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【救済ノワール3】救世主症候群・解明編  作者: 秋犬ころ
追憶編 第2話 剣聖復活
8/21

才気

 ゼノスと久しぶりに手合わせできるということで、吹っ切れたレキは嬉々とゼノスの前に姿を現した。


「ようやく本気を出すか。待ちくたびれたぞ」

「それは本当に申し訳ありませんでした……でも、どこまで調子が出せるかちょっとわからないです……」


 ここ最近はライラの部屋でほとんど寝たきりの生活を送ってきたので、レキはゼノスとの手合わせが不安であった。


「その辺はこっちで合わせよう。とにかく、まずはエディアの型を見せてくれ」

「はい。隊長はエディアの型はご存じで?」

「甘く見るな。エディアに赴任した時にこっそりエディアの型は習得している」

「こっそり、ですか?」

「ああ、公開稽古にも参加したことがあると言っていた同僚がいてな。大っぴらにエディアの型の稽古はできなかったから、苦労したものだ」


 自身がいなくなった後のエディアの話を聞いて、レキは寂しそうな顔をした。


「そうですか……本当は僕がもっと早くエディアに戻っていれば、違う形で何とかできたかもしれないんですよね」

「お前は気にするな。それより、デイノ・カラン直伝のエディアの型だ。今は試合のことだけを考えろ」

「わかりました」


 レキは懸命に公開稽古のことを思い出し、当時の父の姿を自身に重ねた。いつもそばで見ていた、憧れの父を思い出すことで少しでも剣技の勘を戻そうとしていた。


「勝てばいいんだ、勝てば……僕の祖父はよくそう言っていました。だから、基本的になり振り構わないのがカラン家独自のやり方です。実はエディアの基本の型よりかなり複雑で、実践的だったんですよ」


 レキはそれまで忘れようと勉めてきたエディアでの記憶を次々と思い出していた。御三家にいるなら基本の型はもちろん、それ以上のことが求められた。特に群を抜いて覚えの良かった「ジェイド」はすぐに年長の子供たちに混ざって手合わせをして、公開稽古においては成人の部に参加させられるなど厳しい鍛錬をこなしていた。


「そうか。その公開稽古に一度参加してみたいものだったな」

「隊長なら、すぐ祖父に気に入られたと思います。祖父は新しいもの好きだったので、気に入ったものを何でも取り入れる人が好きでしたから」


 ゼノスと話しているうちに、レキは手合わせをしたくてたまらくなった。幼い頃の当面の課題は、自分より大きな相手にどう立ち向かっていくのかであった。今立ち向かわなければならないのは、自分自身を見失っていた過去の自分のようであった。


「よし、それじゃあ始めるぞ」


 ゼノスの合図で、レキが飛び出した。ゼノスはレキの得意とする低い初撃の攻撃を警戒したが、レキは真っ直ぐゼノスの懐に飛び込んできた。その動きはリィアの型そのものであった。


「すみません、やっぱり一番馴染んでるのがリィアの型なんです。もう少し勘が戻るまで付き合って頂けますか?」

「もちろんだ、リィアの型なら負けないぞ」


 ゼノスもレキに応じた。その様子を見て、セラスは目を丸くした。


「……すごい! もうすごいんですけど、あれでまだ本調子じゃないんですよね!?」


 ゼノスとレキの所作はセラスから見て「完璧」であり、芸術のように感じられた。


「ああ。あの二人の手合わせには誰もついて行けなかった。何というか、圧倒されるのだ。ティロ、いやレキの実力はもちろんだが、ゼノス・ミルスという男もすごい。お互い惹かれ合うものがあるんだろう」


 ラディオはセラスに解説しながら、白熱していく二人の手合わせを眺めた。


「本来私のような凡人がこのような場にいるのが相応しくないと思えるくらい、あの二人は突出していた。親衛隊に昇格した仲間たちのこともよく知っていたが、才気というものがあるとするなら、あの二人には間違いなく備わっている。ゼノスもさっさと親衛隊に昇格しておけばよかったのだ……そうすれば、あのようなこともなかっただろうに」


 クラドとザミテスに嵌められて上級騎士筆頭の座を追われたゼノスの心情を思い、ラディオは顔を歪めた。


「その……やっぱり、例の不正が原因だったんですか?」


 セラスも、当初レキがザミテスを狙った背景の要因としてゼノスの辞任があったことを聞いていた。ラディオも動機はそれ以外考えられないと思っていたが、それにしては報復の仕方が過剰であると思っていた。


「いや、証拠は一切残っていない。私もザミテスが筆頭になった辺りから何らかの不正は疑ってはいたが、何しろ背景にフレビス家の御曹司が噛んでいると来ればリィア国内の者は誰も動けなかった。ダイア・ラコスが死んでからは特にフレビス家の天下だったからな」


 ラディオは後にトライト家行方不明事件についての真相を聞いて、背筋が寒くなった。特に、ただのいけすかない同僚だとばかり思っていたザミテスが過去に凄惨な事件を起こしていたらしいという話が衝撃であった。


 そしてレキが平然とザミテスと接していると思っていた自分が恥ずかしくなった。常に多少気後れした態度を取っていたレキは単に育ちの悪さに卑屈になっているのだ、と当時の上級騎士は全員思っていた。そのことについて非難めいた話もラディオの耳には届いていたが、真相を知ってしまえばレキに対する残酷な仕打ちに吐き気すら催された。


「それじゃあ、名誉は回復されないんですか……?」


 セラスはゼノスがありもしない嫌疑をかけられたまま辞任させられたことが不服であった。


「過去に遡ってのことだから、難しいだろう。クラドが何らかの証拠を有していたとしても、本部と一緒に丸焦げだ。ザミテスの方を探れば何か残っているのかもしれないが、今となってはどうでもいいことだ」


 ラディオとセラスは、楽しそうに手合わせをするレキとゼノスを見やった。


「なんだ、その踏み込みは。もっとかぶりついてこい!」

「僕は病み上がりなんですから、もっと手加減してくださいよ!」

「そんなことしてる場合か!」


 散々な文句を言い合っているが、双方の顔には満面の笑みが浮かんでいた。


「あの二人は、規律などに縛られず好きにああやっているのが一番なのかもしれない」

「……そうですね!」


 セラスはひとまず、死人のような顔色であったレキが元気になったことが嬉しくなった。そして、その様子を修練場の端でライラは面白くなさそうに眺めていた。

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