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オーダーメイト 〜お払い箱のはみ出し女ハンター、拾った異世界人と最強バディを組む〜  作者: 湖陽 照
第1章 始まりの街 彩流市 編 ~兼食の猟犬と偏食だらけのハンドラー~

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#56 鮮血の境界線 ① ~同じ生まれと異なる立場~

 荒々しいドライブは走行車両が他にいなかった事が幸いし、ギリギリ無事故で目的地――クロム社本社ビルの真下へと辿り着いた。


 だが、真に目指すべきは超高層ビルの遥か上の最上階。

 車から急いで降り、死角になって見えないヘリポートを見上げると……。


「遅かった――!」


 既に重装甲のヘリがローターを激しく風切らせ、屋上へと向かっているところだった。

 栗色の髪を手で押さえながら悔し気に睨みつける。


 今からビルのエレベーターや階段を駆け上がっていては、到底フライトに間に合わない。

 流石のロマ研カスタムの車でも手が届かない絶対的な高低差を前に、サキは己のドラテクを恥じる――、ことはしなかった。


「これだけ飛ばしてダメなら、他にどうやってタイムを縮めろっていうのよ!?

今度はワープボタンを付けるか、飛べるようにしてってソムリエにフィードバックしておかないと……」


「そんなオプションが罷り通ったら、私は本気でUFOとかドラゴンを探しに行く」

 

 シヨウは助手席のドアを苛立たし気に勢いよく閉めると、万年筆を魔法の箒――、箒形態(ブルーム・モード)に換装し直す。

 飛行に特化してるのか、ペン先は小さいまま。


 軸を垂直にしつつ白い穂を展開し、フレームに足を掛けた。

 そして、バッテリーの音が静かに唸り声を上げ、そのまま飛び立とうとする。


「ちょっと待っ――」


 慌ててサキは黒い柄に飛びつくと、重力を無視して一気に上昇。

 無茶苦茶な暴走ドライブに対する無言の怒りなのか、合図も無しに飛んだ。


 箒と一緒にビルの側面を滑走路のように駆け上がるが、あまりの風圧にレインコートのフードが暴れる。

 それを見たシヨウは黙ってそれを押さえてやると、サキのデバイスに反応が表示された。





『――スポイラー反応、複数探知。染色レベル不明、該当データ……なし――。

推定、タイプ:……■■■、■。判定不能』





「――シヨウ」


 索敵アラートが警告を促す。

 地下鉄を思い起こさせるような不気味なバグに警戒を強め、彼女に声を掛けて留意させる。


 相手は社長だけではない。

 互いに視線を交わし「……もう着く」「ええ、気を引き締めなさい」と、心構えの準備を整えるうちに最上階へ。


 軽い飛沫を上げながら、屋上の水溜りに着地する。


 吹きさらしのヘリポート。

 そこには雨の中、今まさに着陸せんとする専用ヘリを待っていた社長の姿があった。

 静かに傘を差して立つ彼の傍には、三人のフル装備の護衛らが待機している。


「とうとう追い詰めたわよ、この性悪オヤジ!

これ以上みっともない悪足掻きはやめて、大人しく観念しなさい!


今なら野暮ったいパトカーじゃなくて、ハイセンスなスーパーカーで送ってってあげる」


「心臓病・高血圧の方、高齢者の方はご利用をお控えくださいの文言が付くけど……まあギリ大丈夫とみた。

なにせ肝が据わってらっしゃる。色んな意味で」


 銃口を真っ直ぐ突きつけられながら軽口を叩かれるものの、男は一切動じる様子はなかった。

 皺が目立つ手で手元を握り、背筋を伸ばして余裕の佇まいを崩さない。


 怜悧な緑の瞳は、理解に苦しんでいた。

 理解力の足らない生徒に対し、呆れを通り越して憐憫すら覚える。


「既に受けた恩恵を、何故そこまで頑なに拒む……無意味だと気付かないのか?

否定したところで今までも――、そしてこれからも――、同じようにクロム社の技術で生きていくとゆうのに……そうまでしてヒーローごっこがしたかったとはな」


「この期に及んで、まだ善人を気取るつもり?

いい加減に――」


「子どもの夢を叶える為に大人が悪に扮することは多々あるが、生憎私にはそこまでの気力も体力も残っている年齢ではないのでね」


 プッツンと、話を遮られてしまったサキは怒りと徒労感でさっさと引き金を引いてしまいたかった。

 改めて思う――、自分は対人戦が苦手だ。


 人権もへったくれもなくガンガン殴って仕舞える相手なら兎も角、名の通ったご老体を一方的に撃つのはさすがに躊躇ってしまう。


 いっそ地下鉄の時のように、銃を乱射でもしてくれれば言い訳が立つというのに。


「オーケー、人の親切を聞く気は無いってことね」


「聞いているとも。

用意しておいたヴィラン人形はまだ残っていたはずだ。

好きなだけ殴って蹴って、遊んでくるといい」


「どうでもいいけど、私は別に否定する気はない。

意味がない――、その通りだ」


 不毛なやり取りをお返しと言わんばかりに、シヨウはバッサリと切り返した。 

 薄手のジレの裾が風で翻るたびに、黒い雫が端から飛び散る。


「クロム社が今までやってきたことは、仕方がないと済ませる他ない。

今更、私達がギャーギャー吠えた所で死んだ人間――、人(・)も、死にかけてる人も元には戻らない。


だが――、加減を間違えたな。

他所の世界だけなら兎も角、この世界の人間にまで手を出した」


 彼女が何を考えているのか、正直よく分からない。

 赤の他人だからこそ、他人事として考えると豪語していたが、ここまで淡々としていられるものなのか?


