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オーダー・メイト(Order-Mate)~兼食の猟犬と偏食だらけのインフォーマ~  作者: 湖陽 照
第1章 彩流市編 ~二人の愛食者~

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#38 映画の感想

 扉が開くのと同時に、ラボの内部は待ってましたと言わんばかりのオタクどもの凄まじい熱気に包まれていた。


 普段は規律や常識よりも己の狂気的なこだわりとロマンを最優先し、互いの名前すら忘れられ、コードネームで呼び合っている。

 汚染率の低いスポイラーを常に持ち帰るサキを『最高の素材調達屋』としてリスペクトしている偏屈職人集団は、すでに最高潮のテンションで出撃の準備を整えていた。


「――アクション!!」


 豪快な掛け声とともに、アッシュグレーのColorを持つロマ研の最高責任者――監督が、不敵な笑みを浮かべて手描きの大量の兵器の図面を空中にバッと放る。


 彼の座右の銘は『1に爆発、2に見栄え。男は黙って変形合体』

 性能や効率を二の次、三の次にしても、変身ベルトや変形合体、はたまた魔法少女アイテムの仕掛けを愛する監督のColor能力が発動する。


 ――――『灰色の銀幕(アバウト・シネマ)


 放たれた図面はスクリーンのように大きく空中に広がった。

 モノクロ映画のように強力なカスタム武器や即席の追加兵器が動き始め、カッコいいシーンが一通り流れると、次々と現実の世界へと飛び出してきた。


「待ってましたぞサキ氏、センジ氏、そして異世界からの魔改造職人シヨウ氏!!」


 ラボへ踏み込んだ瞬間、私たちは彼らの放つただならぬ熱い眼差しに包まれた。彼らはモニターに表示されたさっきのログデータを指差して、興奮気味に捲し立ててくる。

 話によると彼らは私たちのこれまでの経緯の全てをリアルタイムで見ていたのだ。



監督:「あの車内での『右を向きながら左は向けない、自分達を選べ』という言葉の映画的な深さよ!! あれは、自分たちの暮らしを守るために異世界人に背を向けるなら、あのポッドの異世界人のことは自分が背負っていく、という意味の痛烈な覚悟の裏返し!! 

俺の銀幕の美学に完全にハマる!! 凡百の映画を遥かに超える、最高に痺れるシーンであった!!」



SE:「手元の武器を咄嗟の工夫で新たな武器に進化させる、ミリタリー工作の格好良さ、拙者、本気で魂を震わせ大感動いたした! 施設に乗り込む直前、Color能力を目にして『すごい! アニメの魔法みたい!』と、子供のように純粋にはしゃいでいたあのギャップ、作業BGMとして別に録音する価値はありましたなぁっ!!」



キングロード:「フッ、基本的には冷徹な現実主義者と見せかけながら、『怖くて怖くて本当は泣きそうになる』と本音を吐露したあの瞬間の、これから目覚める覚醒型主人公の如き強烈な誇りとロマン……! 

実に素晴らしい、最高に美しい我が魂の解釈一致だ」



テスター・ルーキー:「そうですよ!! 自分たちの暮らしと被害者のジレンマに苦悩するサキ様たちに、そんなの関係なしに今まさに脅されてる人たちのことを『さっさと助けろ!』と言ってくれたあの瞬間、僕まで自分のことみたいに嬉しくて胸が熱くなりましたァッ!!

あの爆発の直前に言い放った、『もう十分だ、クソったれ』、車内での『AI!!  誰がこの世界で最速なのか、奴らに教えてやれ!!』って決めゼリフ!! 

あまりにも映画を見てるみたいで僕、感動でガチで泣きましたッ!!」



ソムリエ:「……ええ、銃撃戦を突破したあの凄まじいドラテク。

さらに海岸での不倫劇とセンジ様に対する『離婚届は書いたわよ、ダーリン』という返し文句。あの無人店で披露された料理の手際。

まさしく、スパイ映画の如き至高のシーンの数々でございました」



 ロマ研一同の、息つく暇もない怒涛の感想リレーがラボ内に響き渡る。

 壁一面の大型モニターにこれまでに繰り広げてきた数々の名シーンが、次々と映し出されていた。


「……えっ? ――ちょ、ちょっと待った」


 シヨウは黒い目を限界まで丸くした。


「あの……車内での話、他にも全部…………、全部あのおっきい画面で見て、録画までしてたと……?

