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オーダー・メイト(Order-Mate)~兼食の猟犬と偏食だらけのインフォーマ~  作者: 湖陽 照
第1章 彩流市編 ~二人の愛食者~

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#40 オーバーワークな大作戦

――――PALLET彩流支部 【ブリーフィングルーム】




 ホログラムの立体地図が青白く明滅する部屋に、ボスのタッカーをはじめ、ロマ研の面々も交えた全職員が集結していた。

 私たちは中央の作戦テーブルを囲み、クロム社の秘匿施設から持ち帰ったデータを整理する。


「……誘拐されている人たちのパッチを処理するにあたって、まずその家族を救助しないと根本的な解決にならないわ」


 私が現状の最優先タスクを口にすると、周囲のハンターたちから少し楽観的な声が上がる。


「しかし、ボス。もうあの会社の企みは完全にバレたんです。

プラントがあれだけ派手に爆発したんだ、これ以上彼らも何もせず寧ろ一斉に国外へ逃げる算段でも立てているんじゃないですか?」


「フン。大企業のトップがすべてを失う覚悟で居座るか、あるいは尻尾を巻いて潔く逃げるか……。

サキ、あの野郎がただ逃げ出すようなタマに見えたか?」


「……いいえ。あのクソ社長の目は、本気で自分が正しいと信じ込んでる狂気そのものだったわ。

私たちに追ってまで寄こしたのよ? 黙って引き下がるとは思えない……」


 ドゴォォォォォンッッッ!!!!


 突如として、ブリーフィングルームが激しく振動し、鼓膜を裂くような衝撃音がいくつも響き渡る。


「――っ!? 何ッ!?」


「――唐突の襲撃イベント!! サキ氏らを追ってきたスポイラーの群れが、まとめてこのPALLETの支部を叩きにきた模様!! 

反応多数、支部の防壁にダイレクトアタックしてきてるでござる!!」


 浮遊する沢山の端末を駆使して、SEが状況確認を急ぐ。

 被害者の救出と一つの有名企業を取り押さえるだけではなく、今まさに、この支部が戦場となった。


「おそらく、持ち帰った証拠の隠滅と口封じのためですね……。

私たちの抹殺とデータの物理破壊を同時に狙うつもりだ」


「舐めやがって……! 全員、迎撃――」


『――緊急アラート!! 彩流市中央区、および商業エリアの全域にて、さらに別の反応が多数確認されました!! 

予測ポイントなし、まるでいきなり街中から降って湧いてでてきたように、一斉にスポイラーが姿を現しています!!』


 管制室の支援部の声が、室内のスピーカーから飛び出してくる。

 モニターの立体地図が一瞬で真っ赤な光点に埋め尽くされると、その異様な出現の仕方に、いっそボスらしく見える監督がアッシュグレーの目を険しく細めながら考察する。


「これは、空間転移なんかじゃないな。

おそらく、まだ実体化に至っていない迷彩状態のスポイラーを事前に街中に配置して置いたんだろう。そうすれば事前に俺たちに察知されることは無い。

そして、あの不法パッチの送信電波で一斉に街を襲うように強制命令を出させた」


「……まさか、街ごと証拠の隠滅を図るつもりか!?」


「街ごと!? 意味がないでしょ、証拠ならいつでも通信で外の中央にでも何処にでも送れるんだから!」


 センジの言葉に待ったをかける。もはや自暴自棄としか思えない社長の思惑がとても信じられなかった。

 データなんてもう既に外部に送れているはず……と、この時の私は思っていた。


「――いや、送れん。おい、通信状態はどうなっている!」


 電脳緑の目を必死に見開き、冷や汗を流しながらキーボードを激しく叩くSEが悪い知らせを拾ってくる。


「ダメでござる!  彩流支部から外部への通信ラインがすべて完全に遮断されている! クロム社が仕掛けた超強力なジャミングのせいで、拙者たちは完全に陸の孤島に仕立て上げられたでござる!!」


