#55 ヤニ塗れの残業命令
最強タッグを乗せた超絶爆走カスタムカーが消え去り、暫くした後のこと。
――――グォォォォォォォォーーーーーーン!!!!
咆哮が夜空を砕く――。
メガホンを握る男は映画の監督さながらのノリで、Color能力の出力を馬鹿みたいに上げていた。
四方八方から押し寄せるCollar攻撃が通らなかった酷い汚染体。
脱色インクを用いて誕生した怪獣によって、次々と蓄えた色を奪われていく。
尽く踏み潰し――、殴殺を繰り返し――、数はみるみる減っていった。
だが、暴れっぷりを見守るセンジの表情は険しい。
「形は派手ですが……やはりタフさが足りないか――」
監督の能力の威力は、現役のハンターに引けを取らない。
しかし長時間の上映――、即ち造形物の具現化は一見すると圧倒的な威容を誇りはするものの、二次元であるからこそ成立する無茶を無理やり三次元に引き伸ばしている。
そのため、耐久値が低いという致命的な欠陥を抱えていた。
加えて、彼のColorの総量はけっして多い方ではない。
強引に怪獣の存在を維持し続けているものの、度重なるスポイラーの特攻を受ける。
次第に、肉眼でもはっきりと分かる程の無数の裂け目が走り始めていた。
『灰色の銀幕』のオチは爆発だというのは、PALLET彩流支部のお約束。
この巨体が戦闘の負荷に耐えかねて爆発すれば、この一帯が跡形もなく更地になってしまう。
「ケチを付けるなセンジ! 撮影にはトラブルが付き物だ!」
煩い外野を黙らせる。
まだまだこれからだと言わんばかりに声を張り上げるがその一方で、Colorの象徴である灰銀色が、メガホンを握る監督の瞳から徐々に抜けていく。
ドームも既にあちこちからひびが入り、サキの開けた天井の穴からも雨漏りがしていた。
「くそッ……フィルムの尺が足りん。
こうなったら多少雑でも必殺技撃って、巻きで終わらせてやる……っ。
いけッ、映写怪獣ギネマ!! 『破壊こうせ――』」
『それだけは(やめろ/やめて)ーーッッ!!!!』
これだけの大作、中途半端に爆発で終わらせるくらいなら必殺技で諸共殲滅しようとする監督の暴挙を、ハンター達は必死で待ったを掛けた。
白インクそのものと言っても過言ではない怪獣の光線など許せば、この場にいる全員がこの世から消されてしまいかねない。
口の奥で蓄えたエネルギーを明滅させる。
けれどいよいよ寿命なのか……崩壊が進み、誰もがとんちき監督のロマンによる共倒れを覚悟する――。
カチャ、シュボッ……
子気味いい金属音が、雨音の中で響く。
ポケットから取り出したジッポで、葉巻に火を灯した。
「――『捻じり消させぬ煤刻命令 (グライムオーダー)』」
地面に落とした灰は足で乱雑に押し潰される。
すると、それを起点に茶褐色の重たい煙が、公園に一気に立ち込めた。
「テメェらッ、俺の許可なく勝手に退勤できると思うなよッ!!」
濃密な紫煙は雨などお構いなしに、ドームや純白の怪獣を汚していく。
スポイラーの攻撃で半壊したドームは殻を被ったかのように補修されて強度が増し、今まさに自壊しかかっていた空想生物はタッカーの命令を受け、帰宅を禁止された。
Collarによるヤニで汚れた大怪獣はまっさらな空想に現実味を宿し、より重厚な絶望を叫ぶ――。
――――ギャァシャァァァァアアアアア!!!!!!!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
タッカーのCollarは『絶対遵守の紙煙草』。
その能力、『捻じり消させぬ煤刻命令 (グライムオーダー)』は消させない、手を出させないことに特化したもの。
物であれ、他人の能力であれ、彼の命令のもと破壊不可の烙印を押される。
普段、カートリッジを介し電子タバコという形で能力を使用しているのは、Collarの出力を細かく制御する為。
だが今回のように効果範囲を広げる際には、あえてカートリッジを捨てる。
そして、葉巻の煙そのものにCollarを同調させる。
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能力の性質上、使いどころが限られる。
そのうえ、自分のCollarで汚すことが前提となるため、混色暴発を考えると乱用はできない。
故に、タッカーは現場ではなく机仕事をメインにキャリアを積んできたが、その際にこの能力が光った。
上へ上へと昇り続けるにつれて、つまらない足の引っ張り合いが起こるようになる。
隠蔽、偽装、改竄、ありとあらゆる嘘とかさ増しした事実で、自分の椅子を壊しに来る連中からの書類やデータの保全に役立った。
あの何かやらかしそうな上司面でいて、彼の管轄するこの彩流支部の信用は意外にも高い。
もっとも、やらかすメンツが揃っているという意味でも信用は一目置かれているが……。
「はッ! ベストなタイミングだな、ボス。
まさか狙ったのか?
映画のヒーローさながらのご登場だ」
タッカーは煙を撒きながら、ドスの利いた罵詈雑言を叩きつける。
「ヒーローだと? 吐き気がする!!
自分とこの庭を鼻持ちならないクソ社長の手先どもに荒らされて、ニコニコ笑ってられるヒーローがどこの世界にいる!?
全員、耳をかっぽじって聞きやがれ!!
残業だ――ッッ!!!!」
煙をさらに押し広げ、まだ残っている大量のスポイラーをドスを効かせながら睨みつけた。
「テメェらのケツを引っ叩くのに、ご丁寧な書類も電話も必要ねえッ!!
ここは俺の管轄だ、俺のルールに従えッ!!
タイムカード代わりにコイツらをさっさと片付けろ!!」
「いいとも!
奇遇だなボス、俺もまどろっこしいのも気に入りの撮影場所を荒らされるのも嫌いなんだ。
おいお前らっ、ボスの残業命令は実質『有給をドブに捨てろ』と同義だ!
これ以上ない、ブラックな展開じゃねぇか!!
手早くオチをつけるぞッッ!!!!」
ボスの横暴なCollar能力と、容赦のない命令。
和やかで憩いの場であるはずの中央公園は、ヤニ塗れのガラの悪い戦線となってしまった……。




