#84 ハローハロウ
ランタンの灯火のような――どこか物憂げなオレンジ色の髪。
長年熟成された高級のウィスキーを思わせる濃厚なブラウンの瞳。
「やれやれ……。
今日はずいぶんと盛況だこと」
転がされたオーディーの傍で片膝を折り、ハサミを持つ男は飄々としながらも新たな侵入者らを迎え入れた。
「何ここ……?」
ホラーイベントの強襲に見舞われ、自分達は必死に逃げてきたはず。
なのに突然目の前に現れた大人の空間に、まだまだ成人とは言えない二人は呆然とする他なかった。
シュバババババッッッ!!!!!
しかし、相手はそんなことお構いなしに詰めにくる。
開け放たれたドアから、糸の濁流が容赦なく流れ込んできた。
「させっ、かッ!!」
シヨウは慌ててソファから飛び出すと、箒形態に素早く換装して穂で対抗する。
ブレードの一閃では束になった糸を抑えられないと、戦闘の素人なりに判断してのことだった。
だが、鉄砲水のような勢いに圧され、奥の壁際へと激しく吹き飛ばされてしまう。
「――クッ」
「シヨウっ!!」
パン、パン
緊迫したの空気の中、ひどく間の抜けた柏手が響く。
男はいつの間にハサミを置いたのか、ゆるりと立ち上がると軽薄そうな笑みで確認を取った。
「そこのお姉さん。
――お金はあるかな?」
「はっ!? お金!?
あるけど……」
「なら『お客様』だ。
――もういいですよ、そこまで」
彼がゆるゆるとドア奥の暗闇へ合図を送る。
すると、狂ったような音も糸もピタリ――と止んだ。
「……どういうこと?」
#000000を構えたまま、困惑と警戒を混ぜ合わせる。
そんなハンターの睨みにも動じず、男はへらへらした態度で挨拶した。
「ようこそ。
バー、『Hello Hallow』へ。
美味しいお酒と、夜の常識でお客をもてなすお店ということで、一つよろしく」
「「「「バーッ!?」」」」
廃店舗の最深部――スリリングな迷宮の先に広がっていたのは、まさかの深夜の社交場。
全員が盛大にハモるなか、ミノムシの如く糸でぐるぐる巻きにされたオーディーは「むぐぐぐ……」と涙目で床を跳ねていた――。




