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オーダー・メイト(Order-Mate)~兼食の猟犬と偏食だらけのインフォーマ~  【異世界転移/最強女性バディ異能アクション】  作者: 湖陽 照
第1章 彩流市 編 ~交わる二人の愛食者~

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#39 さよなら、バディ

「お前らっ、楽しい時間はここまでだ! 

クロム社の暴挙を阻止するため、これより武器補充とメンテナンスを開始する!」


 監督の号令とともに、ラボの空気が一気に一線級の戦場へと切り替わった。

 私たちは各自の得物を作業台へと並べ、出撃前の最終調整に入る。


「センジ様、こちらへ! 

前線でブレードを振るうセンジ様は、ご自身のCollarを極力現場で削るわけにはいきません。

以前センジ様から抽出したCollarを最高品質のNib(ニブ)を使用した予備カートリッジに詰めておきました。このレベルのニブの吸収能力なら色が高圧縮、凝集され質の高い能力の運用ができるはずです。

まとめて大量補充しておきます!」


 ルーキーの驚異的な速度で固有Collarをニブ付きのカートリッジへ充填し、センジの元にストックが積み上がっていく。


「サキ、持ってけ。お前の能力をより込めやすくした伝導率の高い特製の黒のカートリッジだ。それとお前の『インカーマン00000(ロクゼロ)』のメンテも済ませた。

タッカーの奴、放りっぱなしで雑に扱いやがって……取り上げるなら取り上げるでこっちに渡せばいいものを、面倒な手間が増えたぞ」


「最高ね……!! 完璧な仕上がりだわ!」


 久々の愛銃を受け取り、美しく整えられた黒のカートリッジを滑らかに装填し、バッジを胸につける。


 シヨウは中央のテーブルの椅子を引き、デスクの上に散乱して山積みになっていたポップコーンの容器の一つを手に取ってポスッと腰を下ろした。


「私はここで観戦してる。ちょうどポップコーンもあるし」


「――はぁ!? ちょっとシヨウ、何言ってんのよ!?」


「だって、私にはもう武器がない。銃はさっき手榴弾にしちゃったし、AIの車の装備はほぼ使い切った。

――それに、今になって冷静に考えると……この騒動って、元の世界に帰るための情報探しから完全に逸脱してる。そうでなくても私はハンターじゃなければ魔法も使えない、ただの一般人。ついて行ったところで足を引っ張る。

他のハンターたちも出るみたいだし、私、いらんでしょ?」


「 あんた、自分がさっき車内でどれだけ格好いいこと言ったかもう忘れたわけ!?」


「あれは忘れろッ!! あれは映画みたいな現場の熱に浮かされて口から出た、ただのうわ言ですッ!

私はもう忘れた、あんな黒歴史はなかった! オーケーッ!?」


 シヨウはポップコーンをひとつ口に放り込み、「はぁぁぁぁぁッ」と居酒屋のサラリーマンのように大きな溜息をついた。

 その瞳にはごまかしの光など微塵もなく、どこまでも本気で、この世界に対する無関心さを湛えていた。


「そもそも、何のために戦うの? 私はこの世界の人間じゃない。

あの異世界人にも、この世界にも、この街にだって愛着の欠片もない。

極端な話、この街が仮に壊滅したって私はテレビのニュースを見て『ああ、駄目だったか』って思うだけで済む。

そんな私が、自分の命をかけなきゃならい程の理由がどこにあるの?」


 再び溜息を溢すと、床に視線を下ろす。


「ここは二人の街であって、私の街じゃない」


 彼女は私たちに突きつけていた。


 命の危険を前にして自分の無力を悟り、本気で戦うことの無意味さを――。

 この世界の人間ではないという絶対的な壁を――。


「……ッ」


「…………」


 そのあまりにも淡々として、あまりにも素直なシヨウの意見を真っ向から突きつけられ、私とセンジは何も言い返せず、完全に沈黙した。


 ――ぐうの音も出ないほど、言う通りだっだ。

 彼女はただ巻き込まれただけの異邦人であり、Collarを持たず、能力も使えず、ずぶの素人が工夫して拵えたおもちゃ兵器もない、ただの一般人だ。

 この街がどうなろうが知ったことではないし、命を懸ける義務も義理も理由も、今のシヨウには本当に何一つ存在しない。


「……そうね。あんたの言う通りだわ。ここは私たちの街よ」


「ええ、全くあなたの言う通りです。あなたをこれ以上の命の危険に晒す理由も、一緒に連れていく意味も、今の私たちには何一つありません」


 私たちはシヨウの突きつけた本音に、心の底から激しく納得した。

 理由もないのに、愛着もないのに、自分たちを救うための言葉を、あの泥臭くてタフな激励を、彼女は車内で私たちにありったけ注いでくれた。


 散々人を振り回した言動に思う所がないのかと言えば噓になる。

 しかし今思えば、自分は何もしないから二人も好きにしろという意味合いもあったのだろう。


 ――それで十分だ。

 散々いいように利用されてきた異世界人サイドの彼女が、私たちの今までを肯定し、これからやろうとする私たちの背中を全力で蹴っ飛ばして応援してくれた。これ以上の都合の良さを求めればバチが当たる。


 この街の命運が懸かった泥仕合に、無関係な彼女を巻き込むわけにはいかない。私とセンジはそんなシヨウの姿を見つめ、互いに目を交わし合った。


 私たちはもう一度、両肩をポンッと優しく叩く。


「ありがとね、シヨウ。あんたがあの車内で私たちを叱ってくれたから、私たちはハンターとしての誇りを選べた。

……あとは全部任せて、ここでポップコーンでも食べながら私たちの戦いを特等席で見届けてなさい」


「ええ、感謝します。君が怖くて泣きそうになりながらも、私たちの誇りを選ばせてくれた。今度は私たちが、ハンターとしての誇りをもって君を守ります。

……お留守番は任せました、私たちの『相棒』」


 シヨウは何も言わず、二人の温かい手を振り払うこともせず、座ったままだった。

 彼女は両肩の手をそっと見つめ、何も言わなかった。


「ロマン部隊!! 出撃するわよ!!」


『とびきりド派手なシネマの戦場へ、いって (こい)/(らっしゃいませ)/(でござる)!!』


 オタクどもから差し出された、最高に音が良くて狂った見栄えの過激なロマン兵器や、高出力閃光弾、極小ギミック、精密充填された特殊カートリッジの数々を私とセンジは迷いなく両手に掴み取った。

 サキは不敵に銃口を跳ね上げ、センジはブレードの柄へと力強く指先をかける。

 私たちは踵を返し、クロム社の自作自演のテロを根こそぎ粉砕するため、ラボの扉へと向かって真っ直ぐに歩みを進めた。


「……行ってらっしゃい」


 背後からポップコーンを抱えたシヨウの小さく、不器用な見送りの声が聞こえてきた。


「「行ってきます」」


 私たちは振り返らずに力強く答えると、彩流市を血の海に沈めようとするクロム社の全計画を地獄の底まで叩き落とすため、元最強のハンターバディとして飛び出す。

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