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オーダー・メイト(Order-Mate)~兼食の猟犬と偏食だらけのインフォーマ~  作者: 湖陽 照
第1章 彩流市編 ~二人の愛食者~

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#3 お代わり

【ケース2:中央公園・ウォーターハザード事件】


 彩流市中央公園には市のシンボルと言ってもいい巨大噴水広場が存在する。彩流の名に恥じない七色のライトアップが美しい観光名所にして、断水や火災、ステイン――黒雨やスポイラーが残した汚れを洗い流す為の非常用貯水槽でもある。


 その広場を占拠した不可視のスポイラーの討伐案件。

 運の悪いことに探査機で正確な位置を割り出す前に黒雨が降り始め、スポイラーの実体化が進んでしまった。しかし幸か不幸か、雨雲のおかげで周囲の彩度が下がり、カラー強化は防げていた。


 スポイラーは通常は無色透明の状態で現れ、周囲の建物や特に動植物の色素を体内にあるニブ(Nib)と呼ばれるコアのようなものを通じて吸収することにより存在値を上げる。一定の規定値を超えるとと各スポイラーの正体に応じて能力や特性が発現し、黒雨――黒い雨を吸収すると細部の陰影が際立ちより存在力の高い強力な個体になる。

 逆に黒から染まると低出力ではあるが、いきなり能力を使い始めることもある。


 今回のスポイラーは幻想種(ファンタズマ)の人魚……らしきものだった。下半身は魚で人魚にありがちの精神汚染系の能力を使ってきたので多分そうだろう。

 乱雑に打ち付けられた釘のような歯をむき出しにして奇声をあげる白黒のモンスターを、果たして世の幼女達がマーメイドとして許容できるかは些か疑問ではあるが。


 なんにせよ、能力のせいで周囲の一般人が次々と酩酊・発狂し、ゾンビパニックさながらに襲い掛かってきて現場の収集は困難を極めた。


 さらに不幸は重なるもので、いつもより分厚い雨雲により噴水の暗明センサーが作動し、ライトが自動点灯してしまった。スポイラーにとっては最高のカラーバフになり得る状況を打破する為、ライトを破壊。

 最終的にはスポイラー討伐に至り、万事解決と相成ったのだが……。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ゾンビになっちまった市民と他のハンターでごった返していた現場で、支援部がパンクしてたっていうのに、言うに事欠いてミナちゃんにお前は無線越しになんて言った?」


「(ミナ()()()って……)

――――ちょっと照明を切ってと頼んだだけです。難しい事じゃないでしょう。あのままじゃ、あの半魚人、ヤクキメたチンピラみたいにハイになって現場がサンバ会場になりかねなかった」


「あ゛ァあぁ、ああ、ライトを切れね、簡単に言ってくれるぜサキ様は! 市のインフラを簡単にいじれるわけないという事をご存じないときた。


あのバカでかい噴水にいくらかかってると思う? あんな置物でも市のお偉い方からしてみれば立派な財産で、外から財布を呼びつけるエサなんだ! 


それをお前は、サポーターが必死扱いてシステムロックを解除しようとしてるのに銃でぶち壊し、ゾンビ市民がスポイラーの周りに群がって射線が通らないと分かったら、今度は何を喚いたか忘れたとは言わせんぞ! 

『人が邪魔で狙えない! 地下の高圧バルブをぶち抜いて皆を安全圏へ押し流すから、避難誘導よろしく!!』だ゛ァ!?」


 やや小柄ながらもしっかり肉と脂肪が詰まった身体を起こして立ち上がると、こちらにグッと迫ってきた。


「スマホでもいじって待ってろっていうんですか? 雨だって降ってたのに。

それに、人を盾にするとか結構小狡い手を使ってきたんですよ、あいつ! 一人二人なら兎も角、あんなにいたんじゃ仲間総出であたってもきりがありません。


いいじゃないですか、結果的に大量の水のおかげで、公園にいた人たちのステインも綺麗に洗い流されて後遺症もなく意識を取り戻せたってお医者さんが言っていたんだから」


「お前の目ん玉は頭のてっぺんにくっついているのか!? 公園周辺の一帯が水浸しになったんだぞっ!! 


