#32 陰に潜む役者の正体
シヨウは手際よくアクセルを戻すと、正面に見える巨大なトラックバース――そこに停められた大型トラックの陰に停めた。
「……まだ雨が降ってる。二人とも、雨に濡れるけど大丈夫?」
カスタムカーのドアを開ける直前、シヨウが心配した。
「この程度なら問題ないわよ。スコールみたいな、どしゃ降りじゃないもの。
多少濡れるくらいなら、上着を脱いで頭からかぶって行けばなんとかなるわ」
「ええ。流石に直撃を浴び続ければ細胞が麻痺しますが、一時的であれば、上着で十分に防護できます」
私とセンジは座席で手際よく上着を脱ぐと、それを傘の代わりに頭から大きくかぶった。
彼女はそれを見て小さく頷き、ドアを開けて外の闇へと滑り出した。しとしとと降り続く黒い雨の中、私たちは気配を殺してプレハブ施設の搬入口へと中に入った。
ひんやりとした無機質な空間。天井の古ぼけた灯りが、床のコンクリートを白く照らしている。
「――はぁ、やはりそう簡単にはいきませんか……。監視カメラです」
彼が苦々しく見つめる先には赤い光がポツ、と光るカメラが何台かあった。
「無闇に突っ込んだらすぐにアラームが鳴るわね。……シヨウ、翻訳能力でどうにかならない?」
「ちょい待ち」
シヨウは耳に意識を集中させる。そのせいか、目から見て取れる意識が希薄になる。
「――やっぱり最新AIに比べれば、システムコードが単調すぎてまともな声にならない。
……けど、声にならないだけで音は分かる。連中が身に付けてる通信機器とか携帯とか、カメラの首振りのタイミングに出る音なら拾える」
シヨウは静かに耳を澄ませ「先行する」といって、翻訳能力で連中の巡回や、カメラの首振りのタイミングを緻密に計りながら、滑らかに先頭を歩き出した。
どうでもけど、オタク国家出身だからなのかいちいち言い回しがそれっぽい。
自分で言うのもなんだが、プロのハンター二人に対してよくもまあ合わせられるものだ。これも彼女の言うお国柄というやつなのだろうか? こちらは助かるけど。
彼女の的確なナビゲーションのおかげで、私たちは死角を縫うようにし、一切の警戒網に引っかかることなく廊下を突き進んでいく。
シヨウは時々止まり、あるいは迷いなく走り、何度か繰り返して壁際に乱雑に積まれていた金属製のコンテナボックスの前で足を止めた。その表面を親指で撫でる。
「……あのロゴだ、確認して欲しい」
「見せて――本当ね。クロム社のロゴだわ。
これで連中がここに物資を持ち込んで何かを企んでることは確信できたわね」
私はすぐに懐からハンター専用の高解像度カメラを取り出すと、魚の尾をモチーフにしたロゴマークを念のため証拠として写真に収めた。
「ですが、サキ。これだけでは『連中が裏でスポイラーを意図的に操って人を襲わせている』という直接的な関与の証明にはなりませんよ。
これだけなら、ただの物流拠点だと言い張られればそれまでです。さらに奥に進む必要がありますね」
「やっぱり……。正直あんまり奥まで入りたくないんだよね、情報を探しているとはいえあんまり奥に行くと絶対何かとかち合うんだもん。リアルもゲームも一緒。
例の命令パッチとか異世界を飛ぶためのデータとか、その辺に転がってたりしない? それが一番ラク」
「流石にそんな最高品質のキーアイテムが、その辺にぽろぽろ落ちてるわけないでしょ。
……あ、ちょっと待って、シヨウ。そのポケットから出してる板、何?」
彼女はブツブツいいながら自分の衣服のポケットから、見慣れない薄型の四角い精密機械をスッと取り出した。どことなく携帯に似ているが……
「私物。こっちに飛ばされた時、ポケットに入ったままだった。電話とか検索は出来ないけど、これだけで完結する機能なら使える。
……よし、撮れた。念には念をってね」
シヨウは自前のスマホで、念のためそのロゴの写真をパシャリと保存した。
「へぇ……それにしてもさ、あんたから色々と異世界の話を聞いたけれど。スポイラーなんていう不可思議存在がいない世界なのに、本当に基本的な文明力は私たちのところと大して変わらないのね。不思議だわ」
「そうですね。環境が違えど、人が生きるために生み出す営みなど似たようなものということでしょう」
「そういうこと。ないならないで、人間どうとでもするもんだよ」
スマホを再びポケットにしまい、フッと笑みを浮かべた。
お互いに知識を共有し、文化の――世界の壁をスルーしたことで、私たちのチームの絆はさらに強固なものになっていく。
「よし、雑談はそこまで!
この通路の先、異様なエネルギー反応が感知されてるわ」
腕の端末からあたりをつけ、クロム社の核心が眠る施設の最深部へと、静かに、そして深く歩みを進めていく。




