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オーダーメイト 〜お払い箱のはみ出し女ハンター、拾った異世界人と最強バディを組む〜  作者: 湖陽 照
第1章 始まりの街 彩流市 編 ~兼食の猟犬と偏食だらけのハンドラー~

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#64 Colorの相性、Bestな相棒

ちゅん、ちゅん――

 

 窓から朝の光が差し込み、小鳥が囀る。


「……っ、う……ん……」


 眩しさのせいか、瞼の建付けが悪い。

 重たげに押し上げると、視界に飛び込んできたのは白い天井。

 ツンとした消毒液の匂いに覚えがある――ような、ないような……。


「――おはよう」


 ハッと視線を向けると、椅子に座って何やら紙の束を読んでいたシヨウの姿があった。

 サキの目覚めを確認すると、徐に枕元のナースコールを押す。


「……シヨウ? 

っていうか――、ここ……何処?」


 寝起きの霞んだ頭で尋ねた。


「病院。あれから5日経った」


「病院……5日……、――――5日ッッ!!??」


 思わずベッドから跳ね起きるが、全身を駆け抜けた激痛に「あだだだだッ!」とシーツに逆戻り。


「――っ、センジは!? センジはどうなったの!?」


「まだ寝てるよ。

インクブラット? だか何だかで、かなり無茶したらしい。

ここの先生が言うには、ゆっくり休めば抜けたColorも元に戻るって」


「あぁ、そう……。

そっか……よかった……」


 一先ず無事なようで胸をなで下ろした……丁度そのタイミングで、ガラッと病室のドアが開いた。


「目が覚めましたか――?」


 ベテランっぽい女性看護師が入ってきた瞬間、シヨウはすくっと立ち上がる。


「はい。今、目を覚ましました。

この5日間――、本当に色々と、ありがとうございました」


 陽だまりのような笑みと共に、軽く頭を下げた。

 男っぽい言動は鳴りを潜め、まるで社会に慣れた女性らしい余裕と柔らかな雰囲気に、サキはポケーーと口を開けてる。


「いえいえ、無事で本当に良かったわ。

今、先生を呼びに行ってくるわね」


 看護師さんはほっとしたように笑顔を浮かべ、すぐに外へ出ていく。

 ドアが完全に閉まり人の気配が消えると、本当に同一人物か? と怖々と確認した。


「なに――、今の恐っそろしく柔らかい喋り方は?」


「イメージの改善。

あの人達も表立って口には出さないけど、どうもこの黒は評判が悪い。

だから出来るだけ媚びを売って、親しみやすさを全力でアピールしてる。


今後この街に住むなら、当然この病院に掛かることだって何度もあるだろうし」


 やれやれと座り、椅子が僅かに軋みを上げる。

 日に照らされて天使の輪を被った真っ黒な髪を、ねじねじ弄りながら口調を戻した。


「あんた……ホント逞しいというか、なんというか……。

メンタルがオリハルコンかなにかでできてるの? 流石、異世界人……」


 普通なら、愚痴の一つも溢して当然だろうに。

 相棒の強かな世渡り術に感心しつつ、呆れ果てた。


「寝起きでそんなに口が回る人がよく言うよ。

あの後、本当に車で気絶して……センジは先輩の意地なのか、どうにか起きてたけど。

最後はAIが病院まで運転してって、二人揃って担架でデリバリーされてった。

激戦の疲労、怪我、何より沈色が祟ったらしい」


 サイドデスクに置いてあった果物カゴからミカンを取り出し、剝き始める。

 そして、軽く開いた膝に肘を置きつつ、夜明けのドライブのその後の全容を語った。


「――ねえ、その先生ってどんな奴だった?」


「中二病が喜びそうな人だったよ。

綺麗な若緑の髪で、ワイルド系のイケメン。

右目に古傷、しかもオッドアイで医者。属性過多にも程がある」


「あー、あいつかぁ~。

よりによって、またあいつの所に担ぎ込まれたわけね……」


 サキはげんなりとした表情で、頭を抱える。

 果肉に張り付いた白い筋を睨んでいた黒い瞳が、怪訝そうに彼女を見た。