状況把握、被害確認、流された市民の救助とルートの確保、泥水に足を取られた奴らのサルベージに追われ続けてミナちゃんの精神はな、真っ白になったんだよ! 彼女の診断書を見ろ、真っ白だッ!」


 一度デスクに振り向いたボスは、ガサガサと探し当てた1枚の紙を掴み顔面に突き付けてきた。

 目を凝らすまでもなく、ちらほらと最低限の文字が並んでいるだけ。でかでかとした重要な欄には一点のシミも無く美しい印刷紙の白が輝いていた。さながら大理石のように。


「良かった! つまり問題なかったってことね!」


「配慮だバカタレッ!


――――はぁぁぁぁ……、お前の無茶苦茶な指示と後始末で脳のヒューズがぶっ飛んで、重度のノイローゼになった。


長期休暇を勧められたらしい、お前の言う()()()()()にな。

彼女の書類には『彼女にとって私は、言えば何でも応えるAIか何かなんです。要求するだけしてこっちに配慮してくれないし、指示も聞いてくれない。今後、あの人のサポートは出来れば遠慮させてください』と書いてある」


 溜息をつきつつ先程とは打って変わってしんなりした雰囲気で語ると、部屋の隅にあるコーヒーメーカーに足を運んだ。ボタンを押すと低い稼働音が響き、直置きされた茶渋が目立つカップに黒が注がれていく。


 安い豆の香りがこちらまで届くと、少し気分が落ち着いてきた。


「ボス……、あの噴水が彩流市のシンボルでいざって時の保険なのは私も知っています。だからこそ、あのまま指をくわえてスポイラーの楽屋になるのを眺めている訳にはいきませんでした……。


多少バルブを壊して周りが水浸しになったからってなんです! 無事奪還できたんだから表彰状をくれてもいい。

――――あと余談ですが…………バレンはともかく、彼女に対してちょっと甘くありません?」


「普通の女が如何に可愛げがあるか、しみじみ感じる機会に恵まれてね」


 「それ、どういう意味です?」と思わず立ち上がりボスに軽く詰め寄った。早口になった私をチラッと見て鼻で笑うと、注ぎ終わりを告げる小さな音で視線がマシーンへと戻る。

 カップを手に取り、一口――――、二口――――、味と熱さを確かめた後、ズズッと半分ほど飲んだ。


「オタクどもからなら表彰されるんじゃないのか。

お前のカスタム銃の暴発の始末書をいくら押し付けても『俺たちの傑作を120%引き出してくれた!』、と大絶賛してクレームの一つも入れんしな」


 カップを回しながらコーヒーを眺めるボスの目は陰になって見えなかった。

 





 ――――――――――――鳴り響く電話、紙の擦れ、キーを叩く音、話声。部屋のガラス越しに聞こえる。



 



 ボタンを一つ掛け間違えた世界に迷い込んだようだ。

 程よく冷えたコーヒーを一気に煽って飲み切ったボスがこちらを向く。






「だが俺は違うッ!! ここは俺のシマでッ、おれがルールーだッ!


お前がどれだけスコアを稼ごうが、スポイラーの死体を拾ってこようが俺の管轄(シマ)で大洪水を起こしていい理由にはならん! お前の大活躍のせいでウチの財務は自己破産寸前だ!」


 ビィーーンと部屋鳴りが起きた。

 先ほどまでの麗らかな午後の空気を消し飛ばす勢いに数ミリ身体が浮く。

 

 決してビビってはいない、少し意表を突かれただけ。キュウリに驚く猫のように。


「――――だが、これだけで終わらないのがお前の恐ろしいところだ。やっと組んだ三人目の相棒に、お前いったい何をしたか分かっているのか!?」

ご一読ありがとうございました。

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