた。
「僕も休みの日なんだけどな...昨日も山積みの仕事を済ませて家に帰ったのに、叩き起こされて...はぁ...」
とシャルテはため息混じりに周囲の休日に街を歩く人々に聞こえない程度の声量で小さく呟やいた。
そうこうしているうちに王宮が目の前に迫ってきた。
王宮は非常に広くて大きい。
外交省と比べたら十数倍以上の面積はあるだろう。
よく王宮の式典で人々が敷地に招かれたりするくらい、街の人々にとっても馴染み深い場所だ。
その王宮を守っているのが各地から集められた選りすぐりの兵士達だ。
彼らは普段入り口の前に立ち、式典で人々を招き入れる時以外は関係者以外の一切の人の出入りを禁じている。
見た目は非常に屈強な体つきで僕が立ち向かっても一瞬で跳ね返されるだろう。
服装も頭に長い被り物を被り、綺麗な白色の服に身を包んでいる?
手にしている武器も銃剣がキラリと輝き、顔が映し出されるくらい手入れがされている。
そんな雰囲気の王宮入り口に僕はたどり着いた。
門は閉まっており、入り口には二人いたがそのうちの一人の兵士にシャルテは
「シャール王の命により王宮に参りました。」
と伝えた。
兵士は不思議そうな顔をして、もう一人の兵士に
「そんな話聞いていたか?」
と訪ね、問いに対して
「いや、聞いてない。許可がなければ入れないぞ」
と返答した。
とその時だった。王宮に通じる道から一人のスキンヘッドで眼鏡、王の側近を示す薄緑のローブを身に纏った長身の男がやってきて、兵士に
「よい、その者は王が呼んだ。通しなさい。」
と伝え、兵士たちもシャルテを閉ざされた門を開け、王宮に通した。
このシャルテを招き入れたスキンヘッドの男は名をマーサといい、先代の王の時代から仕える、王宮では古参の部類に分けられる。とはいえ見た目も若く、動きも身軽である。
マーサはシャルテに
「急な呼び立てに応じていただき感謝する。王室で王がお待ちです。」
と声をかけられ、王室に案内されている。
王室の中は通路が赤い絨毯が敷かれており、両サイドの壁には絵画やテーブルに乗せられた壺など、街とは違う気品ある雰囲気を醸し出している。
数ある部屋や等間隔に配置された兵士の前を通り過ぎ、奥にある王室に辿り着く。
マーサは扉をノックし、
「王様、シャルテ様をお連れいたしました。」
と中の部屋に伝え、中から
「通せ。」
と短い返事が返ってきた。
マーサは扉を開き、シャルテに対して一言、
「お入りください。」
と伝え、シャルテだけを部屋に通し、扉を閉じた。
シャルテは広々とした部屋に赤い絨毯が敷かれ、陶芸品や王の執務用の大きな机、壁がそのままガラスに変わったのではないかと思わせるほどの大きな窓に太陽の光が差し込み、ポカポカとした部屋の中でシャール王は執務用の大きな机の向こう側に椅子に腰掛けている。
シャール王は王冠を机に置き、王用の分厚いマントも椅子に掛けて砕けた雰囲気の格好をしている。
顔立ちは鼻が高く、目も大きく、髪の毛はくるくるっと全体的に巻かれている髪型をしている。
身体の大きさも入り口にいた兵士に引けを取らない大きく、がっしりとした体格である。
シャール王は
「シャルテ、久しぶりだな。元気していたか?」
と砕けた雰囲気で話しかけてきた。
シャルテは問いに対し、
「元気にしていたよ。まあこうして呼び出されたり忙しいけど。そういえば、王宮に向かう道でバーゼルに会ったけど、元気そうだったよ。」
と返答した。
シャール王は
「元気だったか、それは良かった!バーゼルも元気か!あいつはさっぱり会いにこないから気にしていたんだ。安心したよ。」
と話した。
そう、シャルテとシャール王、バーゼルは学生時代からの付き合いで旧友の深い仲である。
「数ヶ月前の式典以来かな?シャールも元気そうで何よりだよ。」
と僕は答える。
続けて僕は、
「今日は急にどんな用事なんだ?突然呼び出されたんだけど、何かあったのか?」
と聞いた。
シャール王は砕けた雰囲気から、姿勢を正して、一呼吸おくと、
「内務省大臣の娘がナナザールに旅行中に消息を絶ったんだ。付き人もいたようだが、目を離した隙に見失ったらしい。事が事だけに、信頼できるお前に消息をつかんでほしくてな。こうして呼び出したんだ。」
と伝える。
僕は
「どうして僕なんだ?他にも信頼できる人はいくらでもいるだろう?それに僕は外交官だ。人探しはやったことない。」
と話す。
王は
「この国も発展して来てはいるが、一枚岩じゃない。内務省大臣は味方だが、信頼できる人は限られているんだ。それにお前はそこらの奴と違って仕事でナナザールにも何回か行っていて土地勘があるだろ?」
と話した。
僕はしばらく沈黙し、困りながらも、
「確かにナナザールはある程度知っているし、知り合いもいる。だが、人探しは専門分野ではないから見つかるかは分からないよ。」
と話す。
「お前しか適任はいないと思う。ナナザールに行って調べてくれ。必要な手配はするし、支援もする。ただ、事の重要性から一人で行ってもらう。慣れているだろ?」
と王は話し、
僕は
「仕方ない、やってみるよ。期待はするなよ。」
と返事をした。
そして、王は
「彼女の名前はフィーネという。荷物も護衛が全て持っていて、携行しているものは無いそうだ、銀髪のロングヘアが特徴的だそうだ。頼んだぞ」
とシャルテに伝え、外に控えていたマーサを呼び、扉を開かせ、シャルテをナナザールに旅立たせるため部屋を後にさせた。
シャルテは困惑しつつも、マーサの案内で王宮を後にし、部屋に戻り、必要な荷物や準備を行い、ナナザールに向かうため首都シキの東側にある港へ向かった。