「知り合い?」


「ちょっとね。腐れ縁……というか、まあそこそこ長い付き合いがあるのよ。

私がまだハンター養成学校の学生だった時からの借りがあって――」


 シヨウの素性を問うことは在れど、自分の事は話していなかったと気付く。

 良い機会だと自分と先生――、『アトレス』との過去を話し始めた。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 昔――、中央の総合病院で初めての定期の健康診断を受けた時だった。


 しかし、色を中和するという珍しいColor性質が、向こうの医療関係者の人たちにバレてしまう。

 他人(ひと)の色を高め能力(スキル)を底上げし、沈色を掻き消すことができるそれは、現代医療において垂涎の的だった。


 データが欲しさに『研究に協力しろ』と、半ば無理やり詰め寄ってこられることもしばしば……。





「――ごめん、ちょっと待った」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 シヨウが申し訳なさそうに、話を遮る。


「サキのCollarって珍しいの? 

というか、状況が状況でなあなあにしてたけど……『Collar』ってそもそも何?」


「――ああ、そっか。

シヨウは異世界(あっち)から来たから、そもそも色とか雨のことを知らないんだっけ?」


「雨については街のテレビモニターとかで見たけど……一応説明してもらえると助かる」


 そういえば、浜焼き屋でそんなことを言っていた記憶が……。

 ほぼ何も分からないまま私達に会話を合わせ、作戦進行の邪魔にならないように最低限の情報だけを尋ねてついてきたのか。

 

 察しの良さだけで付いてきた胆力に脱帽しながら、彼女にこの世界の常識を教える。


「オッケー。

まず、この世界の人には皆『彩色体』っていう細胞を持っていて、そこに固有の色を宿してる。

それが『Collar』で、それぞれ『Collarネーム』が付いてる。


――ここまではいい?」


 シヨウが「うん」と頷くと、説明を続けた。


「センジを思い出してみて。

あいつのColorは、『秩序課す危険色(イェロー・サイン)』っていう名前の純黄色なの。

ほら、瞳も綺麗な黄色だったでしょ? 」


 立ち止まることなく淡々と突き進み、精神的に引っ張ってきた彼女が立ち往生する様は珍しい。

 ハンターとしても、この世界の住人としても、色んな意味で先輩である自分が講義する立場となったことで、憂鬱になっていた心が僅かに高揚する。


「──でね、もっと単純な話をすると、この世界にはシヨウみたいな黒髪とか黒目の人って、基本的にいないのよ」


「え? てっきりそういう地域性なのかと」


 サキの言葉に、シヨウは意外そうに目を丸くした。

 黒があまり良い印象を持たれないとはいえ、自分の世界のようにあくまでそういう色が少ない地域によるものだと勝手に思い込んでいたからだ。


「黒に近い濃い紺色とか焦げ茶色ならいるけど、そこまで純粋な黒は必至になって探せばどこかに一人ぐらいはいるかも……ってレベル。

だから、あんたのその色はこっちじゃかなり目立つの」


「それは、また……。

髪色なんて黒と茶髪が殆どの私の世界とはまるで正反対だな」


「それだけしかないの?」


「ないことも、ないけど……。

あとは……金髪、極まれに赤、アルビノの白。歳とってグレーになるのはあり? 

――あっ、なし」


 サキが手をパタパタと横に振る様子に、元々なかった勢いが殺される。


「目もなぁ……やっぱり黒か茶色しかない。

赤、青、緑、黄色、紫、グレーとかも――、居はするけどめっちゃレア」


 淡々と語られる向こう側の世界のカラー事情に「へぇ」と驚きを隠さない。


「人間の基本色がそんなに少ないのね。

なんか変な感じ」


「こっちの人達がカラフル過ぎるんだよ。

最初に街をうろついてた時、コミケ会場にでも迷い込んだのかと思った。


――まあ、おかげですぐに異世界だって察しはついたけど」


「コミケって何?

