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オーダー・メイト(Order-Mate)~兼食の猟犬と偏食だらけのインフォーマ~  作者: 湖陽 照
第1章 彩流市 編 ~交わる二人の愛食者~

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#45 止まらない列車、かの者の行方

「――彩流支部より全職員へ告ぐ!! サキ班による人質の奪還、および拉致被害者に貼られたパッチの処理、すべてオールクリアでござる!!」


 SEの絶叫に似た知らせが鳴り響いた瞬間、PALLETE彩流支部の庁舎内にこれまでにない凄まじい地鳴りのような歓声と拍手が湧き上がった。


「あァーッ、うるせえええええッッッ!!!! 泣いて喜んでる暇があったら手を動かしやがれッ!!

人質が引っこ抜けただけで、まだ肝心のクロム社の残党共と社長のゴミ処理が1ミリも終わってねぇんだよ!!」


 管制室でタッカーが通信機に向かって鼓膜が破れるほどの怒号を吐き捨てる。

 その時、地上へ向かって猛然と大爆走を続ける廃電車の無線機から、フォルドの悲鳴のような通信が飛び込んできた。


『タッカー!! 喜んでるところ水差して悪いが、この車両は一体どこまで行くんだ!? 

大至急この線路の終着駅を調べてくれ!!』


 その怒号に、支援部とラボメンバーが慌ててキーボードを叩いて線路のルートを逆算し、車両の行き先を確認した。


「分かりましたぞ! その線路は確かに地上へ行ける構造になっているものの、何年も前に使われなくなった廃線ゆえに、最終的にはコンクリートの壁で行き止まりになってるでござるよォォォッッッ!!!!』


『行き止まりィィィッッッ!? ――っていうかこれ、そもそもどうやって止まるんです!? 

車両が動いたのはいいものの、ブレーキとか操縦とかさっきから一切効かないんすけど!?』


『ちょっと!? 電車を動かせって言ったけど、壊せとは一言も言ってないわよ!?』


『おいネギ、破壊活動はサキの十八番だろうがッ!』


『『喧しいわッ!!』』


 向こうでパニックになる彼女たちをよそに、管制室の片隅には一人の男が立っている。

 銀フレームの奥のミッドナイトブルーの瞳で静かにこの状況を見守っていた――特殊調達担当のソムリエが、いつも通り洗練された美しい仕草で眼鏡を指先でクイッと上げ、お上品に微笑む。


「――おやおや。私の仕込み、お使いになられましたか」


『『『『やっぱりお前 (あんた)の仕業だったのかァァァッッッ!!!!』』』』


 無線の向こうから、私たちの全力のシンクロが鼓膜を震わせる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 ――――『深夜のささやかな嗜み(リトルスター)


 あの出撃の直前、ソムリエが『いってらっしゃいませ』と送り出した瞬間、彼のColor能力は既に発動した。


 それは具体的な形は有してはおらず、絶体絶命のピンチの瞬間に初めて、その場を劇的に打開する切り札へと変質する。

 一見するとゴミにしか見えない極小のギミックが『こんなこともあろうか』と言わんばかりにいつの間にか対象の懐やポケットに入っているが、あまりの低出力にその能力にそもそも気付いているものは少なく、また使いこなせるものもほとんどいないが。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


『おいソムリエ!! やっぱり犯人はお前か!! ふざけるなッ、この暴走列車を今すぐどうにかしろ!!』


 しかし、ソムリエはただ困ったように眉を下げて、スマートに微笑んでみせるだけだった。


「そう言われましても……。私のCollar能力『深夜のささやかな嗜み(リトルスター)』は極めて微弱でして。そもそも、ゴミにしか見えない極小の仕掛けゆえ、人に気付いてもらい、尚且つ使用していただく機会自体が極端に少ないのです。

さらに申し上げますと、この能力はあくまで『その場を打開する術を提供する』だけとなっておりまして……。


――申し訳ございませんが、その後のアフターフォローのサービスはご用意がございません」


『『『『ふざけるなァァァッッッ!!!! 売りっぱなしの悪徳商法かよッッッ!!!!』』』』


 私を含めた四人のハンターの面々から、一斉に殺意の込もった総ツッコミの怒号が通信ラインに襲い掛かる。

 あまりの音量にハウリングを起こし、この通信を聞いていた全ての人間の耳が一瞬おかしくなった、――ゴメン。


『おい管制室!! もう地上に出る、行き止まりの壁に激突するまで時間がない!! 

どうにかしてくれ!!』


「ガタガタぬかすなッッッ!! こっちだって支部の玄関の片付けとライトに集った虫共の駆除でクソ忙しいんだよ!! 

電車が止まらねえなら、そっちの現地の人間でどうにかしろ!!」


『はぁぁぁっ!? 今まさに行き止まりの廃線に突っ込んでる部下に、そこまで無茶苦茶な丸投げするボスがあるッッ!!??』


 サキが怒り心頭で怒鳴り声を上げるが、タッカーは「あとは知らん!」と言って、一方的に無情な音を立てて無線をプツリと切ってしまった。


「あ、ちょっとタッカー!! 切りやがったわね、あのハゲッッ!!!!」


 通信が途絶えた大爆走の車内で、私が怒りの声が轟く。




 * * *


 一方的に無線を切ったタッカーは部屋を見渡し、苛立たしげに顔を醜く歪めて吼えた。


「――あ? おい、それよりもあのファンタジー野郎はどこへ行った!? 

このクソ忙しい緊急事態の時に、アイツは一体どこで何をしてやがる!!」


「ん……? そういえば、いつの間にか姿が見当たらんな」


「キングロード氏、どこへ……? 

まさか、ファンタジー要素がなさ過ぎてに散歩にでも行ったのでござるかッ!?」


 この彩流支部が総力を挙げた戦闘の最中、あの重度の中二病の特殊造形担当――キングロードの姿が、いつの間にか忽然と消え失せていたのだ。


 もちろん、地下の暴走電車でそれどころではないサキは、彼が管制室から消えたなど知る由もない。他のメンツとは違いCollar能力を持たぬ非能力者でありながら、誰よりも『選ばれし勇者の禁忌の力 (未覚醒)』としてのプライドと美学を誇る彼が、戦線離脱などするはずがない。


 一体どこへ向かったのか――。

 ブレーキの壊れた廃電車が終着駅の壁へと突き進むなか、その答えとなる物語は既に始まっていた。

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