極刑の是非
元代表者たちによるレキ・ラブルもといティロ・キアンの処遇を決める会議は難航していた。リニアから巻き上げた多額の金の在処を尋ねられ、シェールは一瞬の間に結論を出した。
「さあ。そこまでは何とも。少なくとも目的は金ではなく脅迫行為であった以上、持て余して既に遺棄されている可能性もあります」
結局、シェールはシャイアを前にしらばっくれることにした。フォンティーアが「本当は知っているくせに」と冷たい視線を投げかけたが、シェールは見なかったことにした。
「でも、話によるとザミテス・トライトと子供二人は彼に殺されているのよね。もう死んでいるなら、せめて遺体くらいは返した方がいいんじゃないの?」
「いえ、出来れば何もせずこのままの方がいいかと……」
シェールはフォンティーアの提案を却下した。
「それはそれで惨い気もするんだけど」
「……復讐の動機か」
シャイアが呟き、フォンティーアもはっとした表情を浮かべた。シェールは頷いて、話を続けた。
「そうです。元を正せばクラド・フレビスとザミテス・トライト、それからゾステロ・フォルムの三名がエディア攻略中にティロ・キアンもといジェイドと姉の両名を殺害、遺棄をしたことが全ての発端です。トライト家殺しを追求するとなると、その問題に触れないわけにはいきません。作戦中にリィア兵が女子供を嬲り殺しにしたことが明らかになれば、エディア攻略の位置づけ自体がかなり変わるでしょう」
シェールは資料に書いてある「エディア姉弟殺害遺棄事件」を丸で囲んだ。そこから更に「トリアス山中第二連隊第七小隊全滅事件」「上級騎士筆頭辞任事件」「トライト一家行方不明事件」「リィア軍本部放火事件」「親衛隊殺害事件」などと関連する事件に向かって矢印が伸びていた。余罪を追及すれば、事件名は更に増えそうであった。
「もしティロ・キアンをトライト家殺しの件で極刑にするのであれば、彼の罪状を明らかにしないといけません。そうなったとき、彼自身はともかくクラドやザミテスに惨殺された姉、そしてザミテスと一緒に行方不明になった子供たちの名誉が問題になってきます。もしかすると、これ以外にも何らかの不名誉を被っている人がいるかもしれません……掘りたくもないですが、どうします?」
フォンティーアもその辺りを公にすることは望ましくない、と考えた。そうすると、結果としてやはり全てを伏せたままにするのが一番良いという結論になってしまった。
「姉……って、確かエディアの王女様の娘さんよね。若くして亡くなってしまった、って」
「ああ。アリア殿下がお亡くなりになった時は国全体が暗くなったものだ。セイリオ隊長も気丈に振る舞っていたが、まさかこんなことになっていたとは……」
シャイアが宙を仰いだ。その声には幾ばくか涙が混じっているように聞こえた。
「それに、エディアの災禍は当時のリィア軍が仕組んだ陰謀という声も出ているわ。そこで変に反感を持たれるような話題が表沙汰になると、果たして困るのは誰かしら?」
「我々全員、だな」
様々な事実がティロ・キアンを公に裁くことが困難であることを示していた。三人はそれぞれ顔を見合わせ、ようやくシャイアが口を開いた。
「ここでひとつ、理屈や事実を抜きにして意見を聞きたい。現状で本件は法や倫理の隙間に陥りすぎていて、どんな結論になったとしても正しい判断にはならないだろう」
シャイアの提案に、フォンティーアが答えた。
「そうね。それじゃあ私から……最初、シェール君から話を聞いたときには腹が立ったわ。自分の復讐のために私たちを使っていたの、って。でもよく事情を聞いてみたら、彼もダイア・ラコスとフレビス家の一番の被害者よね。やり方はともかく、泣き寝入りすることなく彼らに反撃したことには敬意を表したいわ。それに、私は彼のことをとやかく言える立場ではない。私も父の復讐のために、相手の子供を殺したのだから」
ダイア・ラコスの実子である先王ヴァシロを処刑したのは、他でもないフォンティーア自身であった。