「対岸の火事も飛び火すると分かれば、大急ぎで火消しにかかるのが常識だ。

これ以上、お前の正しさとやらを許容できないというのが、この彩流市の総意らしい。


――研究はここで打ち止めだ。

いくら正しくても支持を得られなければそっぽを向かれる、どこの世界もそこは変わらない。

世知辛いが、自分のプレゼン不足が原因だと思って、大人しく諦めろ」


 彼女の無感情な宣告に社長は取り乱すどころか、ますます凍りつくような笑みを浮かべ、皺を深く刻む。

 差していた傘を手放すと、ヘリの風圧であっという間に舞台袖へと消えていってしまった。


 黒雨に濡れるのも構わず、この世界の絶対的な技術支配者としての威厳は揺るがない。


「サンプル風情が、よく口が回る……。

私の研究は私が死ぬまで終わらない、終わらせない。


お前たちが許容できないという技術で――、まとめて無様に死に絶えるといい!」


 禍々しいコードラインが這い回って光る黒いパッチは、喉元に貼り付けたままだった。

 

「――&q$#!」


 端的に命令を下された護衛たちは、無言で前進する。


「数が多いけどやるしかないわね……。

シヨウ、一気に片付けるわよ」


 唐突にデジャブがよぎった――。





 無機質なアラートによって知らされたスポイラーの存在。

 あの時、私はハンターバッチも武器も取り上げられていた、ただの休暇中の女だった。


 ネオン輝くオフィス街を駆け出す私を、止めるバディはい(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。





 そして、――現在。


 雇われの残党を叩くため飛び出す私を――――――――――バ(・)デ(・)ィ(・)が(・)止(・)め(・)た(・)。


「待った」


 シヨウが横から腕を伸ばし、サキの身体を強引に引き止める。


「なっ、何?」


 彼女は答えなかった。

 ただ、短かったペン先を伸ばして箒星形態(バレット・ブルーム)に換装させて臨戦態勢をとる。


「……どこまでも悪趣味なことで」


「フッ……ハハハ。

憎たらしいほど察しがいいな。

下手に取っておかず、さっさと処分しておくべきだったか」


 苦々しい表情を浮かべながら睨みつける実験動物に対し、首のパッチを撫でながらよくできましたと言わんばかりに嘲笑う。


「どういうことよ、説明!」


 敵と相棒が分かり合うような胸糞悪い空気に耐えかね、サキは再度シヨウへと返答を要求した。


「あれは人(・)じゃないってこと」


「え……?」


「いくらフル装備の防護服を着ているとはいえ、生身の人間が黒雨に打たれ続けて無事で済むわけがない。

……そして、あれはスポイラーでもない。

人型のスポイラーなんて存在しないって、二人がハッキリそう言った。


人ではない、スポイラーでもない、けれどスポイラーとして反応する……。

なら、あれは一体何だ?」


 そこまで言われて脳裏に最悪の答えが浮かんだ。

 あれは、ただのバケモノでも、ましてやこの世界の住人でもない。



 直後――。



 一人の護衛が突然獣のような唸り声を上げ、身体を異様に大きく膨らませる。

 ビリビリッと服を抜け殻のように破り捨て、人だった輪郭が今――完全に崩壊した。




 目の冴えるような紅蓮の獣――。

 雨を直接浴びた剛毛は次第に赤黒く染まり、さらに強暴な咆哮を轟かせる。




 もう一人が防具をそっと外す――。

 ヒトならざる者に目を付けられ、攫われかねない程に美しい相貌だった。

 白い肌は、分厚い雲に日を遮られる様に暗くなっていく。


 右手を挙げると、急な肌寒さが襲った。まるで嵐の前触れ。


 アレの頭上で、空気中の水分が急速に凍りつく。

 黒雨を巻き込みながら成長を続ける氷塊は大小様々な黒水晶となって煌めき、『よし』と言わんばかりに手を下ろす。





 二人は互いの肩を押し合い、左右に分かれて飛来する氷の猛攻を躱した。

 だが休む暇もなく三人目の護衛が、容赦なく銃の引き金を引くモーションに入っているのが見える。


「これ以上好き勝手にやらせないッ!!」


 サキはすかさず出力を加減した黒弾を放ち、相手の動きを沈色攻撃(カラー・ホールド)で強制的に止めにかかる。

 放たれた漆黒の弾丸は雨を突き破り、銃を持つ敵の右腕へとバンッ!! と正確に直撃した。


 よし! と確かな手応えを確信した、その瞬間――


「避けろ、サキッ!!」


 シヨウが喉を裂くような悲鳴を上げて叫んだ。


 「え――っ?」


 耳の穴から殴り込まれた警告にハッと我に返ると――――、黒弾を撃たれた相手は僅かによろけただけだった。

 沈色による麻痺効果など知らない護衛は、平然と銃を構え直して引き金を引く。



 ババババババババババババババッッッ!!!!



「まずっ――」


 

 いつぞやの路地裏と同じだった。

 一つの動作をやりきった特有の硬直が、その場に身体を縛り付ける。



 回避は間に合わない――。



 ――と思ったが。

 片手で掴んだ箒(ランス)で飛び、シヨウがタックルをかました。

 二人揃って雨に濡れたコンクリートの上を激しく転がりながら、間一髪で弾幕を躱し切る。





 一本の、赤い線を残して……

ご一読ありがとうございました。そろそろ1章の終着駅が見えてまいりました。


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