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オーダーメイト 〜お払い箱のはみ出し女ハンター、拾った異世界人と最強バディを組む〜  作者: 湖陽 照
第1章 始まりの街 彩流市 編 ~兼食の猟犬と偏食だらけのハンドラー~

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#1 お説教はデザートの後で

 スプーンで掬い上げた最後の一口には、残していた真っ赤な完熟イチゴと、もったりとしながらも甘すぎないホイップクリームが乗っている。

 口に運んだその瞬間、今日という一日が最高の形で完成されるはずだった。



ブブッ、ブブッ、ブブッ――



『――サキ、またやりやがったな! 

今度のバディは三日持たなかったぞ!

『二度と彼女とは組みたくない』と泣きながら辞表を出してきた!』



 腕に感じたバイブレーションに嫌な予感がしつつも応答すると、上司からのボイスメッセージだった。



『どうせ糖分補給はもう済んだんだろうがッ!!

さっさと俺の部屋に来い、今すぐッ!!!!』



 爆音が店内に響き渡り、ボリュームを下げる間もなくぶつり――と無機質に通信が切れる。

 おずおずと周囲に目を走らせると皆、鳩が豆鉄砲を喰らったように固まっていた。


「アハハハハ……ごめんなさーい…………」


 気まずい空気を笑ってごまかす。

 ――匙の高度は維持したまま。


 部署内で友人にパフェの予約が取れた報告をしていたのが小耳に入ったのだろう。


 あの時はかなりはしゃいだ自覚がある。なにせパフェの種類によっては競争率が高く、直ぐに予約が埋まってしまうこともある。今回の苺がまさしくそれだった。

 加えてハンターという職業上、退勤時間が不規則になりがちで今まで期間限定メニューを何度か逃していた。


 そして今日、もろもろ噛み合って念願の限定パフェを食べられると思いきや緊急出動。

 迫るタイムリミットに神経を削られながら手に入れた甘いご褒美にありつけたわけだが、後味の悪い結果となってしまった。


 溜息をつくと、零れ落ちた幸せを回収するように最後の一口を丁寧に味わう。


 しっかり嚙み締めることができる程の大きなイチゴ。

 咀嚼する度に甘酸っぱい香りが口いっぱいに広がり、底に溜まった様々なトッピングをクリームがしっかりと包み込み一体化させている。



――美味しい。



 空になったグラスを名残惜し気に眺め、席を立った。


 外に出ると、空はどんよりとした鉛色に変わりつつある。

 そして、街中に点在するスマホから嫌な音が響く。




『――緊急墨災警報(ステイン・アラート)です。黒雨(くろさめ)が接近中、あわてず屋内へ退避してくさい。

――緊急墨災警報です。黒雨が接近中、あわてず屋内へ退避してくさい。

――緊急墨災警報です。黒雨が接近中、あわてず屋内へ……』




 人波が巻き戻るかのように、建物の中へと吸い込まれていく。


 カバンから折り畳みのビニール傘を取り出して開けば、空が静かにぐずり始めた。

 低レベルでも鳴るようにアラートを設定していたのならこんなものだろう。土砂降りなら問答無用で強制一斉アラートに加え、辺りのスピーカーが喧しく騒ぐはずだ。


 職場に向かってガラガラになった道を歩き出す。


 僅かに零れてきた雨が灰色に傘を汚した。

 握り手に少し力を加えるとビニールがキラキラと輝き、汚れがじんわりかき消されていく。

 

「あんまり長くならないといいけど……」


 自嘲気味に呟いた私の悪い予想は数十分後――見事に的中することとなるとは思わなかった。

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