面通し
ライラがアパートの下でシェールと会話をする三週間前のこと。
エディアからリィアに戻ったレキは、ひとまずフォンティーア・クルサの元へ通されることになっていた。シャスタとエディアで合流したセラスから厳重な警戒を受けながら連行されたレキは、それだけで多大な殺意を感じながらの帰還となった。
「あの……もう逃げないから、本当に、だから許して」
「誰が許すか馬鹿」
「誰が許すと思ってるんですか!?」
エディアでセラスとフォルスと合流した後、レキはひと通りセラスに殴り倒された。フォルスは何故かそれを見ているだけで、「貴方も是非!」とセラスに誘われたが「僕はいいです、見ているだけですっきりしました」と何故かレキに近づこうともしなかった。
乗り物恐怖症のレキは温情として、馬車の操縦をしてエディアに戻ることを許可された。しかし、その隣ではシャスタとセラスが常に睨みを利かせていた。
「いいですか、本当は厳重拘束の上連行したいくらいなんですからね!」
「だから、逃げないって……」
「今更信用できるか。次に変な真似したら頭の上から袋被せるからな」
「だから逃げないって言ってるじゃないか!」
そう叫びながら、レキは確かに信用が一切ないことが恥ずかしくて仕方がなかった。しかし、誠意の見せ方が自分からフォンティーアやシャイア、そして反乱において一番迷惑をかけたシェールに謝罪に行くことくらいしか思いつかなかった。
リィアに戻ってフォンティーアの邸宅に連行されると、まず待ち構えていたシェールにレキは思い切り平手打ちされた。もっと殴られるかと思ったレキは意外な顔をしたが、シェールは「思いのほか可哀想だから手加減した」と告げた。それを聞いて、セラスは更に意外な顔をした。それからしばらく待つように言われて、レキは生きた心地がしなかった。
「ほら、一緒にごめんなさいしに行くぞ」
程なくシェールに連れられて奥へ通されると、壮年の女性と男性が待ち構えていた。同じく反乱を主導したフォンティーア・クルサとシャイア・ミグアであった。
「間違いない、あの夜やって来たのはこの男だ」
先に進み出たのは、シャイアであった。かつてエディアの上級騎士であったシャイアは、どうしても確認しなければならないことがあった。もう半分死んでいるような顔のレキに、シャイアは尋ねた。
「ひとつ確認したい。君のご母堂は、間違いなくアリア・エディア・カランであろうか?」
いきなり母親の名前を出されて、レキは混乱した。
「はい、そうだと思います……あの、でも僕は母のことよく覚えてないんですけど……でも、父が母を愛していたという話はよく聞いていて……でもその、今はそれよりも、その……」
すると、シャイアはレキの前に跪いた。一同が驚く中、シャイアが続けた。
「まずは君を守ることができなかったことを、非常に申し訳なく思っている。本来であれば我々が全力で行方不明になっていたカラン家姉弟、その他御三家の行方不明者を捜すべきだった。しかし、特務も目を光らせていたあの時には『どこかで無事に生き延びていてくれ』と願うしかなかった。本当に申し訳なかった」
シャイアが謝罪をする中で、一番慌てたのはレキだった。
「あ、あの僕は誰も恨んでないので……あの時は皆大変だったでしょう、だから、その、顔を上げて……」
予想外の対応にレキが狼狽える前で、シャイアは立ち上がった。
「そうか、これで一応筋は通した。そして、それとこれとは別の話だ」
シャイアの合図で、部屋に潜んでいた者が後ろからレキを羽交い締めにした。
「な、何するんだ!」
「決まってるだろう、懲罰房だよ」
現れたのは元特務のノットだった。懲罰房、と聞いた瞬間にレキの顔色がさっと青くなる。反乱時にレキに卑怯な手段で転がされたことを根に持っているのか、ノットの声は冷たかった。
「嫌だ! 死んでもいいから、懲罰房だけは嫌だ!」
「諦めろ。それしかないだろう、お前には」
レキに張り付いていたシャスタは、ノットと一緒にレキを引っ張って部屋を退出した。セラスはどうするかシェールの方を窺うと「行ってやるな」とシェールは首を振った。フォンティーアは残された面子を見渡して、その場をまとめることにした。
「さて、この騒ぎについてひとまずは解散ね。後のことは彼の帰りを待ちましょう……それと、私はあなたに会うのが初めてなの。あなたが発起人ライラね? 弟たちが世話になったわ」
フォンティーアがライラに礼を言うと、ライラは両手を広げて前に出した。
「そんな、私は何もしていませんよ」
ライラが恥ずかしそうに後ずさると、シャイアが声をかけた。
「いや、今度の成功は君の功績があったからだ。謙遜は寄せ。それと……」
シャイアはこの場にいる「招かれざる客」を見た。フォンティーアがフォルスのことを最初から目の敵にしていたように、シャイアも不審の眼差しをフォルスに向けていた。
「ああ、僕ですか。安心してください。用事が済んだらリィアからきれいさっぱり消えるんで。あの人が帰ってきたら、ですけど」
「今回のことは貴殿の企みと聞いているが、一体何が目的なんだ?」
シャイアが詰め寄ったが、フォルスは背を向けた。
「大丈夫です。貴方たちの企みには一切関係のない、本当に個人的な用事なので。あ、もう僕は王子でも何でもないのでその辺は気を遣ってくださいよ。貴方たちが僕を殺したんですからね」
そう言い捨てると、フォルスは部屋を出て行ってしまった。
「……シェール君。もう少し彼の監視、よろしくね」
「わかってますよ。それより、本当にどうするんですか?」
シェールはフォルスの対応がまだ続くことにうんざりしながら、今後のことをフォンティーアに尋ねた。
「そうねえ……ひとまず話し合いましょうか。セラスちゃん、王子様のことお願いね」
フォンティーアに命じられて、セラスは慌ててフォルスの後を追った。シェールは残されたライラに「君は家に帰った方がいい」と告げ、そしてフォンティーアとシャイアとの「話し合い」の席へと向かう中で今までの出来事をどうまとめるか大いに悩むことになった。
***
その日、レキは予備隊跡地に連れて行かれて「五回気絶したことを自分で数えられたら解放してやる」という条件で懲罰房に落とされ続けた。恐怖で気絶する度に懲罰房から引き上げられて水に頭を入れられて強制的に意識を取り戻され、そこで数を問われた。しかし、恐慌状態のレキは一切数えることが出来なかった。そのため「最初の一回」をレキは延々と繰り返すことになった。
結局、レキは十八回気絶することになった。死に至る恐怖のあまり全ての反応がなくなったレキは、話すことができるようになるまで発起人ライラの部屋で養生することになった。
数日経ってレキがようやく身体を起こせるようになった頃、ライラはビスキに帰ったシャスタからの置き手紙をレキに手渡した。そこには「何かあったら連絡しろ」と書かれた手紙と、拷問の際シャスタが預かった例の発注書が丁寧に封筒にしまってあった。手紙を手にして泣き崩れるレキを見て、ライラは当分具合は良くならないだろうと肩をすくめた。
これにて、本編のシャスタの出番は本当におしまいです。後ほど解説文置き場に彼の紹介文を載せる予定です。名前の由来やキャラクターの誕生裏話、そして今後どうなるのかなどの詳細な話をメインキャラクターには用意するつもりです。基本的に出番が終わり次第、とても長いメイキングや紹介文が出てくる予定です。楽しみに待っていてください。