「そういうわけで、私は彼を私たちの手で殺すのは相応しくないと考える。これが私の意見よ、そちらはどうかしら?」
フォンティーアはシャイアに話を回した。
「率直に言えば……罪状や立場などはともかく、個人的な感情を述べれば、彼を殺したくはない。エディアで災禍を経験していれば、誰もがそう思うはずだ。あの日を無事に生き延び、そしてリィア軍から逃れ続けて二十年も身を隠していたことを思うと、その心痛は計り知れない。その上で……」
シャイアは再度資料に目を落とした。彼がトライト家へ復讐を企てる前に起こった悲惨な出来事の羅列を見て、シャイアはいよいよ目に涙を浮かべた。
「……失礼。もう言葉にならない。これが自分の答えだ。懲罰房も含めて、彼は十分罰を受けている。今更殺す必要はない」
そう言ってシャイアは顔を伏せてしまった。その心境をフォンティーアもシェールもよく理解できた。
「……最後はあなたよ。素直な意見を聞かせて」
フォンティーアがシェールを促した。
「俺は、正直奴についてはぶち殺したいくらい怒っています」
「あら意外。どうして?」
「説明する気も起きません。これは俺の個人的な問題なので」
「今は個人的見解を話す場よ。あなたの個人的な意見を聞かせて」
「……それなら、俺はあいつに生きていてほしいです。生きて、死ぬまで後悔してほしいです。特に他の人はともかく、トライト家の子供たちを殺した件について俺は怒ってないといけないんです。そのためには、死んで何かを償ったなんて思ってほしくない。たとえ死んだとしても、残された方はずっと傷ついていくんです」
シェールの見解を聞きながら、シャイアがようやく顔を上げた。
「……これで全会一致、ということでいいだろうか」
「そうね。不本意かもしれないけど、みんな同じ意見でよかったわ。でも結局、面倒なことには全部蓋、というやり方は正しいのかしら?」
どこか引っかかるものがあるフォンティーアの問いに、シェールが答えた。
「正しくはないと思います。でも、間違ってもいないでしょう」
「そうね……ちょっと疲れたわ。彼の話はあまり聞いていたいものではないから……シェール君、後は任せたわ」
そう言ってフォンティーアは席を立ち、先に部屋を出て行った。シャイアも後に続いて席を立とうとした。
「ちょっと待ってください。シャイア長官、少しだけ腹割って話しませんか?」
シェールの言葉に、シャイアは驚いた顔をした。
「今更何を話すって言うんだ?」
「話すこと、あるでしょう? 今までなあなあにしてきてしまったのが間違いだったのかもしれない。誰も話したがらないことって、あるじゃないですか」
シェールが声を潜めると、シャイアは再度席に座った。
「一体何を話そうって言うんだ?」
「ティロ・キアンが戻ってきたということです。おそらく彼が発端、なんですよ」
シャイアは少し考えた後、シェールの方を見た。彼が何を言いたいのか、シャイアはようやく理解した。
「わかった、君もそうだったんだな」
それから少しの間、シャイアはシェールと話し込んだ。そして、シェールが当面ティロ・キアンの面倒を見るということで話はまとまった。この話の内容はティロ・キアンの処遇より一層、公には出来そうになかった。
そういうわけで始まりました、第三部です。第1話はひたすら過去の話がどういう位置づけになるのかで終始しましたが、やらかしたことが大きいだけに影響力が半端ないです。そしてシェールとシャイアの話し合いの内容については、まだ秘密です。きっとそのうち、答えがわかるでしょう。
次話、懲罰房の刑に処されてグダグダなレキを甘やかすライラ。そしてセラスに連れられてレキが向かった先にいたのはまさかの「一番謝らなければならない候補」の人でした。ただでさえ死にかけていたのに、ますます胃が痛くなる限りでございます。
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