 支部の窓の外には、すっかり日が暮れた深い闇が広がっていた。

 スコールはとうに止んだはずなのに別の雨雲が発生したのか、あの不気味な黒雨も未だに降り続けている。

 そんな中、目の前に突きつけられた状況はあまりにも酷いマルチタスクだった。


「クソッ、整理するぞ!!  結局俺たちがやらんとならんのは、

一、街を埋め尽くしたスポイラー共の処理ッ! 二、誘拐されたパッチ人間の対処ッ! 三、そのための人質の同時救出ッ 四、このジャミングの発生源をブッ壊す! 

これを同時に、大至急行わなければならなくなったわけだ!

誰だこんなに仕事溜め込みやがったのは、ふざけるんじゃねぇッ!」


『クロム社の野郎ですッ!!』


 一斉にツッコむと周囲からは「多い多い多いッ!」「クロム社の野郎、残業手当請求してやるッ!」などといった泣き言や怒りの声が飛び交った。

 正直年末の書類整理を彷彿とさせるオーバーワークで全く持って腹立たしい。


「――ガタガタぬかすなッ!! ウチのシマを舐め腐ったクロム社の好きにさせてみろ、俺のメンツが丸潰れだ。そしたらはお前らみたいな下っ端はあっという間にハローワークに駆け込むことになるんだッ!!  

いいか野郎ども、これは総力戦だ! やつらのド頭に弾丸をブチ込むための案をさっさとよこせっ!!」


 タッカーが太い拳でドゴォン! と叩き割りそうな勢いでテーブルを殴りつける。

 なんだかんだ言って、犯罪都市である『濁都』に隣接しているこの彩流支部の職員たちは修羅場に極めて強かった。


 最悪の状況にブリーフィングルームの空気が絶望に沈むことはなく「……チッ、やってやろうじゃないの」「上等だ、誰に喧嘩売ったか分からせてやる」と、ボスの身勝手で凶暴なハッパにハンターたちが一斉に牙を剥く。


「ボス! 大量のスポイラーならいっそ、一箇所に集めて叩きませんか? 

ほら、以前サキがライトごと噴水を派手にぶっ壊して、盛大に大洪水を起こした()()()()があったでしょう?」


「ちょ、ちょっと!!  何よその言い方! 

あれはむしろ被害を抑えようとした結果だし、もうその話は今関係ないでしょ!!」


 私が顔を真っ赤にして嗜めると、すかさずラボの面々がモニターを操作しながら諸々の戦術説明をまくし立てた。


「いや、あのやらかしは作戦的に大アリだ。

前に人魚型スポイラーがライブをやった中央公園の噴水、あそこの『七色ライト』を盛大に点灯させる。夜の闇と黒雨の中、色に飢えている大量のスポイラーどもは、その鮮やかな光を見れば必ず吸い寄せられるように一箇所に集まってくるはずだ」


「ライトの修理はまだ終わっておらず消灯したままでござるが、技術的には八割ぐらいまでは直っているはず。今すぐ現場で残りの二割を修復して点灯させれば、作戦は成立するでござる!」


「よし、決まりだ!! 

だがライトが点るまで街のスポイラーどもを引き止めて時間を稼ぐ必要がある。そのための『遊撃隊』を街に放つッ!!」


「タッカー、言うまでもないが、ハンターたちの異なるColor能力が複数混色してカラージャムを引き起こさぬよう、色の干渉が起きない小グループを複数編成して街に散らさなければならん」


 Color能力の色が混じり合うことで黒く濁り、暴発・自滅を誘発する危険な現象を避けるため、キングロードが進言する。

 ――この場における最高責任者に対して進言する構図にはとても見えないが……。どう考えても立場が逆転しているようにしか見えない。

 

「いちいちお前に言われなくてもそうするつもりだッ!! グループ分けは俺が直感で最速で組む!!

