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オーダー・メイト(Order-Mate)~兼食の猟犬と偏食だらけのインフォーマ~  作者: 湖陽 照
第1章 彩流市 編 ~交わる二人の愛食者~
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#46 ソロタックル

 地下鉄の廃車両基地から地上へと続く暗黒のトンネル内を、ブレーキの壊れた廃電車が凄まじい火花を散らしながら大爆走していた。


「これ、本当に減速すらできないわけ!?」


 運転席のレバーを力任せに引き絞ったが、うんともすんともいわなかった。

 極小のパッチ如きで、とうに死んだ車両をゾンビの如く自立走行させている時点でまともな代物ではない。爆発オチを好む監督が絡んでいるのなら、後先の事など眼中にないのは分かりきっている。


 すると、後方から新たな問題が激しい銃撃の音となってトンネル内に反響した。


 先ほどの『減色中和(フェードアウト)』付きの特大の黒弾でスポイラーは全滅させた。

 だが男たちの方は仕留めきれず、なんと元々乗るはずだったのだろう、逃走用の車両で後ろから猛スピードで追いかけてきたのだ。


「くそっ、しぶとい連中だな! ――おいドマスッ、あいつらをこれ以上近づけるな!!」


「おうよ! ――『赤褐の潰雨(マホガニーレイン)』ッ!!」


 ドマスが赤褐色のColor能力を解放した。

 重火器タイプの武装を好む彼はゴツイ武器を構えた。大きな銃口から放たれる能力は本来、視界の強奪であり広範囲にわたって作用する雨のような能力。

 しかし、彼の気質なのか一点集中の砲弾と化したそれは、圧倒的な質量となって相手を叩き潰す攻撃力を副産物的に勝ち得た、全く意味の分からない技となっていた。


 追跡してくる列車に向けて重い一撃がぶっ飛ぶッ!


 ドガァァァァァンッ!!!!


「う゛わっ!? 」


「おいおい、そんなに目をこすんなよ……。ただの雨だろ?」


 一塊りとなった赤褐色の雨に殴りこまれタダで済むはずもなく、運転席の男たちはフロントガラスごと吹っ飛んだ。

 あまりの衝撃に列車の顔は酷く歪み車体が大きく跳ね上がる。悲鳴を上げながら車体が線路に戻ると、フォルドがさらに追撃を行った。


「目潰しなのに相変わらず意味の分からないパワーだな。 

――『苔緑の埋葬(モスグレイブ)』」


 小型のハンドガンで何発か車輪に向かって撃ち込んだ。

 すると着弾点から異常な速度で湿った苔と強靭な蔓が増殖を始める。強靭な植物質のエネルギーが潰れた運転席もろとも駆動部や車輪へと異常な速度で絡みつく。

 赤褐色と深緑が混じり、所々茶色に変色した彼らの能力は、相互関係によりさらに強力な拘束となって襲い掛かる。


 鉄の怪物はまるで古い墓標のように錆び付き厚い緑に覆われていき、凄まじい制動音と同時に息の根が止まった。

 激しい火花を散らしながら闇の奥へと消えていく。


「……そこで大人しく朽ちていろ」


 いつの間にか出口まで走ったのか、雨が車体を濡らす音が聞こえ始めた。

 ぽっかり空いた黒い穴が遠く、小さくなっていく。


「よし! 追ってきた連中は完全に倒したわね!!」


「おいおいサキッ。いつもは大喰らいのくせに、今日に限ってお残しがあるなんて珍しいじゃねぇか?」


「うるさいわね! 人質の安全を最優先した結果よッッ!」


「ハッ、だがまぁ、濁都の連中に比べりゃ、あいつらなんて反抗期のガキレベルだな!」


「お前の学生時代の反抗期よりかは、まだあいつらの方がガッツあったんじゃないか?」


「んなわけねぇだろ!! なんなら今ここで、俺の当時のイカした武勇伝を聞かせてやるぜ?」


「お前らッ!! ――現実逃避もそこまでだ、次は俺たちの終着駅だぞ」


 ギネが指差して悲賢を上げた。

 私たちは慌てて軽口を止めて前方を見据えた瞬間、全員の顔から一瞬で血の気が引いた。闇の奥の奥、まだずっと先だがヘッドライトが微かに照らしだしていた。


「――線路の上に壁ッッッ!?!? このままじゃ激突するわよ!!」


 車内がパニックのどん底に叩き落とされる。

 レールは続いているが廃線ゆえにコンクリートの巨大な行き止まりの壁が、無情に立ち塞がっていた。


「よし、あんたたち!! ここはあんたたち自慢の筋肉とColorの出番よ!!