……ま、とにかくそんなカラフルなこの世界で、一部の人は『Collar能力(スキル)』っていうのが使えるの。

そういう人達の事を総じて『Clover(クローヴァー)』って呼ばれているわ」


 サキの瞳は薄茶色だが、光の加減でほんのりと無彩色のホログラムが星屑のように散っている。


「ああ、あの車を止めた黄色い線のことをそんな風に言ってたな……。

あれ、どうやってんの?

施設に潜入する時は手でヒョイっ! てやってたけど」


 再度、『ないない』と手を振った。


「能力の性質もあるけど……コントロールの関係上、私とかセンジみたいに素で扱える人はそう多くはいないの。

まあ、出力も燃費も良くはないから、皆結局カートリッジを使うけどね」


 超能力のように、お手軽に使えるものではない。


「ハンターは基本的に自分のColorを事前に抽出して、カートリッジに詰めて戦うわけ。

迷彩状態のスポイラーとか、既に他の色を吸った奴を自分色に強制的に染め上げてダメージを与えてね。


ただ……これには弱点があって──」


 指を一本、二本と立ててみせた。


「そのスポイラーに適合した色だと逆にバフをかけちゃうこともあるの。

だから基本的に二人か三人で組んで、お互いに色を補う。

でも、人数が多すぎると今度は『混色暴発(カラー・ジャム)』が起こりやすくなる」


「混色暴発(カラー・ジャム)?」


「色が混じると黒くなるでしょ? Collar能力(スキル)の場合は、暴発。人が被ると自分の色が濁って体調を壊すし、スポイラーは暴走。

それが所謂、混沌(カオス)級とされている汚染率最高レベルの5よ。


今回暴れ回っていた奴はその一歩手前ってところね。

あれは黒雨を吸収してただけだし。

だからハンターのバディ制度って、実はすっごくシビアなのよ。

性格や戦闘(バトル)スタイル以前に、Colorの相性が絡んでくるから」


 そこでサキは、ニヤリと笑みを浮かべる。


「だけど私は『虚光幻象(ホログラム)』──、つまり無色。

皆みたいに色で攻撃することはできない代わりに、どんなに人数がいてもジャムる可能性はゼロ。

スポイラーを無彩色のまま照らし出して正体を暴いたり、攻撃に使ったインクを中和してスポイラーを質の高いサンプルとしてラボや企業に卸したりする。


……ね? 私って、地味だけどめちゃくちゃ優秀なサポーターなわけ」


「つまり汎用性が高いと、便利じゃんか」


 ベッドの傍らでシヨウが感心したように褒めると、待ってましたとばかりに胸を張った。


「でしょ? そうでしょ? もっと褒めてくれていいのよ?」


「なら、お言葉に甘えて」


 白い筋を取り終えたミカンを一房、サキの口元に突きつけながらジト目を向ける。


「なんでそんな有能なハンター様が、今までバディにフラれまくった挙句、『クラッシャー』なんて物騒なあだ名で呼ばれることになるんだ?」


「うぐ――っ」


 口に突っ込れた蜜柑をモグモグさせながら、サキは言葉を詰まらせる。

 実際、サキはこれまでに三人の相棒とペアを組んで、その全てを破綻させていた。

 

 Collarによる直接攻撃ができない分、サキは黒インクの濃度を上げた特製カートリッジを使用している。

 更に、#000000(ロクゼロ)もそのカートリッジによる反動に耐えられるように、一般兵装のインカ―マンをロマ研にカスタムさせ、文字通りの規格外の威力にしていた。


 その代償が、現場破壊――。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 一人目は、フードフェスでの戦闘中に特大窯でピザにされかけた。