――おい、ルーキー! お前は今すぐ中央公園へ行ってあの噴水ライトを直せ!! センジ、お前はヤツの護衛だ!!」


「分かりました。ルーキーを死守し、ライトが点灯した瞬間からは、戦力としてその場の戦闘に直接加わりましょう」


 センジは神妙に頷く。

 私は懸念点を尋ねるため、現在進行形で端末やキーボードを操作する彼に呼びかけた。


「SE、誘拐された被害者たちは家族の脅迫映像を見せられているわ。

奴らの超強力なジャミングの範囲内に、その家族の監禁場所も含まれていると考えていいの?」


「ですです、電波のタイムラグを考えると人質も犯人もこの市内のどこかでござる!!


 ボスはその話を聞くと、すかさず指示を飛ばす。


「遊撃隊とライト修復・護衛係以外は、とにかく足を動かしまくって人質と誘拐された人間を探しだせッ!! 

人質奪還と同時にパッチを処理しろッ!!」


 調達担当のソムリエがクリア素材の防護レインコートを大量に用意していた。


「……外は黒い雨が降り続いています。レインコートを着用してください。ですが、できるだけ早く解決するに越したことはありません」


 私たちはそれぞれの役割を胸に刻み、渡されたコートに身を包む。


「よし、作戦開始だ。ジャミングの発生源を特定次第、即座に無線で遊撃及び捜索隊へ通達する!! 発生源に最も近い位置にいるグループが、速攻でその電波塔をブッ壊せ!! 社長はその後だッ!!

休暇終わりのクソ野郎ども、とっとと出撃しやがれッッッ!!!!」


『了解ッッッ!!!!』


 コートを激しく翻すと、皆一斉にブリーフィングルームを飛び出して正面エントランスへと駆け下りた。

 だが、支部の巨大なガラスの向こうには、すでにプラントから私たちを追ってきた無数の群れ、特にあのコウモリ型のスポイラーが、悍ましい黒い壁となって文字通りPALLET支部の玄関へまとめて群がっている。


 黒化して戦闘力の上がった黒い弾丸が、自死も厭わず防壁に体当たりしている。激しい音と爆発で、今にも建物が破破されそうな光景。

 ついて来た監督は、高らかな合図と共に能力『灰色の銀幕(アバウト・シネマ)』を発動させる。


「お前たち、そこを退いていろ。……我が銀幕の美学、最高に見栄えの狂った超一流のオープニングを見せてやる。


――――『アクション』ッ!!」


 彼が投げ放った白黒の特製図面が空中で巨大なスクリーンへと姿を変える。すると男のロマンをそのまま凝縮したような巨大ロボが現れ、モノクロ映画として躍動感たっぷりに動き出した。

 次の瞬間――、フレームから鋼鉄の腕が現出し、玄関前のスポイラーの群れへと容赦なく一撃を叩き込むッ!


 二次元が無理やり画面外へ浸食すると過負荷が掛かる。それ故に監督が作り出した図面の作品は長くはもたない。ある程度の時間経過か、激しい衝撃が加わると爆散する。

 現に今まさに、スポイラーの攻撃を一身に受けるロボットは既に軋みを上げ限界を訴えていた。


 ――――しかしもう一つ、別の要因ある。


「――『カット』ッッッ!!」


 監督の鋭い合図と同時に巨大ロボのボディが激しく明滅した。

 その瞬間――、巨体が玄関前に群がっていたスポイラーの群れごと、凄まじい大爆発を起こしてド派手に吹き飛ぶ。


  凄まじい衝撃波が黒い霧を消し飛ばし、焦げた図面の紙片が、まるでエンドロールの締めと言わんばかりに潔く散っていった。


「すごっ……!! 玄関が一瞬で片付いたわっ!!」


「今です!! 道は開けました、行きましょう!!」


 監督のド派手な見送りによって道を開かれた私たちは、レインコートのクリア素材を黒雨でさっそく汚しながら、彩流市の夜の街へと一斉に力強く駆けだしていく。

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