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オーダーメイト 〜お払い箱のはみ出し女ハンター、拾った異世界人と最強バディを組む〜  作者: 湖陽 照
第1章 始まりの街 彩流市 編 ~兼食の猟犬と偏食だらけのハンドラー~

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#47 Bad End……? ~ソロタックル~

 地上へと続くトンネルを、廃れた列車が爆走中。


「これ、本当に減速すらできないわけ!?」


 ブレーキレバーを力任せに引き絞ったが、うんともすんともいわなかった。

 極小のパッチ如きで、とうに死んだ車両をゾンビの如く自立走行させている時点でまともな代物ではない。

 爆発オチを好む監督が絡んでいるのなら、後先の事など眼中にないのは分かりきっている。


 そんなことを考えていると――、



パンッパンッパンッ――



 弾が車体を激しくノックした。


「くそっ、しぶとい連中だな! 

おいドマスッ、あいつらをこれ以上近づけるな!!」


 後方から新たな問題(列車)が追いかけてくる。

 睨みつけてきた先頭のヘッドライトの光が、こちらの運転席にまでチラついて鬱陶しい。


 改造スポイラーの脅威値は、『減色中和(フェードアウト)』付きの黒弾で下げた。

 黒が落ちて本来の姿が露わになった異界の生物達は、通常のスポイラーと違い退色しても透明化せず立ち上がる。

 なので瓦礫の山を築いて黙らせた。


 即断即決。

 世界を越えたバイオハザードを阻止したが、そのあまりにあっけない顛末に涙を禁じ得ない。


 ――が、一方で武装集団は仕留めきれなかった。


「おうよっ! 

『赤褐の潰雨(マホガニー・レイン)』――ッ!!」


 重火器タイプの武装を好む彼は、最後尾のデッキまで駆け足で向かって矢鱈がたいの良い銃を構える。


 大きな銃口から放たれる能力は本来、視界の強奪――。

 広範囲にわたって作用するミストのような能力だ。


 しかし、彼の気質なのか一点集中の砲弾と化したそれは、圧倒的な質量となって相手を叩き潰す攻撃力を副産物的に勝ち得た、全く意味の分からない技となっていた。


 赤褐色の霧は、過度な圧縮により完全な液体へ。

 追跡してくる列車に向け、重いColorの一撃が爆発するッ。



 ドッガァァァァァンッ!!!!



「う゛わッッ!!?? 」


「おいおい、そんなに目ぇこすんなよ。


――ただの雨だろ?」


 赤褐色の水塊に殴りこまれてタダで済むはずもなく、男達はフロントガラスごと吹き飛んだ。

 あまりの衝撃に顔部分は酷く歪み、車体が大きく跳ね上がる。


 過圧から解放されたColorは、霧状に戻って車内を満たす。

 悲鳴を上げながら車体が線路に戻ると、ドマスと一緒についてきたフォルドが、さらに追撃を行った。


「目潰しなのに相変わらず意味の分からないパワーだな。 


――『苔緑の埋葬(モス・グレイブ)』」


 小型のハンドガンで車輪に何発か撃ち込む。


 すると着弾点から異常な速度で、湿った苔と強靭な蔓が増殖を始めた。

 植物系のエネルギーが、潰れた運転席もろとも駆動部や車輪へと異常な速度で絡みつく。


 赤褐色と濃緑のCollarが混じり、所々茶色に変色した彼らの能力は、相互関係によりさらに強力な拘束に変化した。


 鉄の怪物は古い墓標のように錆び付き、湿った土壌に根を張るように深い緑に覆われる。

 甲高い制動音と同時に今、





 息の根が――――、止まった。





 激しい火花を散らし、最後の悲鳴を上げながら、闇の奥へと消えていく……。


「……そこで大人しく朽ちていろ」


 いつの間に出口まで来たのか、雨の音が聞こえ始めた。

 ぽっかり空いた黒い穴が遠く、小さくなっていく。


「ナイスショット!」


「おいおいサキ。

いつもは大喰らいのくせに、今日に限ってお残しがあるなんて珍しいじゃねぇか?」


「そういう日もあるわよ。 

人質の安全を最優先した結果!」


「ハッ。

だがまぁ、濁都の連中に比べりゃ、あいつらなんて反抗期のガキレベルだな!」


「お前の学生時代の反抗期よりかは、まだあいつらの方がガッツあったんじゃないか?」


「んなわけねぇだろ!! 

なんなら今ここで、俺の当時のイカした武勇伝を聞かせてやってもいいんだぜ?」


「お前らッ!! 


