E級冒険者の仕事
夢を叶えるには何が必要だろう?
才能?
努力?
それとも運?
ノース・ピース・ウエストは思う。
夢を叶えるために必要なもの。
それは何を差し置いてでも夢を叶えたいと思う傲慢さではないかと。
クリスタルバッファローを倒してから一週間。
アキナはノースの家でわめきながら朝ごはんを食べていた。
「なんでみんな私たちを認めてくれないのよ」
「まあ、アキナみたいにかわいい子がクリスタルバッファローを討伐したなんて誰も思わないよ」
「ノースさんもノースさんよ。誰も信じてくれないのをさも当然のように受け止めて!こうなったら絶対にドラゴンか魔王を討伐してやるんだから!」
アキナは今日もそうわめきながらご飯を食べている。
しょうがないのでノースはいつものようにアキナを観察しつつかわいいなあと思いながらその光景を見ていた。
ノースとアキナはクリスタルバッファローを討伐した後で冒険者ギルドに赴いた。
ギルドでは店員がクリスタルバッファローをやっつけて、カミラにプロポーズしたことで大騒ぎになっていた。
その場は良かったと思ってそのまま立ち去ったのだが、後日、ギルドに二人が店員と一緒にクリスタルバッファローを倒したと伝えても誰も信用してくれなかった。
酒場では店員がノースとアキナと自分でクリスタルバッファローを倒したことを語っていたが、酔った客はほら話と思って、完全にスルーしていた。
結局、誰からもアキナがクリスタルバッファローを倒したなどということは信じてはもらえなかった。
ノースはノースで、いつものことというように、いつもの仕事をしている。
「いいか、アキナ。この世界は、俺の言うことの大抵を誰も信じてはくれないんだ」
「なんで?」
「まあ、一言でいうと、俺が素晴らしすぎるからだ。俺がものすごくすごい魔法使いで、初級魔法を使うものなら、この一帯はたちまち火の海になってしまう。でも、そんな恐ろしいこと、誰も信じたくないから、だれも俺の言うことをきかないんだ」
「でも、それって例えばノースさんが本当に魔法を使ったら、すぐわかるんじゃない?」
「だけど、使えば火の海になる。だから俺は使わないんだ。俺は大賢者様だからな」
「へえ。でも、それってちょっと悲しくない?」
「悲しい?」
「だって、誰も信じてくれないなんて、私は嫌よ。やっぱりみんなに認めてもらいたいな」
「まあ、他の所で俺はしっかり認められているから、大丈夫だ」
「他の所?」
「まあ、冒険者になったら、俺の凄さもわかるだろう」
ノースがそういうので、アキナは冒険者ギルドへと行き、冒険者になる手続きをした。
ギルドの受付でカミラの前に行くと、滞りなく、ギルドカードを作ってくれた。
「最初はE級から始まって、C・B・A・Sと順番に級が上がって行くわ。冒険者ギルドとしてはできるだけ多くの魔物を討伐して欲しいから、E級の仕事はすぐにクリアして、どんどん魔物討伐してってね」
「ちなみにE級の仕事はなんですか?」
「簡単にいえば、町内の御用聞きよ。でも、そんなことは子供だってできるから、3ヶ月E級のままなら解雇されるわ。普通はね。5年もE級をしている馬鹿がいるけど、そんなのは絶対見習っちゃいけないからね」
カミラはノースを睨みつけて言う。
「まあ、それを5年も続けられる俺の凄さって言うのは既に分かっただろう?」
「はあ?何言ってるの?あんたがE級でもギルドに居続けられるのは、その神業的なマッサージのおかげなんでしょ。この前ギルド長から聞いたんだからね」
「とにかく、一度ノースさんと頑張ってみるから」
アキナは早速ギルドの仕事を始めた。
まず、はじめはオフナーさんちの犬の散歩である。
30分ほど犬の散歩をするだけで依頼完了の仕事だ。
オフナーさんちの犬はゴールデンレトリバーに似た大型犬だったが、気性も優しく仕事自体になんの問題もなかった。
30分してアキナがオフナーさんに犬を返そうとしたときに、ノースから待ったがかかった。
「ノースさん、どうしたの?」
「アキナ、お前はE級の仕事を舐めとるのか?」
「なので?ちゃんと散歩したじゃない」
「いいか、それだけでは二流のE級冒険者だ。俺みたいな一流の冒険者なら、そこで終わらない」
「?」
「まず、オフナーさんがどうしてギルドに依頼を出したかをまず考えるんだ。そしてその頻度も。
オフナーさんは大体週一で犬の散歩の依頼を出している。けれど、オフナーさんちは共働きで犬の散歩はロクにできないんだ。本当なら毎日散歩をさせたいけれど、それは金銭的に難しい。だからせめて週に一度は沢山散歩をさせてやりたいと思ってオフナーさんはこの依頼をしているんだ。
