〜第2節〜
「ところで沖田さんってどこまで現状を把握してるの?」
夕飯前に召喚儀式を行っていたため食事をしながら情報共有を行っていた。
「私たちサーヴァントは召喚される際に聖杯よりある程度の知識を受け取ります。」
沖田さんは味噌汁を飲み干して少し間を置いた。
しれっと一緒にご飯食べてるけどサーヴァントって食事するの…?
「ここが日の本…日本であり私の生きた時代から100年ほど経っていること。これが聖杯戦争という魔術師の儀式で最後の一人が願いを叶える事ができること。私が把握してるのは、こんな所でしょうか。」
言い終えると外を眺めて、視線をテーブルに戻しお茶を啜っていた。
「私からもマスターに質問してもよろしいでしょうか?」
とても真剣な面持ちでこちらを見つめていた。
自分に答えられるだろうかと悩んだが喚いていても仕方なく小さく頷いた。
「その…召喚された際に、私が女である事に驚かれていましたが…後世で私って有名なんですかね!?」
身構えていたせいで、呆気に取られていた。
「有名、だと思うよ…?私あんまり歴史に詳しくないけど、時代劇とかで見るし。天才剣士って。」
沖田さんは照れながら「いやいや天才だなんて」と嬉しそうに笑っていた。
その姿は人斬りとは思えないほど普通の少女に見えた。
そうだ。
「ねぇ沖田さん。私の服あげるから着替えない?多分その羽織で真名がバレる可能性あるし。」
体格的には同じくらいだし服のサイズは問題ないだろう。
「そうですね。名前まではバレずとも新選組と見破られるだけでも不利になりますし。魔術とか使えませんしね。」
自分の部屋に戻り服を見繕う。
普段は高校の制服に身を包んでいるため服への頓着がない。
なんというか我ながらセンスがないな。
沖田さんから「できれば動きやすい服でお願いします。」と言われたが…ジャージは流石にだよな…。
無難に白い半袖のシャツと、薄手の黒い半袖の上着、ショートパンツをあげた。
「おぉ!これが現代の装いですね!ありがとうございます。マスター」
「気にしないで。買ったものの着ることがなかった服だし」
ここまで喜んでくれるとは思っていなかった。
「マスター、よろしければ散歩でもいかがでしょうか?この辺の地形についても把握しておきたいですし」
友達ができたような気になって忘れていた。
彼女を召喚できるようになったという事は聖杯戦争は開始しているのだ。
食器を下げて二人で周辺を歩いた。
ここら一帯は山々に囲まれた盆地となっており田舎な事もあってまだ20時なのに人っ子一人いない。魔術の隠匿という意味では都合は良いのだが街灯の数も少なく多少不便さはある。
「これが今の日本ですか。生前は九州に赴く事がありませんでしたが、いいものですね」
沖田さんはどこか遠くを眺めながら、そう呟いた。
しかし感傷に浸る間を許さなかった。
「マスター!私の後ろに!」
沖田さんは刀を構えた。
背後から微かに音が近づいてきていた。
暗くて姿までは見えない。しかし音だけは徐々にこちらへ向かってきている。
その音の正体は、数秒も経たず月明かりに照らされ、姿を現した。
白髪で長い髪の女性は馬から降りた。
「我は毘沙門天の化身にして越後の軍神、長尾景虎!」
高らかに真名を名乗った…。
聖杯戦争って真名は隠すものじゃないの…。
「わざわざ真名を明かしてもらえるとは。しかし、長尾景虎ですか…。」
「ごめん、誰だっけ?」
小声で耳打ちすると沖田さんは目線を逸らさず教えてくれた。
「マスターの時代にも伝わっているかと思いますが上杉謙信とも言われる武将です。」
上杉謙信…。戦国時代の武将だったかな。
「なぜ、私たちがここにいると分かったのですか?」
沖田さんの言葉でハッとした。
私たちは歩き始めて三十分ほどしか経っていない。バレていたのだろうか?
「そんなもの知りませんよ。ちょっと散策して敵がいたら殺す、その程度のつもりでしたが。まさか本当にサーヴァントと鉢合わせするとは、やはり運は天にありですね!」
「「……」」
まさか、ただ鉢合わせしただけとは…。
「(マスター、ここから先は念話にて失礼いたします。)」
沖田さんの声が頭に直接響いてきた。
「(まずは私から少しお下がりください。中々に手強い相手ですが、恐らくクラスはライダー。そのライダーが馬から降りた今なら叩けるでしょう。)」
私は数歩、後ろに下がると沖田さんは正面から突っ込んだ。
「おやおや、正面から来られるとは舐められたものですね。」
景虎は右手に持つ槍を構えた。
「縮地!」
沖田さんの掛け声と共に景虎との距離が縮まる。懐に入り放った一太刀は景虎の左手に持つ刀で弾かれた。
「素晴らしい俊敏性ですね。しかしその程度では私の首は取れません。」
今度は景虎から仕掛けてきた。
沖田さんほどの速度はないが、距離を取れば槍で、詰めれば刀で、絶え間ない攻撃が襲う。
刀でいなし、避けて反撃をするも通らず。
拮抗状態が続いた。
令呪でブーストをかけるべきか?
開戦前の白柳家当主の言葉を思い出していた。
「本来の聖杯戦争であれば令呪は3画だが、これより我々の行う聖杯戦争は2画しかない。くれぐれも使い所を間違えないように。」
ここで使えば後がない。だけどこのままでは沖田さんは決定打を叩き込めない。
あれこれを考えていると、甲高い金属の弾く大きな音が聞こえた。
沖田さんが景虎の刀を強く弾いた音だった。
「(マスター、初日から申し訳ありませんが真名解放いたします。)」
「(私の方こそ、バックアップが全然できなくてごめん…。)」
沖田さんは深く深呼吸を二度行っていた。
景虎は次にどう仕掛けるのか様子を伺っているように見える。
「一歩音超え…二歩無間…三歩絶刀!『無明三段突き!』」
一瞬、沖田さんの姿が消えて次の瞬間には景虎の脇腹を削っていた。
景虎も攻撃前に危険を感じたのか避け致命傷にはならなかった。
「いやいや、油断したつもりはありませんでしたが…このまま戦闘続行は厳しそうですね。」
脇腹を抑えながら乗ってきた馬の元へ向かっていた。
「逃さん!」そう言い沖田さんは追撃を試みたが「コフッ…」と吐血し膝をついた。
「お互い、これ以上の戦闘は難しいでしょう。此度は引き分けといたしましょう。さらば!」
景虎は去って行った。
私は沖田さんの元へ駆け寄った。
「大丈夫!?治癒魔術は得意じゃないけど待ってて」
「大丈夫です…。恐らく治癒魔術でも治せませんので…。これは、私の体質…」
言葉の途中で咳き込んでいた。
「霊体化して休んで大丈夫だよ。」
「…いえ、この程度…。それにまた、いつ敵が来るか分かりません。実体の方が感知しやすいので…」
仮に沖田さんが落ち着いたとしても、ここから歩かせるのは気が引ける。
「私がおぶるから、乗って?」
沖田さんに背を向けしゃがんだ。
「マスターにおぶらせるなんて」と抵抗してたものの「令呪を使ってでも、おぶって帰るよ」と言うと渋々、私の背中に乗った。