――現実逃避もそこまでだ、次は俺たちの終着駅だぞ」


 先頭車両に残ったギネが、指差しながら悲鳴を上げる。

 慌てて軽口を止めて駆け戻り、私達が目にしたのは……。



 暗闇の奥の奥、立ち塞がる絶望をヘッドライトが微かに照らしだした。

 全員の顔から一瞬にして血の気が引く。


『え゛ぇぇーーーーーーッッッ!?!?』


 車内がパニックのどん底に。レールは続いている。

 しかし、巨大なコンクリートが線路上に仁王立ちしていた。


「ホントに壁ッ!? ……よし!! 

ここはあんたたち自慢の筋肉の出番よ!!


私が応援してあげるから、全員でスクラム組んで電車を止めなさい!!」


「「「アホかッッ!!!!」」」


 あまりにも無茶苦茶なサキの丸投げ命令に、激しいツッコミの嵐が錯綜する。


「生身のスクラムで時速何十キロの鉄の塊が止まるわけないだろ!?


お前の違法スレスレの銃はただの飾りかよッ、今すぐそれでぶち壊せ!!」


「アレをぶっ壊したら、瓦礫で横転するわよッッ!!!!」


 間抜けな言い合いをしている間にも、タイムリミットが目の前まで迫っていた。

 破滅のカウントダウンがゼロになるのをただ待つばかりなのか――





――ブァァァァァァンッッッ!!!! 


♩~~~ ♩~~~ ♩~~~!!!!





 その時――、凄まじいエンジン音と二筋の光が。

 

「――え!?」


 黒雨を裂くハイビームと共に下道から躍り出てきたのは、正面ロビーに放置されていたはずのカスタムカーだった。

 助っ人登場と言わんばかりの上向きのBGMを流しながら、私達が走るデッドラインへと突っ込んでくる。


「おいあの車、何をする気だ!?」


 車は華麗にテールを滑らせ、クルッと側面を猛然と突っ込む列車の先頭に当たりにいった。

 かつて港町のカーチェイスの最中、カーブを力技で曲がるために使用した【衝撃反発シールド】が、車体の両サイドから展開される。



 ――ガシャッ!! ガガガガガガガガガッッッ!!!!



 旧世代と新世代――


  重量(ヘビー)級と軽量(ライト)級――


   単純機構と複雑技巧――



 奇しくも、どこかの非現実(ファンタジー)主義者と近未来(SF)主義者を思わせる戦いの構図となった。


 最古の力の一つである圧倒的な『質量』が『最新』のシールドを大きく拉げて押し潰し、ゴムが焦げる臭いと火花が爆ぜる――





 ズガァァァァンッッッ!!!!



 


 廃電車の突進をその身一つで受け止め――、鉄の怪物は膝を折る。

 巨大なコンクリートの壁に挟まれる形で、自身の車体を強引に緩衝材としたのだ。



 シィィィ……と、潰れた車体から白い煙が立ち上る。


 衝撃で床に転がった身体をどうにか起こすと、雨に構わず私は変形したドアを強引に開け、急いでAIへと駆け寄った。


 ドアは見るも無残な程に歪み、シールドは紙風船のように力なく萎みきっていた。

 今にもバラバラになりそうな車体を叩く。


「――AI!! AI、聞こえる!? 

返事しなさい!!」


 必死に声を掛け続けると、壊れかけたコンソールから途切れ途切れの電子音声が弱々しく返ってきた。



『――システ……正常。

乗員……およ、び人質諸氏の……バイタル、生存を……確認。


……皆様、ご無事……ですか……?』



「――っ。あんたのおかげで、人質も私たちも全員無事よ!!

本当に、本当に最高にいい車だわ、あんたは……!!」


 涙絶え絶えに微笑むと、AIはさらに激しい火花とノイズを散らす。

 そして、静かに最後のコードを紡いだ――。



『――お役に、立てれば……幸いです。

……これ、にて、全システ、ム……シャット、ダウゥ……ン……』



 紳士的な機械ボイスが次第に低く、鈍くなっていく。

 車の計器の光が徐々に消えていき――、事切れた。


「AI……? 嘘でしょ、AI!! 

嫌よ、目を開けなさい、AI――ッッ!!!!」


 あまりに健気で立派な最期。

 大破したカスタムカーを前に、他のハンター達も男として感じ入るものがあったのか、誰もが帽子を胸に当てて深く感傷に浸る。



 自分もいつか、こう死ぬことができれば――――。



 無人の廃れた線路に降り続ける黒雨。

 悲劇のバッドエンドを静かに彩(・)る(・)……。





* * *














 涙を拭い、ノロノロと見慣れた赤くて丸い起動ボタンをぽちりと押して、「AI……」と力なく呟いた。




 ――ポンッ♪




『――はい。御用でしょうか、サキ様?』



 信じられないほど軽いお気楽な電子音。

 液晶モニターが、何事もなかったかのように明るく点灯した。


「「「「「壊れたんじゃなかったの (かよ)ッッッ!!??」」」」」


 誰もが涙を流した、シリアスな感動シーン。

 あまりに台無しなネタバレに、歓喜を何周も通り越して怒気しか湧いてこない。


「おい!! 