だから、俺たちみたいな一流のE級冒険者はただ、散歩をするだけでなく、公園で犬がクタクタになるまで遊んであげるのが仕事だよ」
ノースがそう熱弁を繰り出すので、アキナはそれから三時間、チートの力をフルに使って犬がクタクタになるまで遊んであげた。
オフナーさんには喜ばれた。
次はコヨネちゃんのおばあちゃんちの庭に生えている草をむしる仕事である。
草むしりは簡単だった。
普通の冒険者は初級の火魔法を使って草を焼いていくそうだが、アキナは魔法の使い方を知らないので、軍手をはめて草を一本一本抜いていった。
草は根の深いものもあったが、彼女のチートな力であっさりと抜けていく。
今度はノースに文句を言われないように、ぺんぺん草一本残さずに草をひいた。
庭一面がきれいになったとき、ノースから待ったがかかった。
「あほか。お前はE級の仕事を舐めとるのか?」
「なんで?ちゃんと庭をきれいにしたじゃない」
「いいか。その浅ましい考えは二流のE級冒険者だ。俺みたいな一流の冒険者なら、そうはしない」
「?」
「このおばあちゃんはギルドの常連さんだ。利用頻度も高い。今は草むしりと称して依頼を出しているが、よく雑草の生えてない庭でも草むしりの依頼をすることがあるんだ。
このおばあちゃんは実はただ寂しいだけなんだ。だから、雑草の草むしりはそこそこにしておいて、しっかりおばあちゃんの話を聞いてやるんだ」
「それができたら一流のE級冒険者なの?」
「いいや、そこまでなら一流の一歩手前だな。俺みたいな一流のE級冒険者なら、話を聞くだけでなく、時には転倒予防体操や、ボケ防止の体操を取り入れたりもする。
ただし、これはコヨネちゃんのおばあちゃんに限ったことであって、ムラル君のおじいちゃんには、しっかりと草むしりを行なった上で、無言で家の掃除と手料理まで作る。
これが出来て一流のE級冒険者だよ」
ノースがそう熱弁するので、それから2時間、アキナはおばあちゃんの話をうん、うん、頷いて聞いてあげた。
おばあちゃんにとても喜ばれて、おこづかいまでもらった。
最後は男子学生オーボス君の引越しである。
オーボス君は家を街の真ん中から西端に引っ越すことにしたそうで、それのお手伝いを依頼されたのだ。
家財道具を荷車に積めて、新しい家に引っ越すという仕事だった。
アキナは自分のチート能力でひょいひょいと荷物を運び、さっさと荷車にのせてしまった。
ここでもノースから待ったがかかる。
「お前はたわけか!」
「どうして?早く引越しできたほうがオーボス君も喜ぶでしょ!」
「まあ、普通はな。彼も早く引越しをしたいから、ギルドに依頼を出しただろう。ただ、依頼をしてみてきたのが、可愛いアキナだったらどうする?そのアキナが本の並んだままの本棚を軽く持ち上げたら、絶対引くぞ。女の子のイメージが崩れてしまうぞ」
「そんなことないと思うけど」
「いいや、お前は男子学生の繊細な心を理解していない。
お前がギルドから来た時点でもう仕事の内容はガラリと変わったんだ。後は全てを男子学生に託して、お前は『すっごーい』だの、『さすがですね』だのと言っておけばいいんだ。男子学生が一人で運べない物は俺が手伝うから。そこを守って仕事をしてくれ」
ノースがそう熱弁をするので、荷車が新しい家について荷物を下ろすときには一切てつだわなかった。
ただし、『いい家ですね』とか『力持ちですね』とか『手伝って頂いてありがとうございます』とか、言葉を言ってみた。
オーボス君はとても喜んでいた。
最後にオーボス君がアキナを食事に誘ったが、ノースがアキナ俺の彼女ですと伝えたので、彼は泣く泣く食い下がった。
以上でE級の仕事は終わった。
アキナは冒険者ギルドに行って仕事の清算を行なった。
「どう?E級の仕事は?」
尋ねるカミラにアキナは首をふる。
「もう、嫌。早く別の仕事がしたい」
「討伐系?それはこちらとしても嬉しいのだけど、あいつと一緒じゃあだいぶ心配ね。だれか他に一緒にやってくれる人がいればいいんだけど」
「ねえ、ノースさん、誰か知り合いの冒険者いない?討伐を教えてくれるような人」
「大丈夫。それもちゃんと俺が教えるから」
「あんたが、教えられないでしょう。この万年E級冒険者が!」
「でも、俺も知り合いなんてそういないが」
ノースが悩んでいると、二人の冒険者が声をかけてきた。
「なんなら、俺たちが教えましょうか?」
彼らはセイ・アーレンとグルダット・スペースだった。




