#2 クラッシャーの武勇伝 ① ~煙草がけぶるボス部屋~
この世界に黒い雨が降り始めたのは、いったい何時頃だったか。
雨が降れば水溜りができるように、同時期にアレが現れ始めた。
多くの人がどれだけ調べても、その正体を未だに解明できずにいる。
ただはっきりしているのは、アレは――――――――色を奪う。
* * *
――――PALETTE彩流市支部 【支部長 (兼警備統括) 室】
「テメェの辞書には『応援を待つ』という言葉は載っていないのか!?
相棒が到着したときには、もう後片付けしか残ってなかったぞ!
テメェのために掃除屋を雇っている訳じゃないんだ、こっちは!」
ボスはデスクにふんぞり返り、退勤前に提出した報告書にガッガッガッ――とペンを叩きつけた。
いつものやり取りをツマミに、趣味の悪い同僚たちはコーヒーブレイクを楽しんでいる。
一室として区切られているとはいえ、ガラス越しでは中の様子を隠しようがない。
スポイラーはいつ出現するか分からない以上、どの時間帯でも誰かしらオフィスで働いている。
特にここ最近は、大勢の人間が現場に駆り出されていた。狂暴なスポイラーらの対処、黒雨やスポイラーの残り滓――ステインの除去を余儀なくされ、仕事は難航。今も後始末に追われている同僚も多い。
「ボス、落ち着いて!
街は救われたし、誰も怪我もしていない。ガラス一枚だって割れてません!
それどころかお土産まで持って帰ってきたんですから、むしろボーナスをくれてもいいんじゃない?」
大げさに両手を広げて肩をすくめながら、チェアに座った。
僅かな軋みもすっかり耳に馴染みつつある。
「ボーナスだとッ!?
テメェが気紛れに拾ってくるイロモノ戦利品で、今までのやらかしが全部帳消しにできると本気で思っているのか!?
開発部のヲタク連中はそれで飼いならせても、市から『組織の統制はどうなっているんだ』と集中砲火を喰らうのは俺なんだ!
この始末書の山を見ろ、コーヒーを飲むスペースもありゃしない!」
無造作に置かれたゴツイ電子タバコを咥えると空だったのか、チッと舌打ちしつつカートリッジを投げ捨て、すかさず入れ替えた。
今時カラフルなボディカラーのフレーバーがいくらでもあるのに、デスクに積み上げられたカートリッジはどれもタール色。
お飾りの煙を吐き出すと、小言のリロードも完了したらしい。
「そもそもッ、今回ッ、テメェがスポイラーと手を組んだ解体業者に間違われずに済んだのは子供でも倒せる雑魚を任せたからだ!
なのに何故、相棒の精神が粉々に崩壊することになるんだ!?
これまで潰してきた連中の『被害報告書』を読んでみろ!」
ボスが端末を乱暴に叩くと、空中モニターに過去の記録ファイルが次々に展開される。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【ケース1:ピザ窯・炎上事件】
あれは重汚染スポイラーの討伐任務だった。
タイプは変種で分かりやすい弱点が無いスライムじみた流動生物で、丁度フードフェスが開催されていた北部地区に紛れ込んでしまった。
色彩もカロリーもふんだんに揃っていたせいか、一気に巨大化。いてもたってもいられず、応援を待たずに突入した。
派手な髪色をしていたバレンを囮にして敵を誘導。
フェスのメインであるレンガ造りの特大ピザ窯の大口に追い詰み、高濃度の黒弾をNib――――スポイラーが共通して有する周囲から色を抜き取るコアに撃ち込み、見事窯の中へ吹っ飛んでいった。
その反動で爆発炎上を起こし、周囲は木端微塵。
フードフェスという事もあり、火の赤色を大量に取り込んでいたせいもあったのだろうと推察される。
ターゲットは完全消滅。
北部区画の隔離を阻止し、後日フェスは無事再開されることとなった。
メインの窯を失ったことで超ウルトラビックサイズのピッツァは夢と消えたが、いっそミニマムでいこうと多種多様な新感覚ピッツァが次々と焼き上げられることとなった。我が市民たちは大変にたくましい。
純粋な戦果だけを見れば、非の打ちどころのない最高の実績。
……だったはず。
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「報告書にはこうある。
『サキの奴、笑顔で僕ごとスポイラーを蜂の巣にしやがった! 爆発に巻き込まれてシールドはドロドロ、おかげでこっちがピザになるところだった!
あんな歩く災害の隣にいるくらいなら濁都のギャング連中を相手にした方がまだマシだ!』……と。
ヤツは溶けたチーズを大量に被って大火傷、入院中でいつ使い物になるかどうか分からん状態だ!」
展開された写真付きの資料の一つの中に、頭から黄色のグラデーションを纏う美しきバレンの姿があった。
カロリー信奉者なら一度はチーズの海に溺れる夢を思い描くだろう。
まあ彼の負った傷を考えれば、夢のままが幸せなこともある。
「ちょっと待って、バレンの奴そんなこと言ったの!?
あいつはボンボンで装備に課金しまくっていたのよ、耐えられるって分かってました!
――ついでに言うと、あいつは性格が最悪で皆から嫌われてます。
どうせ今頃VIPルームでシャンパン片手に悠々自適な入院生活を楽しんでるわよ。
むしろあの絶望的な状況から区画を守り抜いた私の天才的なセンスを褒めてください」
あいつはお金持ちの息子らしく、コネで警備部に配属されてきた。
噂では中央の本部狙いだったらしいが流石に無理だったようで、こっちに流れてきたらしい。外では花形のハンターだと友人達や女性相手に吹聴して回っていたとのこと。
装備もある程度は個人に合わせてカスタムできるが、あいつは金に物を言わせてどこぞの戦隊仮面のような無駄にかっこいいものを揃えていた。センスが無ければケチをつけてやったのに実際ちゃんとカッコいいのが余計に腹が立つ。
そのくせ、まともに戦いもせずさも自分はスゲェと周囲にアピールしまくるので皆辟易していた。
「あ゛あぁ、俺もあのボンボンは嫌いだ。
役立たずなりに金払いは良かったがな……。
だがな、同僚をピザにしちまうようなイカれたテメェのセンスは、どんだけ金を積まれてもいらねぇんだよ!」
ご一読ありがとうございました。
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