システムシャットダウンとか言って、今まさに事切れたみたいな劇的な演出してただろ!? 


完全に死ぬ死ぬ詐欺じゃないか!!」



『マイナートラブルによる一時的な再起動です。

……所謂、映画や特撮における『様式美』でございます』



「いらないわよッ、そんな心臓に悪い様式美はッッ!!!!

ソムリエのやつ――、マジでいい加減にしなさいよッ!!??」


 真っ赤になってコンソールを殴りつけると、皆も涙を引っ込めて激怒した。


「またあのクソムリエの野郎かよ!! 

俺たちのピュアな純情を弄びやがって!!」


「意味が被ってるぞ、ドマス。


――サキ、後でロマ研に殴り込みに行くなら、その時だけは喜んでお前と臨時のバディを組んでやる」


 報復と怨嗟を混ぜ合わせた計画を立てている最中、形状記憶合金のボディがミシミシと音を立てながら自力で元通りに自動修復していく。


「……はぁ。まぁ、無事ならいいわ。

ところでAI、なんであんたがここにいるわけ? 留守番のはずでしょ。

ロマ研の連中に『助けに行け』って言われたの?」



『――いいえ。ロマ研の指示ではございません。


――シヨウ様によるものです』



「――シヨウが?」


 驚きのあまり、目を丸くした。


「無関係を決め込んで観戦してるって言ってたのに……なんで、私達を助けるためにあんたを寄越したわけ……?」


 あれから一体何があったのか? 何をするにしても命懸けになるこの状況下で、首を突っ込む理由などあるはずがない。

 修復を完了したAIは質問に答えず、代わりに今の戦況を報告する。



『――現在、中央公園の噴水前において、センジ様および多数のハンターが苦戦を強いられております。


……シヨウ様は最前線へと向かわれました』



「何ですって――ッ!?」


 シヨウが――、戦う理由もCollar能力もない一般人の彼女が、よりによってあの化物どもの津波が押し寄せている一番危険な戦場へ向かった。

 その事実に、頭が真っ白になった。


「サキ、よく分からんが早く行ってやれ」


 フォルドが私の背に声を掛ける。

 見れば、彼らのレインコートは既にボロボロに破れており、剥き出しになった筋肉が黒く沈色してしまっていた。


「俺達はここで、人質たちと一緒に救助の到着を待つ。

……ご覧の通り、もう俺たちの体は汚染の痺れでまともに動きそうにない」


「これ以上黒雨を浴びたら、マジで俺の筋肉がカチコチになるって、現役の勘が告げてるんでな。

ここらで仕事納めだ、退勤させてもらうぜ。


とっととそのカッケー女の加勢に行ってやんな!」


 彼らの眼差しに、強く唇を噛み締め深く頷く。


「――ええ、分かったわ。すぐにケリをつけてくる!」


 即座にピカピカに直ったカスタムカーの運転席へと飛び乗ると、後ろに残った動けないハンター共が好き勝手にヤジを飛ばし始めた。


「なぁ。

今回、サキが彩流市を『半壊』するか『全壊』するか、今のうちにどっちか賭けようぜ! 


俺は『全壊』に1万フィル」


「俺も『全壊』だ。

今夜の破壊神は、タッカーから半壊の許しを得てるからな。


甘めの見積もりと曲解解釈で、壊滅一歩手前までといったところだな」


「ケチくさい賭けしてんじゃねぇよ! 

俺はいっそ『更地』に賭けるぜ!!」


「あ、ずるいぞドマスッ、俺もそっちの更地ベットに乗り換える!!」


「ちょっとあんた達!! 

どっちにしても街が消滅する前提じゃないッ!!!!」


 ハンドルを握り締めながらキレ気味にツッコミを入れると、コンソールからお馴染みの軽い電子音がポン、と鳴った。



『――中央公園噴水前、目的地を設定しました。

これより最高速度にて、迅速にお連れいたします』



「……そのセリフ、なんだか凄くいい思いがしないんだけど……っ!」


 私は顔を歪めながらも、力強くアクセルペダルを床まで踏み込む。

 黒く染まった夜の彩流市の闇へと爆音を響かせながら、弾丸のように速く猛烈な速度で発進した。


「――行くわよ、AI!! 

あのバカ、絶対に死なせやしないんだから!!」

ご一読ありがとうございました。

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