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オーダー・メイト(Order-Mate)~兼食の猟犬と偏食だらけのインフォーマ~  作者: 湖陽 照
第1章 彩流市編 ~二人の愛食者~

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#34 ヨウコソ、異世界ヘ

 駆け寄った私とセンジは、そのガラスの向こうに広がる光景に愕然と立ち尽くした。


 青白く濁った培養液で満ちていたのか、ポットの上部まで濡れていた。

 完全に抜かれていた剥き出しの内部で、無数の電極チューブを全身に繋がれてぐったりと拘束されているナニカ ――――――


「どう見ても……人間そのものじゃない」


「……これ人型のスポイラー?」


「――いえ、あり得ません」


 センジが即座に否定する。


「データベースのどこを探しても、完全に人間と同一の形状をした人型スポイラーの記録など存在しない。これは、ただの人間だ……! 」


「でも、生体反応は人間じゃないわよ!? スポイラーの波形が出てるもの!」


 私はスキャナーの画面を睨みつけた。


「一体この人に何をしたのよ……っ!?」


 シヨウはズラリと並ぶポッドの群れをさらに見渡し、ガラスの向こうの異形たちを見つめた。


「……なんじゃこりゃ」


 彼女の視線の先には、さらに歪な生命体が捕らえられていた。


「くどいようだけど、やっぱり人魚がいる。それに獣人って……」






 他のポットは粘度の高い培養液が隙も無く満ち満ちていた。


 逞しい体は獣を彷彿とさせる力強い毛並みがゆっくり、――ゆっくり揺蕩う。

 大きなふわふわの耳、思わず触れたくなるような尾っぽ。

 幾つものチューブに繋げられ、世界観を大きく横跳びした姿はあまりにも違和感がある。


 * * *


 美しい上半身の裸体は白磁のように滑らかで、金色の風が吹き、花が舞っていた。

 目線を下げると、規則正しく並ぶ隣が七色に瞬く。螺鈿細工など足元にも及ばない。

 


 ハーバリウムを彷彿とさせるこの光景に恐怖はない。――綺麗だ。






 ポッドのガラスに、シヨウが指先を触れる 。


「耳がとがってるのはエルフ? いよいよファンタジー味が強くなってきた」


 私たちを振り返った。


「こっちの世界のコスプレってこんなにレベル高いの?」


「コスプレなわけないでしょ! 人魚も獣人もエルフも、全部ただのアニメや漫画のおとぎ話よ!」


「じゃあ、遊園地のダークライドにでも出てきそうなこっちの原色激しい動物とか虫は? 

これはスポイラー?」


 私はカメラを構えながら、ゆっくりと頭を振った。


「それは……、分からないけど――。

スポイラーって初期段階は無色透明で新種なんていくらでも沸くから……」


「……おかしい。クロム社が一体ここで何をやってきたのか、ちゃんと皆で調べてみましょう」


 センジの的確な指示のもと、私たちは壁のロック付きキャビネットを強引に解除した 。


「手分けして資料を調べまくって、証拠を探すわよ!」


 流出を恐れたのか、意外にも紙媒体の管理資料がまとめられていた。端から引っ張り出し、ファイルを貪るようにめくった 。

 色々と資料を読み解いていくと、ある驚くべき実証データを見つけることになる。


 「……これ、見て」と私が見つけたファイルには、信じられない観察写真が添付されていた。


 『黒雨に数日間にわたって漬け込まれた魚』の記録データだ 。


「黒雨を浴びて、沈色もせず生存している魚の写真……!?」


 この世界の生命であれば、一滴浴びただけでも全身の細胞が黒く硬直して麻痺し、最悪の場合は内臓まで硬直して絶命する 。

 しかし、その写真に写る魚は黒く硬直もせず、その死の雨を溜めた水槽の中で平然と生きていた。


「センジ、これ、彩色体の反応が完全にゼロよ!!」


「つまり、彩色体がない生物。――この世のものではない、異世界の存在だ」


「……つまり、私と同じか」


 シヨウは、ポッドの中の()()――人間を見つめ、酷く冷めた声を響かせた 。


「これまで、色んな革新的な研究や技術を発表して、世界的な大企業として世に送り出してきたクロム社だったけれど……」


 私は怒りでファイルをさらにめくり、別の極秘フォルダをデスクに広げた。


「……っ、ちょっと待って、何よこれ!! センジ、モニターの映像も見て!!」


 私の悲鳴のような声に、センジとシヨウが端末に身を乗り出す。画面に表示されていたのは、彩流市の市内でずっと大騒ぎになっていた、あの連続誘拐事件の被害者リスト。

 そして、クロム社がこれから彩流市の中心部で行おうとしている最悪の自作自演のテロ計画の全貌だった。


「……なんだこれは。クロム社は、技術開発の民間企業としてこの世界の覇権を握るために、よその競合企業の関係者を片っ端から誘拐していたというのか……!」


「それだけじゃないわ! 奴ら、誘拐した他社の人間たちにあの不法パッチを貼り付けて、すでに彩流市の至る所に配置してる! 

ほら、このリアルタイムの監視映像を見てよ!!」


 モニターに浮かび上がったのは、誘拐された関係者たちの家族が、黒服の銃口に怯え、泣き叫んでいる凄惨な生映像だった。


「『街のど真ん中でパッチ越しに大声で叫び続けなければ、お前の家族を全員ここで殺す』って脅してるんだわ……! 彼らが恐怖の声を上げれば上げるほど、翻訳電波の機能によって狂暴なスポイラーの群れが引き寄せられて、彩流市は血の海に沈む。

それを他者のせいにした上で、クロム社が解決して名実ともに世界の覇者になる――――最低最悪のマッチポンプよ……!!」


「さらに、この開発記録の後半を見てください」


 センジの声が一層低くなる。


「クロム社は、捕らえた異世界人たちの体内にスポイラーの細胞を直接注入している……!」


「細胞を注入って……じゃあ、さっき生体レーダーに人間じゃなくてスポイラーの波形が出たのって……」


「ええ。あいつらは、異世界から迷い込んだ人間や種族を、人工的にスポイラーへと魔改造する実験を行っていたのですよ。だから生体反応が上書きされていたんだ」


「……」


 私たちがすべての資料と映像から、その街を襲う計画の全貌を見つけ出した。

 まさにその瞬間――

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