自分勝手
リストロを殺害した件についてゼノスに追求され、レキは泣いていた。酷であるとゼノスは思ったが、更に本部の放火について尋ねないわけにはいかなかった。
「つまり、まとめるとリストロにクラドを殺すところを見られたから殺したんだな。それじゃあ、クラドはどうしたんだ?」
レキがクラドを殺したというのは決定事項のように思えた。シャイアやシェールたちが今までの情報を寄せ集めて「本部に火をつけたのはエディアの災禍への復讐では」と推測していたが、ゼノスはレキが仮にも世話になったリィアに対してそんな気持ちを持っているとは思えないと思っていた。
「僕が殺しました。本部にクラドの名前で油を届けさせたのは僕です。もし反乱で粛正されなくても、立場を壊してやりたくて……最初は火なんかつけるつもりはなかったんです。ただ、クラドだけは燃やすつもりでした」
「でも、本部に火をつけたんだな?」
「正確に言えば、本部に火をつけたのはクラドです。そのまま奴は焼け死んだんです」
ゼノスはこの発言を深く追求するか迷った。この火事でクラド以外に何人も死傷者が出ていた。ただ、災禍の現場にいたレキが火事の悲惨さを理解していないとゼノスは全く思えなかった。だから火事を起こした、と考えるとゼノスはレキに対して何も言うことができなかった。
「わかった、もういい。それで、クラドとリストロを殺した後はどうしたんだ?」
「本当は反乱軍が到着したらザミテスのこともクラドのことも全部打ち明けて、それで殺してもらうつもりでした……もうさっさと死にたかったんですけど、待ってる間に気が変わって、それなら僕より強い人と勝負してから死にたいなって、それなら今親衛隊のところに行けば、勝負できるし運が良ければ殺してもらえるかな、って……」
あまりにも自分勝手な供述にゼノスは呆れたが、あの夜に直接レキと相まみえていただけに「他に何かできなかったのか」という後悔の念が募るばかりであった。
「それで、リードのところまで行ったのか?」
ゼノスはリィア最強と謳われたリード・シクティスが討たれたと聞いて、一体誰がそんなことをしたのかと当初は不思議に思った。しかし、それよりも「ティロ・キアンは火災で死亡した」という情報が深く心に突き刺さっていた。
「はい。彼は強かったです。僕が負けていても、おかしくはありませんでした」
「そうか、その話は少し詳しく聞きたいが……また機会があったらにしよう。それで、何故フォルス殿下だけ連れて行ったんだ?」
「リードとの約束です。彼には、僕の本当の名前を教えました。そうしたら光栄だ、今度は是非殿下たちを守ってほしいと言われて……僕も異論はありませんでした。それに、できれば彼らの命は助けたかったんです」
ようやくレキは顔を上げた。
「それは、何故だ? お前にとって、国の仇ではないのか?」
「僕自身が、それで辛い思いをしたので……僕の家族は、みんなリィアに殺されたんです。悪いことを何もしていないのに。大人ならまだしも、どうして八歳や十歳の子供まで殺さなければならなかったのか、今でも納得できていないんです」
その時、ゼノスはようやくレキの中にある「ジェイド」の顔を見た気がした。
「それで、命だけでも助けたかった、と……」
「だいたいそんなところです。本当はセイム殿下の方も連れて行きたかったのですが、どうしても行かないと言い張るので仕方なくフォルス殿下だけお連れしました」
その辺りの事情は、ゼノスもフォルスから事情を聞いていた。
「それで警備が手薄なコール村から脱出したんだな?」
「そう、ですね……あそこでは僕も身内みたいなものでしたから。後はまあ、なるようになった感じですね。後は、もういいですよね。僕そろそろ帰りたいんですけど」
レキが精神的に疲弊しているのはゼノスにも見て取れた。そこで、ゼノスは一番レキに尋ねなければならないことに踏み込むことした。
「そうか……久しぶりの鍛錬にも疲れただろう。それでは、最後に無理に思い出さなくていいからこの資料を見てくれないか」
そう言って、ゼノスは一枚の紙をレキに見せた。それはとある事件の調書の写しであった。
「今から約二十年前、ちょうど災禍から数ヶ月後に起こった事件だ。ビスキのとある養護施設の物置で、男性職員が殺されているのが発見された。遺体はナイフか何かで何度も刺されていて、かなり強い恨みを持った者の犯行と思われた」
レキはその資料をじっと見つめた。資料には詳しい発生場所や被害者の名前などが記載されていた。
「それで……この事件、かなり妙なことがあってな。事件が起こった直後に、近くの路地裏で血まみれの服を着た十歳の少年が発見されている。犯人は相当な返り血を浴びていると考えた捜査班はすぐに少年の身柄を確保した」
事件について読み上げる中で、レキの目の色がさっと変わったのをゼノスは見逃さなかった。ゼノスは事件の概要を続けて読み上げた。
「ところが、少年は『道路で遊んでいたら、いきなり知らない子供に殴られて服を取られた』と供述した。一緒に遊んでいた少年も同様の供述をして、彼らと被害者に接点はなかったことから何らかの形で事件に巻き込まれた、と捜査班は結論づけた」
そこまで事件の詳細をゼノスが語り終えると、レキは顔を上げた。
「それで、何が言いたいんですか?」
レキは先ほどの自信を無くした顔色ではなく、敵意を剥き出しにした視線をゼノスに投げかけた。
「この話には続きがあるから最後まで聞け。後で、その養護施設の院長が奴隷売買の疑いで摘発された。どうにも、その物置にあちこちから攫ってきた子供を隠しておいて、労働力として欲しがっている農場や山主なんかに売り払っていたらしい。養護施設は表の顔で、とんでもないことをやっていたものだ」
レキはゼノスから視線を逸らした。ゼノスは続けて畳みかけた。
「それで……その血まみれの服、というのがこの養護施設で着せていたものだ、というところまではわかった。しかし、その売り物になっていたはずの子供の姿はどこにもなかった。関係者の証言では、とても弱っていて人なんか殺せそうになかったと言うけれども実際に姿をくらましているし、何より子供が見つからないのだから話にならなかった。それでこの事件は迷宮入り、というわけだ……どう思う?」
ゼノスが問いかけると、レキはやけに機嫌の悪い声を出した。
「それで、その子供を探そうって言うんですか? もう二十年も前の出来事ですよ。一体どこにいるっていうんですか!?」
やたらと攻撃的になるレキに、ゼノスはひとつの確信を得た。
「ひょっとしてお前、心当たりがあるんじゃないか?」
レキは何も言わなかった。ただ黙ってゼノスを睨み付けるばかりで、一切否定することがなかった。ゼノスはやはりレキがこの事件で「いなくなった子供」であることを確信した。




