表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーダー・メイト(Order-Mate)~兼食の猟犬と偏食だらけのインフォーマ~  作者: 湖陽 照
第1章 彩流市編 ~二人の愛食者~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/52

#30 黄昏時のドライブ

 激しかった黒雨のスコールは幾らか雨脚を弱まったからなのか、分厚い雲に切れ間ができた。

 いつの間にか西へと大きく傾いていた太陽が、ドロドロに融けたマグマのような斜陽となって辺りの世界を赤黒く染めている。


「AI、さっきの衛星索敵ログのデータ、解析は終わった?」


『――海へのダイブ直前の広域データを解析。同時刻にコンテナ倉庫から発車した本隊トラックの熱源および軌道を完全追跡しました。

現在の目標の現在地は、彩流市の最外殻、【濁都だくと】の境界付近に留まっています』


 助手席の画面に映し出されたホログラムマップの光を見つめ、ハンドルを握るシヨウが怪訝そうに口にした。


「……濁都? どこそれ?」


 バックミラー越しに後部座席のセンジがシートベルトを締め直しながら、落ち着いたトーンで現地の情勢を語り出す。


「彩流市に隣接するエリアです。あの辺りは黒雨が頻繁に降るせいで、いつも空は暗く街並みも真っ黒に染まっている。そのため『濁る都』と書いて濁都、と呼ばれています。

――スポイラーは黒雨を吸収して狂暴化することは知っていますね?」


 彼は一度、言葉を区切るとシヨウに尋ねた。

 彼女が頷くと、これも頷き返して再び話し始める。


「あの土地の性質上、スポイラーの数も決して少なくはありません。故にスポイラーの不法な狩猟や売買なども含めた、あらゆる犯罪が横行している危険地区でもある。

……あそこを牛耳っているのは『白夜』と呼ばれる巨大な組織とされていますが、一種の独立地区のようになっていて国やPALETTEの権力すら届かない。

実態は未だに掴めていないんですよ」


「ついでに言うと、普段からスポイラー専門の私たちPALETTEと人間の犯罪を追う一般警察って、境界の現場でブッキングすることが多々あってさ。

お互いの利権だの管轄の縄張り争いだので、いつも折り合いが最悪なのよ」


「ああ! だからさっきのカーチェイスの時、やたら警察の目を気にしてたのか!」


「うぐっ……! それは私たちが有給中だからであって、その……見つかると少々説明が面倒なことになるからよ!」


「ええ、まあ……手続きを踏まえない強行軍ですので、あまり警察に目をつけられたくないというのが本音です」

 

 二人がバツの悪そうな顔で言い訳を並べるのをシヨウはバックミラー越しに眺め、小さく息を吐いて口元を緩めた。


「ハンター業も大変なんだね。警察もそれは同じなんだろうけど。

私の協力者……いや――」


 シヨウはそこで一度言葉を区切ると、楽しげに目を細めて言い直す。


「非公式の二人と、戸籍がない一般人が首を突っ込む以上、ここは『共犯者』というべきか。

その相手はハンターなんだから――」


 シヨウは助手席に座るサキと、後部座席に座るセンジの顔を順番に見やり、2人を労うことにした。


「私はこっちを労うことにする。――お疲れ様です」


「――え。あはは、ありがとシヨウ! なんか面と向かって言われると照れくさいわね」


「……っ、あ、いや、私はただ当然の……。……ふぅ、お気遣い痛み入ります」


「――にしても、話が繋がった」


 彼女は雲を裂いて照らすアスファルトを走りながら、遥か先に見える不気味な境界線を見据える。


「クロム社のトラックは、その濁都のエリアの中までは踏み込んではいない。境界線のギリギリ手前で留まってる。

……警察とPALETTEの折り合いが悪くて、監視の目がガバガバになっている場所にわざわざ荷物を運んだ。そんな所でコソコソやってる時点で、自分たちから『後ろ暗いことをやってます』って宣言してるもんだよ」


「……確かに、その通りです。境界線であれば、いざとなれば管轄の隙を突いて濁都側へ物資を逃がすこともできる。

非常に狡猾で、悪質なルート構築だ」


「完全に真っ黒ね……」


 シヨウから情報を貰ったとは言え、まだクロム社が関わっているかは分からないのが現状。

 しかし、謎のトラック群が犯罪都市との境界線に向かった時点で質の悪い連中が、質の悪い事をしている可能性は十分にあった。


「ところで、スポイラーってこの世界ではどういう位置づけなの? 熊とか鹿みたいな害獣系?」


 唐突にスポイラーがまさかの害獣呼ばわりとは、彼らも悲しい立場になったものだ。

 センジも当たり前に享受していた存在の立ち位置について改めて考えているのか、少しうつむき目を瞑っていた。


「大昔はね。基本、スポイラーは現生命にとっては生きた災害だけれど、その生態と共通して存在するNibと呼ばれるコアみたいなものは、上手く使えば現在進行形で技術開発に回せる有用な資源でもあるの。

だから今はどこの国でもスポイラーの生態研究や、仕組みを調べるための技術開発が進められているわ。

ちなみに、国を問わずその狩猟が認められているのは、専門組織である私たち『PALETTE』と、各々の国から正式な認可を受けたごく一部の民間企業だけよ」


「ちなみに、スポイラーの種類は数多く存在しており、その生態も仕組みも実に様々です。

例えば昨日あなたが街の路地裏で戦ったのは生物種(アニマ)と呼ばれるタイプでしたが、他にもからくり仕掛けのような機械種(マキナ)や、それこそ人魚みたいな幻想種(ファンタズマ)と呼ばれるタイプもいる」


 否定されたファンタジーが突然息を吹き返したのかと思ったシヨウは前を見たままツッコんだ。


「ちょっと待った。いるじゃん、人魚!」


「人魚じゃなくて、人魚()()()()()って言ってるでしょ! 

