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オーダーメイト 〜お払い箱のはみ出し女ハンター、拾った異世界人と最強バディを組む〜  作者: 湖陽 照
第1章 始まりの街 彩流市 編 ~兼食の猟犬と偏食だらけのハンドラー~

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#69 七色の天橋

 橋のおかげで、人々は自由に島と本土で行き来ができるようになりました。

 家族や親しい友人もたくさんできて、毎日楽しく暮らしています。


 しかし、橋が架かって幾ばくかの時が過ぎ、世界に禍々しい黒い雨が降るようになりました。

 すると黒雨の呪いを恐れたのか、橋を形作っていた七つの光が一斉にどこかへ逃げ出してしまったのです。

 

 人々は互いに離れ離れになってしまいました。

 島の皆が追いかけて、本土の皆も追いかけて、それでも光は捕まらない――。





* * *


 ある日、島に住む小さな女の子『チィちゃん』は海に出かけました。

 本土へ仕事に行ったっきり帰ってこれなくなってしまった父親に、どうしても会いたかったのです。


「もしかしたら、七つの光は海に落ちちゃったのかも」


 そう思ったチィちゃんは、一生懸命に海を探しました。

 すると深い海の底で、微かにキラキラと光る何かを見つけたのです。


「見つけた!」


 チィちゃんはそう叫ぶと、迷わず海へ飛び込みました。

 島育ちだから泳ぎは得意だもん、きっと大丈夫。


 大きく頬を膨らませて潜り続けると、そこには七色に光る美しい鱗が沢山落ちていました。


「(これを拾って並べれば、お父ちゃんのいる所まで行けるかもしれない!)」


 チィちゃんは夢中になって鱗を拾い、持って帰ろうとしました。


 けれど欲張りすぎたのかもう少し――、あと少しだけと拾い続けるうちに、空気が足りなくなってしまったのです。

 慌てて水面へと戻ろうとしますが、その時――。


 目の前を横切った大きな魚の影に驚いて、チィちゃんは残りの息を全部吐き出してしまいました。





* * *


 はっ――、と目を開けると、そこはさっき飛び込んだ海岸のすぐ傍でした。

 お日様はとっくに地平線の彼方に帰ってしまい、辺りは真っ暗で何も見えません。


「誰かが助けてくれたのかな?」


 起き上がってキョロキョロと周囲を見渡すと、何ということでしょう。

 海底に落ちていた沢山の鱗が、本土に向かってまるで天の川のように海の上に浮き並んでいたのです。


「お父さんに会える!」


 チィちゃんは喜んでその鱗の列へ踏み出しましたが、無情にも足は海に沈んでしまいました。

 黒い雨が降るようになってから、海の水も黒く濁っていたのです。

 浮いた鱗も、海の底で見たときより汚れていて、ちっともキラキラしていません。


「どうしよう……」


 チィちゃんが海辺で泣いていると、暗闇の中から一人の老いぼれた漁師が近寄ってきました。

 「どうしたんだ、お嬢ちゃん?」と尋ねられ、チィちゃんは泣きながら言います。


「鱗の橋ができたのに、水が黒くて渡れないの」


 老いた漁師は海面に広がる大量の鱗を見てひどく驚き、暫く黙り込んでいました。

 やがて自分の腰籠から一枚の帆立の貝殻を取り出すと、その貝殻の端で鱗が浮いた黒い海面をシャッと力強く削り取ったのです。


 すると削られた海が、夜空に浮かぶ星屑のようにキラキラと輝き出したではありませんか。


「これで向こう岸まで、削っていけば橋が架かる。

ただし、明日の一番鳥が鳴くと、この貝殻は消えてしまうぞ」


 帆立の貝殻を手渡されたチィちゃんは、涙を拭って大喜び。

 夢中で海を削り進んでいきました。


 けれど、向こう岸までは果てしなく遠いのです。

 チィちゃんの小さな身体と小さな帆立の貝殻では、削っても削ってもなかなか前に進みません。


「早くしないと、朝が来ちゃう……!」


 再び泣きそうになりながら必死に貝殻を動かし続けていると、やがて東の空が少しずつ白んできてしまいました。

 刻限の朝が近づいているのに、岸まではまだまだ遠く及びません。


 チィちゃんは焦りのあまり、胸奥がゾッと冷たくなりました。

 その時、海中で自分を驚かせた、あの大きな大きな魚の影が再び現れたのです。


 逃げ場はありません。魚の影はぐんぐん海面に近づいてきます。

 チィちゃんが思わず「キャッ」と頭を抱えると――、


 巨大な魚がザッバーン、と空中に飛び出してきました。


 魚は大きな美しい尾びれを東の空に向かって力強くしならせると、夜明けの太陽の光を遮るようにドバッ、と黒い海水を大空へ撒き散らしたのです。

 すると、白みかけていた空は再び真っ暗な夜へと染まり、チィちゃんにもう一度海を削る時間を稼いでくれました。


「ありがとう、お魚さん!」


 チィちゃんは急いで残りの海を削り続け、ついに一番鳥が鳴く前に対岸へと辿り着くことができました。

 そこには、心配そうに佇むお父さんの姿があります。


「チィ! こんな無茶をして……! 

一体どうやってここまで来たんだ?」


「お父ちゃん! あのね、優しいおじいちゃんとお魚さんが、助けてくれたの!」


 チィちゃんがそう言って、走ってきた向こうの海を指さすと、今度こそ夜明けを迎えた東の空から、まばゆい旭日の光が差し込みました。

 光を浴びたキラキラの鱗橋はさらに輝きを増し、思わず二人は目を瞑ります。


 光が収まり目を開けると、夜空のような黒い海が目の覚める青い青い海へとその姿を変えたのです。

 これはきっと海神様と、人々を繋ぐ橋渡しの神様のお慈悲に違いありません。


 それからというもの、人々は虹の橋が黒雨で二度と黒く汚れてしまわないように毎日毎日、丁寧にお掃除をして、年に一度、この橋が架かった大切な日にお祭りをするようになりました。


 そして神様たちを祀る祠には沢山の帆立と、橋の鱗に因んで七色に輝く美しい貝殻を持つアワビを、今でも大切に奉納しているのです。

ご一読ありがとうございました。


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