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【救済ノワール3】救世主症候群・解明編  作者: 秋犬ころ
追憶編 第3話 事情聴取
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薬と脅迫

 ゼノスからの事情聴取の中で、レキはザミテスの名前を聞いただけで震え上がった。


「申し訳ない。お前が奴を殺すほど強く憎んでいることはよくわかるが、お前がトライト家に一体何をしたのか、我々は全く把握できていない。罪に問うか問わないかは置いておいて、まずは事実を知りたい。質問に答えられるか?」


 レキは頷いたが、その瞬間にゼノスにすら敵意を剥き出しにした。ゼノスは慎重に言葉を選んで、質問した。


「まず、ザミテスは最初からお前が昔殺した子供だって理解していたか?」

「するわけないじゃないですか。あいつら、完全に殺したつもりになってたんですから。クラドに至っては殺したことすら忘れていました」


 レキの隠さない憎悪にゼノスは気圧されつつ、話を進めた。


「いつからザミテスを殺すつもりだった?」

「最初からです。顔を見た瞬間から、いつでも殺したいと思っていました」

「それは、上級騎士に上がってからのことか?」

「そうです。まさかこんなところにいるなんて、思わないじゃないですか……でも、僕が何かを言ったところで、僕の頭がおかしいでおしまいになっていたはずです。それじゃあやっぱり、殺すしかないじゃないですか」


 一気に飛躍したレキの供述に、ゼノスは思わず質問を挟んだ。


「その前の段階は考えられなかったのか? 例えば告発するとか、殺さなくてもそれ以外の方法で復讐するとか……」

「じゃあ隊長はどうすればよかったと思ってるんですか?」


 レキに問われて、ゼノスは考えた。考えれば考えるほど、レキが取るべきであった行動が示せなかった。レキの言うとおり、告発は無意味どころかレキの立場を危うくするだけであった。


「奴らを殺すことができなかったら、僕が死ぬしかないじゃないですか。だから本当に死のうと思いました。どうせ僕ひとり死んだところで誰も気にしないって思ったんですけど、そうしたら僕の生き損じゃないですか。どうせ死ぬなら、精一杯やれることをやってから死のうって思ったら何だか元気になったんですよ」


 ゼノスはレキが本気で死を選びかけていたという話に戦慄しながら、ようやく「何故ザミテスだけではなく家族も狙ったのか」という話が出来そうだと思った。


「その結果が、家族を巻き込んだことになるのか?」


 すると、それまで殺気立っていたレキの顔に冷静さが戻った。


「そうですね……隊長、人が一番辛いと感じることって何だかわかりますか?」

「そういうお前は、何だと思っているんだ?」

「大切な人が目の前で苦しんでいるのに、何もできないことです」


 レキは淡々と告げた。


「だから僕はそれをやりかえしてやったんです。どうせ死ぬなら、同じ思いをさせてから死にたいじゃないですか」

「それで、子供たちを狙ったのか……?」

「そうです。普通にムカついたっていうのもあるんですけど、流石に目の前で子供が死んで、悲しまない親ってのもいませんからね」


 話しているうちに、レキに冷静さが戻ってきたようであった。そう判断したゼノスは、なるべく聞けることは聞き出そうとした。


「それはつまり、お前が子供たちを誘拐して殺した、ということでいいんだな?」

「そうです。細かく言えば違いますけど、大まかに言えばそうですね」


 子供二人がもう死んでいるということは、発起人ライラが既に告白していた。ゼノスは彼らをどうやって殺したのか聞こうと思ったが、それ以前に尋ねなければならないことがあると気がついた。


「それなら、リニアさんに取り入ったのは何故だ?」


 ザミテスを同じ目に合わせるために子供を殺した、というレキの理屈をゼノスはとりあえず理解した。しかし、そうすると何のためにリニアを追い込んだのかが釈然としなかった。


「ああ……そう言えば何でだったかなあ。どうせあそこは夫婦仲終わってるし、最初はちょっと苦しんでもらったらそれでいいかな、くらいの感じだったんですよ。正直、僕もあそこまでハマるとは思っていなかったので」

「ハマる、というのは妙な薬のことか?」

「そうです。僕はちょっと渡しただけですよ。そうしたら金を出すから買ってこい、ってなったので……」


 ゼノスは、リニアへの恐喝の前に問わなければならいことがあることを思い出した。


「待て。そう言えばお前は薬物乱用で謹慎処分を食らっていたな。そういうのは、どこから調達してきていたんだ?」

「その辺ですよ。ちゃんとしてる人には見えないんですけど、そういうのを売ってる店がいっぱいあるんですよ」

「お前は上級騎士だったんだから……いや、その話は後だ。それより、気になるのだが……お前はそんなに薬を使っていたのか?」


 レキの不眠からの睡眠薬の使用は知っていたが、その他の薬に幅広く手を出していたことをゼノスは知らなかった。


「そうですね……いつからだろうなあ。もう子供の頃からずっと何かしらやってきているんで、あんまり考えたことがなかったかもしれないです。ああ、でも隊長がいらっしゃった時はそんなにやってなかったと思います。せいぜい煙草くらいでしょうか……でも、そのくらいはみんなやってますからね、あ、僕はもう止めるって決めたんで大丈夫ですよ」


 他人事のように答えるレキに、ゼノスはレキの薬物依存についてこれ以上追求するかどうか少し悩んだ。彼の話を上手く聞き出せば痛み止めの横流しの経路などを突き止められそうだったが、今はその話をするべきでないと判断した。


「そうか……止めるなら構わない。それはいいことだと俺は思う。話を戻すが、お前はリニアさんから薬を買って来いと言われて金を渡されていたのか?」

「えぇ……大体そうかもしれないですね。何度か迫られたこともありましたね」

「それは……不倫に誘われた、ということか?」

「うーん、そうかもしれないですね。これは事実ですけど、僕は彼女には手を出していませんから」


 実際は服を脱がせて「身体で稼いでこい」と脅迫していたが、レキはそこまで生々しいことをゼノスに言うつもりはなかった。


「そうか、そうか……まあいい。それで暴走したリニアさんは追い詰められて飛び降り自殺をした、ということか。しかし、数日待てばザミテスが帰ってくるはずだったのに、その時期に何故……?」

「逆ですよ。知られたくなかったから、死んだんです」

「確かに……辻褄は合うな。そう言えば、その日はお前もリィアに潜伏していたのだよな。何をしていたんだ? 何故か夜になって急にいなくなった、とセラス君から聞いているぞ」


 レキは少し考え込んで、それから犯行当日の話を始めた。


「……確かに彼女に会いに行きました。でも、今まで誰も僕が殺しただなんて思ってなかったでしょう? それに、あの状態の彼女がこのまま生き延びても誰も幸せになりませんから、トライト家の方々は僕に感謝してほしいくらいですよ」


 思わぬ殺人の告白に、ゼノスは言葉を失った。その後「人の命を何だと思っている」と怒鳴りつけようとしたが、すんでの所で自制した。目の前にいるのは、その大事な命を無駄に踏みつけられてきた男である。ゼノスは、もっと早く彼の置かれていた状況に気がついていればと後悔するしかなかった。

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