極秘会談
レキが無限懲罰房に入れられている頃、前回の反乱組織の代表者のひとりであった執行委員フォンティーア・クルサの邸宅で極秘の会談が執り行われた。参加者は同じく代表者であった現リィア軍長官を務めるシャイア・ミグアとフォンティーアの補佐官を務めるシェール・アルフェッカ。議題は、レキ・ラブル――元リィア上級騎士三等ティロ・キアンの今後の処遇についてだった。
シャスタや発起人ライラなどから一連の報告を受けて、シャイアは深いため息をついた。そしてフォンティーアが更に深いため息をつく。その間でシェールが一連の事件についてわかっていることを書き出した紙切れを前に、二人の顔を見比べた。
「結局、どうするんですか?」
「どう、って……死んだ者を裁く法律はないからなあ……」
シャイアがより一層難しい顔になった。
「一度問題を整理しよう。まず、この場にいる者で反乱当日に国外逃走したと思われるフォルス・リィア・ラコスとティロ・キアンを死亡したと発表した」
「そうよ、だって戻ってくるなんて思わなかったんだもの! あんな風に逃げて、こんな風に戻ってくるなんて思わないでしょう普通は!!」
フォンティーアが力説する。この問題が拗れている大きな要因のひとつは、ティロ・キアンがフォルス・リィア・ラコスを連れて国外逃走したことが確実になった時に彼らを死亡したと発表したところにあった。そして、当時彼らが逃走したことを知るのは反乱を指揮した五人の代表者とその腹心、そしてティロの直接の死亡を確認できないことで疑念を持った上級騎士筆頭代理だけであった。それ以外は彼らの死亡を疑うものはなく、穏当に月日は流れていくと思われた。
ところがその後急に失踪したはずのフォルス・リィア・ラコスが帰還して「ティロ・キアンを探してほしい」と脅迫紛いの要望を出したことがこの一連の騒動の始まりであった。政敵の血を受け継ぐフォルスをフォンティーアは嫌悪し、シェールはその板挟みを解消しようと秘密裏に調査をした結果、ティロ・キアンことレキ・ラブルは捕獲された。更に調査の過程で、彼にも複雑な事情があったことが明らかになった。
これらを懸案し、彼らについて適切な処分を下す必要に迫られたフォンティーアらは、文字通り頭を抱えるしかなかった。
「しかし、そこまで我々は考えておくべきだった。フォルス殿下のほうは元より、ティロ・キアンについては上級騎士の身分を捨てる経緯も含めて当時からもっと慎重に扱わなければならなかった。そうだろう?」
フォンティーアが頭を抱えている間に、シャイアに意見を求められたシェールが反論する。
「そんなの無理ですよ、こっちは気がついたらいなくなってたんですから」
シェールはティロが消えた時のことを思い出していた。反乱直前の代表者会議の直後に自決を仄めかす発言をした後、更にライラやシャスタから事情を聞いたシェールは彼がどこかで死んでいるのではないかとずっと肝を冷やしていた。フォルスを連れて逃げたことで間接的に生きていると知れ、また今回ようやく顔を見ることが出来てようやくシェールは一連の感情に区切りをつけることができた。
「今でこそ首に縄をつけておくべきだったと思いますが、今だから言える話です。それで、結局どうするのが一番だと思いますか?」
シェールは二人に尋ねた。先に口を開いたのはフォンティーアだった。
「そうねえ……普通に仕出かしたことだけを並べて考えれば、極刑以外ないわね。親衛隊たちの件は反乱の際の戦闘行為として割り引けても、彼はトライト家の行方不明事件に深く関わっているわけでしょう?」
「問題は、そっちのほうが深刻か……」
先ほど詳細な報告を受けたシャイアは、この凄惨な事件の構造を今ひとつ掴めずにいた。事件の概要は上級騎士三等であったティロ・キアンが当時の上級騎士隊筆頭であったザミテス・トライト及びその妻と子供二人を脅迫、殺害したというものであった。
「それで、トライト家の遺族の方はどうなっているんだ?」
「それが……そっとしておいてほしい、と」
かつて、シェールはフォンティーアの使いという体を装って、当時の筆頭代理であったラディオと一緒にトライト家本家筋の遺族たちと面会していた。そして一家行方不明事件にもし政府として何か援助できることがあれば、という名目で聞き取りを行っていた。
「どういうわけだ?」
訝しがるシャイアに、シェールは当時のことを語った。
「リニア・トライトの問題です。発起人ライラから聞き取った話だと、リニア・トライトは当初からティロ・キアンに金銭援助をしていたようです。そこから脅迫に発展、最終的に寄付金の横領にまで至りそれを苦にしたリニアが自殺、ということになってます。そこで、若い男に貢いだ挙げ句に金をかすめ取られて自殺というのは世間体として大変よくない、と」
この遺族の見解に、フォンティーアとシャイアは顔を見合わせた。
「ティロ・キアンはそこまで読んで脅迫していたのか?」
「さあ、そこまでは……とにかく、トライト家としてもリニアの実家としても、当のリニアが死んでザミテスも行方不明である以上、その辺にあまり踏み込みたくないようです。知るのが怖い、とも語っていました。特にリニア・トライトには敵が多かったようで、彼女を庇う発言はあまりありませんでした」
「そんなに彼女は嫌われていたのかしら?」
「その辺は女中として接したライラの方から証言があります。『常に人を見下している感じがして嫌な人だと思った』そうです。だからこそ、ティロ・キアンがつけ込む隙があったというのが自然な考えでしょう」
シェールが答えると、フォンティーアは顔をしかめた。
「ちなみになんだけど……発起人ライラを含めて我々の視点を抜きにした場合、つまり遺族はこの事件をどう捕らえているのかしら? やはりティロ・キアンが許せない?」
フォンティーアの問いに、シェールは遺族の見解を整理して答えた。
「基本的には一家三人の失踪よりもリニアの浮気が一番の問題と捉えています。トライト家の本家筋の人間はティロ・キアンの存在を知っています。その上でリニアが彼にちょっかいを駆けた、と誰もが思っています。そしてザミテスが査察旅行でいない間にティロに多額の資金援助で気を引き、彼が断ったために発狂したのだろうと思われています」
「既に彼女自身に信用がなかったのね」
「はい。それはザミテスもそうであったようで、上級騎士隊筆頭になったというのに家族からは未だに『出世した次男坊』扱いでしたから。特に彼の兄弟からは出世を妬まれていたようです。これは俺の感想ですが……ザミテス自身も、寂しい環境で育ったのかと。クラドも、もしくはゾステロもそうかもしれないですね」
だからと言って通りすがりの姉弟を害していいはずもなければ、その報復に関係のない家族を巻き込んでいいはずもなかった。
「……それで、ティロ・キアンが女から巻き上げた金はどこにあるんだ?」
シャイアの疑問に、シェールは頭の中が裏返るような気分になった。ティロがトライト家から巻き上げた金は、現在もクライオのアイルーロス家の地下にまだ隠してある。この騒ぎにこれ以上アイルーロス家を巻き込んでいいのか、シェールは逡巡することになった。