 二人目は、スポイラーのバフを止める為に『噴水のライトを消せ』という命令に対して奮闘。

 しかし、市の電力システムを弄る許可がなかなか下りず、しびれを切らしたサキが高圧バルブごとライトを破壊――、からの洪水の対処で真っ白に。

 

 三人目に至っては、昆虫型スポイラーの死骸回収作業を三日三晩させられノイローゼになって転属。


 物怖じしない性格と大胆な戦法で、ブレーキの壊れたダンプカーのように相棒を振り回し続けたサキ。

 とうとう『特殊事案初動室』という窓際部署へと左遷され、新しいバディを見つけるまでハンターバッジと銃を取り上げられるペナルティを食らった。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「何やってんだか……」


 狂いきった過去に呆れ果てるシヨウとは裏腹に、サキはベッドの背に凭れ掛かって満足気にしている。


「初めてだったのよ。

こんなに、ひとに振り回されたのは」


「は――?」


「初めて会った時、魔改造した水鉄砲でいきなり援護射撃してきたでしょ?

あと、私達が手を焼いてたカスタムカーでカーチェイスやって、海にダイブ。

浜辺でいきなりドロドロの不倫劇を熱演し始めたかと思えば、店でレストラン顔負けのカレーを作って。

地下じゃ、あのクソ社長を相手に大演説ぶちかまして、水鉄砲を手榴弾みたいに爆発させるし。


……車で逃げてる時だってそうよ」


 瞳に散っているホログラムが、ほんのりと煌めいた。


「他所の世界の人達を踏み台にして日常を守ってきた私達に『四の五の言わずに助けろ』ってハッパかけてきて。

一緒に戦うとか言いながら、やっぱり関係ないってポップコーン食べながらお留守番したかと思えば……ちゃっかり戸籍取って、派遣社員になって、私のバディになってるんだもん」


「……冷静に思い返してみると、知り合ってから一日足らずでとんでもなくやらかしまくってるな……」


 シヨウが苦々しい顔で房をもぎながらちびちび食べると、声を上げて笑った。


「ホント無茶苦茶にも程があるわよ! 

――でもね、シヨウの言動はいつだって私をあてにしていたからこそだった」


 サキは自分の胸にそっと手を当てる。


「ハンターになって一人で動く時間が増えてからは、誰かからの援護なんて頭になかった。

車の中でも、みっともなくあんたに泣きつく私をか弱い女の子みたいに慰めて腫れ物扱いするんじゃなくて、ハンターとして背中を蹴り飛ばす勢いで肯定してくれた。

いつも『止まれ』『無茶するな』って止められるのが当たり前だったのに、自称一般人のくせして、ハンターの私に当然みたいな顔をしてついてきて、一人で勝手に無茶もする。


……だから私、背中を預けるのに何にも迷わなかったのよ。

ああ、こいつは人に縋ってるわけじゃなくて、普通に人をあてにして、普通に自分も頑張るやつなんだなぁって。


まあ、迷う暇も無かったっていうのもあるけどね」


 まだ知り合って一日も経っていなかった。

 なのにいつも全力で、どん引くぐらいサバサバしていて、でも変にノリが良くてボケるしツッコむ。

 

 背中を預けることに躊躇も不安も感じる暇もないくらい、いつの間にか当たり前のように隣にいた。 

 ラボで身勝手な拒絶をしたことなんて、気にもならなかった。


「相棒が次々と潰れていって『呪いの特等席』なんて言われてた私の隣に、あんたはわざわざ自分から乗り込んで来た。

元の世界に帰るまでの限定とはいえ、一緒にこの街で働かせてくださいって頭下げてまでね……」


 包帯の巻かれた手を伸ばし、彼女が剥いてくれたミカンをもう一房、摘まみ上げる。


「私の相棒(バディ)になってくれて――、ありがとう。

ラッキーね、シヨウ。こんなに素直な私は珍しいのよ?」

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