少し退屈
ゼノスとの手合わせでレキはかなり元気になったが、レキに着いてきたライラはかなりつまらなそうであった。
「ライラさん、大丈夫ですか?」
ライラの不調にセラスが気がつき、隣に行って声をかけるとライラは慌てて笑顔になった。
「別に。私こういうのよくわからないから、ちょっと退屈で」
「そうですよね! 剣技やってない方にはちょっとわかりにくいですよね!」
セラスはライラの隣で、ゼノスとレキの手合わせの解説をしようとした。
「あ、今レキさんが出したのはオルドの型の防御ですね。あの人手数が多いので手合わせするのは難しいんですけど楽しいんです」
「ごめん、私そういうのよくわからないかも……あの、そもそも、そんなにあいつってすごいの?」
ライラの根本的な疑問に、セラスは衝撃を受けた。
「す、すごいというか何というか……生きる宝、ですよ」
「とてもそうには見えないんだけど……」
ライラの言いたいことも、セラスにはよくわかった。クライオに亡命してきた当初は、どう見ても「腕っ節の強い訳ありのごろつき」以外の何者にも見えなかった。リィアで上級騎士を務めていた、というのもセラスは少し疑っていたくらいだった。内に秘めた何らかの才能を持っている、とセラスが確信したのはアイルーロス家で手合わせをしたときであり、剣技を通じなければ彼の凄まじさは理解し難いと感じられた。
「そうですね……ライラさんはエディア出身ですよね。デイノ・カランの名前はご存じで?」
「私そういうの本当に興味なくて……エディアにいたときも嫌いだったのよね、兵隊さん」
取り付く島がなさそうなライラに説明のきっかけを作ることをセラスは諦め、一から説明することにした。
「ええとですね。簡単に言うとレキさんのお爺さんはとてもすごい方なんです。本にもなっているくらいの、剣の達人です」
「ふうん」
「ところが、災禍でリィアが侵攻してきて、エディアの王家とレキさんの親族全員を処刑したんです。それでレキさんは身分を隠して逃げて、ああなっています」
「それは、わかるんだけど……」
「それでですね、そのすごいお爺さんの剣技の伝承が途絶えているんです。おそらく今一番正確に当時のことを語れるのが、レキさんだけだと思われるんです」
「つまり、そのすごい剣技が復活するっていうこと?」
「そうです! 今はなきエディアの公開稽古が復活する可能性もあるということです……ああ、すみません」
思わず力が入ってしまい、セラスは一度姿勢を正して咳払いをした。
「そういうわけで、剣を志す全ての者はレキさんのことを大事にしていかないといけないんです。実際、いろいろありすぎるのですぐには出来ないでしょうけど……でも、やはりあの闘技場に志の高い剣士たちが集まって切磋琢磨し合う圧巻の光景の再現が可能となると、剣を持つ者として心が躍らないはずがないのです!」
やはり力が入って早口になってしまったセラスを横目に、ライラはレキを見た。久しぶりの鍛錬で疲れ始めたレキにゼノスが活を入れ、そこにラディオが混ざっていた。これほどまでに幸せそうなレキを、ライラは見たことがなかった。
「そっか……そうよね。剣が好きなんだものね。元からそういう暮らしをしていたんだものね。それじゃあ、きっと……」
ライラは何かを言いかけて、そこで止めてしまった。セラスはライラが納得したのだろうと思って、自分も模擬刀を手にした。
「ちょっと、私も混ぜてくださいよ!」
それからセラスも混じって、レキはたっぷり手合わせを行った。その途中で何度か感極まって泣き、その度に皆から励まされていた。その様子を、ライラはずっと修練場の端から眺めていた。
***
鍛錬が終わり、レキが夢心地で修練場の床に座り込んでいるとゼノスが上から声を掛けた。
「よし、さあ行くぞ」
「行くって、どこへですか?」
「言っただろう。話は全部後だ、と」
ゼノスはレキの腕を捕まえた。
「あ、あの……今日はこれで終わり、というわけには……」
「そういうわけにいくか。この際だからじっくり話を聞かせてもらうぞ」
「いやでも、その、心の準備が、あの」
「さっきので十分身体と頭は解れただろう。ほら、行くぞ」
ゼノスはレキの腕を引っ張った。
「で、でも……あの、その、あの」
「四の五の言うな。約束しただろう、全部話すって」
「あ、あの時は……確かにそう言ったかもしれませんけど、本当に話せるなんて思ってなかったんですよ……」
「それなら念願叶ったり、だ。ほら行くぞ」
「ええー……だから、心の準備が……」
「そんなもの、実践あるのみ鍛錬が全てだ。いいから行くぞ」
それでも動かないレキは、ついにゼノスに引きずられるように連行された。
「いや、あ、いーやー、あの、無理……無理ですってば!」
その様子を、セラスとライラは不安そうに眺めていた。ゼノスはレキを用具室に放り込んで、その扉を閉めた。
実はゼノスはフォンティーアらから、レキについて明らかになっていないことを聞き出すよう要請を受けていた。実はこの修練場もシャイアの手配で、全てはこの「事情聴取」のために動いていた。
それに合わせて、ゼノスもレキに尋ねたいことがいくつかあった。例の「ティロ・キアン」の資料で空白になっている部分について、どうしてもゼノスはレキを追求したいと思っていた。狭い用具室に用意しておいた椅子にレキを座らせ、ゼノスは出口を塞ぐように椅子を置いて座った。
「さて、どこから話を聞くべきか……」
ゼノスを前に、レキは真っ白な顔で小刻みに震えていた。自分のしたことに向き合う以上に、全てを話すと言った以上にレキは「されたこと」に向き合うのが恐ろしくて仕方なかった。
そういうわけで、ゼノス大先生の再登場です。トライト家について彼の口を割らせるには、現状適任が彼しかいません。本気が出せてよかったね!!(作者的に上級騎士編のそこを書くのが一番辛かったので)
次話、ゼノスからの聴取になります。基本的に今までの振り返りらしいものになりますが、ゼノスから新たな視点が提供される予定です。また、レキ視点での現状の確認にもなりますので全部話してもらいましょう。
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