『最後まで付き合うよ相棒』なんてところまで……っ?」


『当然!!』


「ああ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ……!! 全部聞かれてた……っ!?

――っていうか、何そのポップコーン!? 何そのドリンク!? 何その団扇!? 

ひとのことを完全に映画として鑑賞してたと!?」


 あまりの羞恥心に顔を真っ赤に染め上げ、彼女は完全に狼狽えて頭を抱え込んだ。


「別に中二病ってわけじゃないのに……こうして改めて他人の口から聞かされると、私って……。決めゼリフとか別に意識したわけじゃなくて、本当にただ必死の口から出まかせだったのに……!

でもこれ、客観的に聞くとめちゃくちゃ痛々しい……っ!?」


 あまりの恥ずかしさに耳まで真っ赤になり、完全に崩れ落ちた。


「あ゛ぁぁぁぁっ、もうヤダッ!! いっそ殺せ!! 今すぐクロム社の地下プラントに戻る!! 

戻ってモルモットになるから連れ戻してェェェッッッ!!!!」


 全力で幼児退行のようにもがき出したシヨウの姿を見つめ、私とセンジの胸の奥から、言葉にできないほど愛おしく、感極まった熱い感情が込み上げてきた。

 車内であれほど激しくぶつかり合い、世界の不条理に押し潰されそうになっていた私たちの魂を、あの泥臭くてタフな言葉で救い上げてくれたのは、間違いなく彼女なのだから。


 私たちはこれ以上ないほど深く、温かい目を交わし合うと、シヨウの左右にそっと並びその華奢な両肩を、ポンッと優しく叩いた。


「あんな奴らのところには、絶対に行かせないわよ。

――私たちのために生きて、私の最高の『相棒』」


「ええ。何があろうと君を渡しはしません。私たちのために生きてください、私たちの誇るべき『相棒』」


「……っ」


 シヨウは二人の温かい手を振り払わなかった。

 そして、無言で自分のポケットの奥へと手を伸ばすと、あの黒服のバンを強奪した際に使用した手のひらサイズの放電小箱を取り出した。


「……え? 何よそれ、玩具の箱……?」


「ガム型のジョークグッズ。それをバラして作ったスタンガン擬き」


 その瞬間、彼女の黒い瞳に羞恥を遥かに通り越した、冷酷で狂暴な復讐の炎がバチバチと灯っていた。


「このスタンガンで、今すぐこのラボのサーバーごと動画を焼く。社長は二人に任せた。

――私はこいつらを潰す」


 シヨウはゆらりと立ち上がった。

 スタンガンをチリッチリッとスパークさせ、ラボのメインサーバーへと歩き出す。


「――ッ!? ちょっとシヨウ、何本気でサーバーを破壊しようとしてんのよ!?

落ち着きなさい相棒ォォッッ!!」


「シヨウ、ダメです! それは重要な証拠です。それに今のこの状況でサーバーがダウンしたらクロム社を叩く前にこの庁舎が崩壊します!!」


 私とセンジは焦りまくって、静かにブチぎれるシヨウの体を全力で引き留めて止めた。


「大丈夫、加減はする。こんなくだらないおもちゃでも、あいつらの録画データだけを消し飛ばすことぐらいはできる。あのオタク連中を潰したあと、社長を捕まえて直々に証拠を提示してもらう。武器が欲しいなら改造する。

――だから、私にこいつらを殺らせろッ!!!!」


「「殺らせる【※ぶっ飛ばさせる】から!! クロム社を半壊させた後にいくらでもデータを消させてあげるから、今は一回落ち着きなさい (落ち着くんだ)!!」」


 そんな最高に賑やかで、不謹慎なワチャワチャ劇がラボ内で炸裂する。

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