私は後ろからColor能力で全力でサポートして応援してあげるから、全員でスクラム組んでこの電車をどうにか止めなさい!!」


「「「アホかァァァッッッ!!!!」」」


 あまりにも無茶苦茶なサキの丸投げ命令に、車内に激しいツッコミの嵐が錯綜する。


「生身のスクラムで時速何十キロの鉄の塊が止まるか!!

お前の解体業者としての腕はただの飾りかよ、今すぐその銃で前の壁ごと全部ぶち壊せ!!」


「アレをぶっ壊したら、瓦礫で横転するわよッッ!!!!」


 ツッコミが凄まじい勢いで交錯する。

 だが、そんな間抜けな言い合いをしている間にも、もう途切れた線路が文字通り目の前まで迫っていた。破滅のカウントダウンがゼロになる、その瞬間――――


 ――バガァァァァンッッッ!!!!


 突如として暗闇を切り裂く二筋の光、そして凄まじいエンジン音が鼓膜を震わせた。


「――え!?」


 ヘッドライトの光の飛ばしながら飛び出してきたのは、あの正面ロビーに放置されていたはずの、最新AIを搭載したウチのカスタムカーだった。

 車は凄まじい速度を維持したまま、大爆走で私たちが走るデッドラインへと突っ込んでくる。


「おい、あの車、何をする気だ!? 狂ってやがる!!」


 カスタムカーは凄まじいタイヤの駆動音を響かせながらテールを激しく滑らせ、クルッと車体の側面を、猛然と走る列車の先頭へと叩きつけた!


 ――ガシャッ!! ガガガガガガガガガッッッ!!!!


 激しい火花と金属の擦れ合う轟音。

 その激適の刹那、かつて港町のカーチェイスの最中、カーブを力技で曲がるために使用したあの【衝撃反発シールド】が、車体の両サイドから最大出力で展開された!

 衝撃波の防壁が激しく歪み、押し潰されそうな凄まじい圧力を発しながら、車の車体は暴走列車に全力で押され続ける。

 ゴムの焦げる臭いと火花が視界を遮るなか――


 ズガァァァァンッッッ!!!!


 廃線の行き止まりである巨大なコンクリートの壁に挟まれる形で、自分自身の車体を強引に緩衝材となった。

 廃電車の突進をその身一つで完全に受け止め――、私たちを乗せた鉄の怪物は奇跡的に止まった。


 シィィィ……と、潰れた車体から白い煙が立ち上る。

 どうにか起き上がると、降り続ける雨に構わず私は運転席のドアを蹴り破り、急いで目の前で大破している車へと駆け寄った。

 ドアは歪み、シールドは萎みきっていた。今にもバラバラになりそうなほどボロボロになった車体を両手で叩く。


「――AI!! AI、聞こえる!? 返事をしなさい!!」


 必死に大声で叫ぶと、潰れたコンソールからひどく途切れ途切れの電子音声が弱々しく返ってきた。


『――システ……正常。乗員……およ、び人質諸氏の……バイタル、生存を……確認。

……サキ様、皆様、ご無事……ですか……?』


「――っ、あんたのおかげで、人質も私たちも全員無事よ!!

本当に、本当に最高にいい車だわ、あんたは……!!」


 私が涙を堪えながら微笑むと、AIはさらに激しい火花とノイズをコンソールから散らせながら、静かに最後のコードを紡いだ。


『――お役に、立てれば……幸いです。……これ、にて、全システ、ム……シャット、ダウン……』


 紳士的な声が次第に低く鈍くなっていく。

 そして、車のすべての計器の光が完全に消灯し――、完全に事切れてしまった。


「AI……? 嘘でしょ、AI!! 嫌よ、目を開けなさい、AI――ッッ!!!!」


 私大破した車にしがみついて大声で叫び、周囲のハンターたちも、そのあまりにも健気なAIの最期の自己犠牲の空気に完全に呑み込まれ、誰もが帽子を胸に当てて深く感傷に浸っていた。

 無人の線路に降る黒雨の音だけが、悲劇のエンドロールのように静かに響き渡る。












 サキは涙を拭う。

 ノロノロとコンソールの端にある赤くて丸い起動ボタンをぽちりと押して、「AI……」と力なく呟いた。




 ――ポンッ♪




『――はい。御用でしょうか、サキ様?』


 信じられないほど軽い、いつものお気楽な電子音と共にナビの液晶モニターが何事もなかったかのように鮮やかに点灯した。


「「「「「壊れたんじゃなかったの (かよ)ッッッ!!??」」」」」


 誰もが涙を流した、極限の感動のシリアスシーンだった。

 あまりの台無しっぷりに、全員が一斉にズッコケながらギョッとした顔で大絶叫した。


「おい!! システムシャットダウンとか言って、今まさに事切れたみたいな最高の演出してただろ!! 完全に死ぬ死ぬ詐欺じゃないか!!」


『――マイナートラブルによる一時的な再起動です。

……映画や特撮における『様式美』というやつでございます』


「いらないわよッ、そんな心臓に悪い様式美はッッ!!!!