伝承のおめでたい異種族と一緒にしないでよ!」


「似たようなもんだろうに……」


「……しかし、シヨウ」

 

 センジは居住まいを正し、バックミラー越しに感心したように声をかけた。


「さっきから、よくもまあ私たちの世界の複雑な事情についてこられますね」


 それもそうだ。彼女は確かに頭は回るようだが、世界レベルの常識の違いに対してこうもたやすく突いていけるものだろうか?


「ああ……、まあ、確かに細かな技術に関してはこっちのほうが上だと思うけど、基本的な文明レベルは私のいた世界とさして変わらないから。

それに――」

 

 自分の世界と比較してその違いをまざまざと見せつけられたシヨウは、同時に共通点や予測・推測が立てられることもある。

 彼女は何てことないように言い放った。


「こっちの世界のアニメとかゲームで、なんとなくこんな感じかと理解できる」


「流石オタク国家……! 二次元の引き出しの汎用性が高すぎるわよ……!」


「――――。

……そういえば、君はさっき店のシステムも平気で使いこなしていましたね、それに料理も。

違う世界なのに、よく食材や料理の意味が通ったものだ」


 センジはもう、何も言うまいと聞き流して別の質問に移った。


「知らないものもいくつか混ざっていたとはいえ、そのあたりも私のいた世界とかなり似通ってるらしい。

……正直、違う世界にしては色々と共通点が多すぎて、ご都合設定が過ぎると思うけれど」


「ご都合、とは何ですか?」


「物語を都合よく円滑に進めるための、お約束みたいな展開のことよ」


 幾らか二次元に理解のあるサキが、そっと注釈を入れる。頭のいいセンジに講釈を垂れる様子はかなり珍しい構図と言える。


「そう。だからそこはありがたくスルーすることにした。

他のトリップものの主人公みたいに、神様からありがちなトリップ特典を何一つ貰えてないんだから、このくらいのラッキー、バチは当たらない――はず」


「何言ってるのよ、特典なら大層なものがあるじゃない。

――その『翻訳能力』よ」

 

 シヨウはハンドルを握ったまま「――は?」と驚いたように黒い目を丸くしてこちらを見た。


「パッチが爆発して喉がステーキになるところだったのに? 

そんなの特典とは言わない」


「まあ、襲われて不可抗力で手に入れたものに対して、それを特典(チート)と呼ぶのは些か不謹慎かもしれませんね」


「けれど、こうして言葉が通じて、私たちがチームを組んで一緒にやれてるのは、間違いなくその力のおかげよ?」

 

 シヨウは一瞬だけ呆然としたが、すぐにフッと自嘲気味に笑った。


「……それもそうだ。これがなかったら、そもそもあいつらに連れて行かれたかもしれないし」


 シヨウはそこで言葉を区切ると、どこか楽しげに唇を歪めた。


「それに……それこそ不謹慎かもしれないけれど。

さっきのカーチェイスとか、海へのダイブも、映画みたいでちょっと楽しかった」


「ちょっと待ちなさい、そうでした。あなたの一連の戦闘での射撃技術と、さっきのバンの凄まじいドラテク!! あとついでに玩具の改造技術!!

あれこそ、あなたの世界の特別な特典とやらではないのですか!?」


「いや、ドラテクはただの映画の見様見真似。改造は昔から工作が好きだったから。小さい頃は博士とか言われてた。

……射撃に関しては、昔からシューティングゲームが得意だったから。ニ次元でも、お祭りのコルク銃でも。あと、父親とキャッチボールをしてよく遊んでいたから、何かを狙ってモノを飛ばすっていうエイム自体に結構慣れてる」


 困ったように「付け焼刃で申し訳ない」と微笑む彼女に対して、私たちはあんぐりと口を開けた。

 多少の粗っぽさは素人故にしても、ちゃんと実践で使えていたことを考えれば凄まじいと言うほかない。私より小さいこの体のどこに、そんなポテンシャルが押し込まれているのか?


「マジで!? そんな子供の工作とゲームとキャッチボールの思い出だけで、レベル4のスポイラーやバンの銃撃戦を突破できるの!?

人間、本当に命がかかれば何とかなるってこと!?」


「いきなり異世界生活を事前研修なしやらされれば、嫌でもどうにかするしかない。

……一応言っておくけど、あんな無茶苦茶なドリフト、リアルじゃ絶対にやらない。この車の異常な性能ありきだよ。

――そう考えると改めて凄いな、この車」


「まあ、 うちの開発部が片っ端からロマンを突っ込んだわけだし、それぐらいのポテンシャルは秘めていてもらわないと」


「ええ、これで役に立たなかったら本気でクレームを入れます。

PALETTEの非公式カスタムは伊達ではないと引き続き、ある程度証明していただかないと」


 素直じゃない二人の賛辞を端々に感じ取ったのか、センターコンソールの画面が青く明滅した。


『――シヨウ様、サキ様、センジ様。お褒めの言葉を検知しました。光栄に存じます。

……併せて、間もなく逆探知データの終着点へと到達。目的地周辺です』


 不気味に燃え上がる赤黒い雲に見下ろされながら、カスタムカーは彩流市の最外殻、無法地帯へと繋がる不穏の境界線へと、その鋭いフロントマスクを滑り込ませていく。


 濁都と彩流の狭間、この境界の地で繰り広げられる隠された悪魔の尻尾を今度こそ掴むため、異色の三人は黒い雨の中進むのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