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オーダー・メイト(Order-Mate)~兼食の猟犬と偏食だらけのインフォーマ~  作者: 湖陽 照
第1章 彩流市編 ~二人の愛食者~

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#29 立つ鳥跡を濁さず

 全員の利害と目的が一致し、私たちは席を立ってこの無人のプレハブ店を飛び出そうとした、


――――ハズだった。


 しかし、その勢いよく丸椅子を蹴り立てた私とセンジさんの背中に、シヨウの低く落ち着いた制止の声がかけられた。


「――ちょっと待った、二人とも」


「え? どうしたのよシヨウ、一刻を争う逆探知大追跡のスタートじゃないの?」


「その前にやることがある」


 そう言って彼女はいつの間に持ってきた台拭きを私たちに投げる。


「――後片付けの時間だ。行くなら残りの食材も食べちゃって。

『立つ鳥跡を濁さず』ってね」


 シヨウはそう淡々と言い放つと、網でいじくり回されていた僅かな野菜や魚介を皿に盛って此方によこしてきた。

 テーブルの上の空になったカレー皿を重ね、網や鉄板の周りに散らかした僅かな汚れを、目にも留らぬ手際で綺麗に拭き取り始めた。本日何度目か分からない唖然とした表情で、私とセンジさんはその場に完全に硬直した。


「……ちょっと、本当にさっき海岸で初めて口を開いた時とのと同一人物? 

あの時はてっきり、反抗期真っ只中のイキった子供かと思ったのに」


「失礼な。……国柄、常に周りの空気や他人のことを考えて行動しろって、家の中でも外でも徹底的に教育されるの。そのおかげで治安はトップクラスにいいし、マナーも守る。

……ついでに、アニメと料理がやたらと強いオタク国家」


「周囲への配慮の義務化ですか。それはいい事なんでしょうが……。

しかし、24時間そんな社会で生きていて、気疲れしたりはしないのですか?」


 センジが立ったまま少し黒くなった野菜を急いで口に放り込み、丸椅子を戻しつつ、どこか同情を交えて落ち着いたトーンで尋ねる。

 シヨウは雑巾を絞りながら、自嘲気味に溜息をついた。


「疲れるに決まってる。

だから『一人カラオケ』だの『ソロ焼肉』だの、両脇を間仕切りした空間で黙々と貪る『一人ラーメン』だののシステムが流行るんだろ」


「そ、そっちの世界の住人も、中々大変なのね……」


「うちの国が異常なだけ。

……まあ、誰にとっても安全で生きやすい社会にするためには、それなりの精神的対価が必要だってこと」


「……うわ、何その無駄に達観した、ちょっと格好つけた台詞。……正直ちょっとドン引きだわ」


「ひとがせっかく真面目に語ってるのに……」


「でもさ、美味しい食べ物がある国なのは最高ね。シヨウ、具体的に何があるわけ?」


「色々あるよ。自国独自の伝統料理から、他国に修行に行ったシェフが本場さながらのクオリティで出す店まで。特に首都圏に行けば、自国を含めた世界中の有名店や製菓店がこぞっとて集まってる。

ウチは島国だけど、わざわざ外国に行かなくたって、たいていの国の料理が高いクオリティで食べられるし、他国の料理を自分たち好みに魔改造して全く新しい料理やデザートを生み出すのも日常茶飯事」


「……おい。お前のその、何でもかんでも魔改造したがる危険な工作癖、もしや個人の異常性ではなく、国家ぐるみの民族病ですか……?」


「うち、国ぐるみのオタクなもので。

……それが何か?」


「何かって……はぁ。なんだか話を聴いているだけで、あなたを『ロマ研』の連中に引き合わせるのが本気で怖くなってきたわ……」


 私が心底胃の痛そうな顔でぽつりとこぼすと、センジさんも深く同意するように頷いた。


「ええ。あいつらロマ研の連中もサキを上回るレベルの、まともな社会常識が1ミリも通用しない『ロマン最優先』の爆走狂たちの巣窟ですからね。

あなたのような国家ぐるみのサラブレッドをあの魔窟に放り込んだら、一体どんなとんでもない大惨事が起きるか……」


「センジッ、ひとを勝手に不名誉な基準にしないでよ!」


「……そんなにとんでもないの?」


「とんでもない。ですからラボへ行くことになった際は、どうか向こうの変態どもに釣られず、極力周りに迷惑は掛けないように自制してくださいね」


「任せろ、ウチの国の得意分野。

周囲と同調して目立たないように擬態して、迷惑を掛けないように行動するのはもはやお家芸です」


「……本当に頼みますよ。

あなたのその『自分のこだわりを決して他人に押し付けない』という、こだわりを持つものとして、奇跡的なレベルの常識と礼儀正しさには、私は本気で期待しているんですからね」


 私たちは一文字の汚れも残されていない綺麗な無人の浜焼き店を飛び出し、有名企業クロム社の恐るべき陰謀のド真ん中へと突入するため、最強の共同戦線として()()()()クラッチを叩き込んだのだった――。

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