――もう、ソムリエのやつ、マジでいい加減にしなさいよッ!!??」


 私が真っ赤になってコンソールを殴りつけると、皆も涙を引っ込めて激怒した。


「またあのクソムリエの野郎かよ!! 俺たちのピュアな純情を弄びやがって!!」


「意味が被ってるぞ、ドマス。

――サキ、後でロマ研に本気で殴り込みに行くなら、その時だけは喜んでお前と臨時のバディを組んでやる!」


 そんなワチャワチャした怒号が飛び交うなか、カスタムカーの形状記憶合金のボディが以前に海岸で見せたときと同じように、ミシミシと音を立てて自力で元通りに自動修復されていく。


「……はぁ。まぁ、無事ならいいわ。ところでAI、なんであんたがここにいるわけ? 留守番のはずでしょ。

ロマ研の連中に、私たちを助けに行けって言われたの?」


『――いいえ。私の出撃は、ロマ研の指示ではございません。――シヨウ様の指示にございます』


「――シヨウが?」


 私は驚きのあまり、目を限界まで丸くした。


「完全にこの街の戦いには無関係を決めて、ポップコーン食べて観戦してるって言ってたのに……なんで、私たちを助けるためにあんたを動かしたわけ……?」


 私が不安げな声で聞くと、修復を完了したAIがデジタル音声で最悪の戦況を知らせてきた。


『――現在、中央公園の噴水前において、センジ様および多数のハンターが苦戦を強いられております。

……シヨウ様は現在、特製中和カートリッジを手に最前線へと向かわれました』


「何ですって――ッ!?」


 シヨウが、戦う理由もCollar能力もない一般人の彼女が、よりによってあの化物どもの津波が押し寄せている一番危険な戦場へ向かった。

 その事実に、私は頭が真っ白になった。


「サキ、よく分からんが早く行ってやれ」


 フォルドが私の背中に声を掛ける。

 見れば、彼らのレインコートは既にボロボロに破れており、剥き出しになった筋肉が、黒く沈色してしまっていた。


「俺たちはここで、人質たちと一緒に救助の到着を待つ。

……ご覧の通り、もう俺たちの体は汚染の痺れでまともに動きそうにない」


「これ以上黒雨を浴びたら、マジで俺の筋肉がカチコチになるって、現役の勘が告げてるんでな。ここらで仕事納めだ、退勤させてもらうぜ。

とっととその最高にカッケー女の加勢に行ってやんな!!」


 彼らの眼差しに、私は強く唇を噛み締め深く頷いた。


「――ええ、分かったわ!! すぐにケリをつけてくる!!」


 私が即座にピカピカに直ったカスタムカーの運転席へと飛び乗ると、後ろに残った動けないハンターどもが、車外から好き勝手なヤジを飛ばし始めた。


「おいお前ら!! 今回、サキが彩流市を『半壊』するか『全壊』するか、今のうちにどっちか賭けようぜ!!  俺は『全壊』に1000フィル!!」


「俺も『全壊』だ。サキの破壊神っぷりは今夜、さらに磨きがかかってるからな」


「ケチくさい賭けしてんじゃねぇよ! 俺はいっそ『更地』に賭けるぜ!!」


「あ、ずるいぞドマスッ、俺もそっちの更地ベットに乗り換える!!」


「ちょっとあんたら!! どっちにしても街が消滅する前提じゃないのよッ!!!!」


 私がハンドルを握り締めながらキレ気味にツッコミを入れると、コンソールからお馴染みの軽い電子音がポン、と鳴った。


『――中央公園噴水前、目的地を設定しました。

これより最高速度にて、迅速にお連れいたします』


「……そのセリフ、なんだか凄くいい思いがしないんだけど……っ!」


 私は顔を歪めながらも、力強くアクセルペダルを床まで踏み込んだ。


「――行くわよ、AI!! 

私たちの『相棒』を、絶対に死なせやしないわよッッッ!!!!」


 ギガガガガッッッ!!!


 自動修復されたカスタムカーは、黒雨の降り注ぐ彩流市の夜の闇へと最高出力の爆音を響かせながら、弾丸のように鋭く、猛烈な速度で発進する。

ご一読ありがとうございました。

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