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オーダー・メイト(Order-Mate)~兼食の猟犬と偏食だらけのインフォーマ~  作者: 湖陽 照
第1章 彩流市編 ~二人の愛食者~

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#27 三つ色の共同戦線

「よし。全員の前提が揃ったところで、改めてこれからの話をしましょう。……シヨウ、あんたはここからどうするつもり?」


 ストレートに尋ねると、シヨウは丸椅子に深く座り直したまま、迷いなく答えた。


「決まってる。引き続き、あの黒服の連中を追う。それしか現状、家に帰る手がかりがない」


「奇遇ね、私たちもあの組織の不審な動きを追うことになってるわ」


 私とシヨウの視線が不敵に交錯した、

 その瞬間。隣のセンジさんが、低い声を店内に響かせて割り込んできた。


「――シヨウ。ここからの追跡は、私たちだけで行います。あなたは連中のトラックを追うべきではない」


「……一応聞いとく――何故?」


「あなたはハンターではない。いきなり別の世界に飛ばされただけの、ただの無関係な被害者です。現に連中に狙われている。ここはプロの私たちに任せて、支部庁舎の研究開発室へ行きなさい。あそこのなら、あなたの身を安全にかくまってもらえるはずです」


「あ、やっぱりそうなるのね……」


「ええ。開発部のボスからも、彼女の作ったあの異常な魔改造おもちゃ銃のこともある、見つけたら大至急ラボへ連れてこいと厳命されていますからね。

……サキ、本心では私も君の直感通り彼女を君の『バディ』としてスカウトするのもいいかと思ったのですが、流石に一般人をこれ以上危険なことに巻き込むわけにはいきません。残念ですが、ここで別れるのが最善です」


「ちょっと待った。バディって、何の話?」


 不服そうに眉をひそめたシヨウの疑問に、私は慌てて説明を付け足した。


「バディっていうのはね、ハンターは基本的に2人、あるいは3人でチームを組んで、お互いの背中を預け合う唯一無二の『相棒』のことよ。センジは欠員補充要員で半分フリーみたいなものだけどね。

あんたのそのガッツと戦闘技術があれば、私の最高のバディになれるって、本気で惚れ込んでスカウトしに来たんだけど……。こんな大変な目に遭っているとは夢にも思わなかったからさ。

残念だけど、センジさんの言う通り、あんたの安全が最優先だわ」


 私が肩を落としてスプーンを弄ると、シヨウはセンジのように顎に手を当てしばらく考え込んだ。


「――その『バディ』とやら、私がなろう」


「「…………え!?」」


 私とセンジさんの驚愕の声が、本日最高の一致度で綺麗にハモった。


「何をそんなに驚いてんの? 

そもそも、私が海岸で二人をナンパして、今の今まで一緒に行動すると決めたのは、最初から二人に協力を求められないかと考えたからだよ」


「最初から、私たちに……? というか、ナンパってなによ!」


「それは、置いておいて。

――最初、街で襲ってきたあの連中の規模が、思っていたよりもずっと大きかった。正直、私個人じゃ手に余る。

……だから、同じように組織に属していて、なおかつあの黒服の連中の動きに強い興味を持って追っている二人なら、利害の一致で協力関係を持ちかけられるんじゃないかって、カレーを作る前からずっと計算してた」


「……クッ、そこまで計算して、海岸の自爆劇から立ち回っていたというのか……。

ですが、シヨウ、無理をすることはありません。連中の本拠地へ乗り込むなど、あまりにも危険すぎる。それに、連中が本当に元の世界に帰るための情報や手段を持っているかどうかも、現段階では何一つ確証がないのですよ?」


「百も承知。何の手がかりもないかもしれない。危険を冒して、骨折り損で終わるかもしれない。

それでも行く」


 シヨウは真っ直ぐな、落ちてしまいそうなほどの黒い瞳で、センジさんの純黄色の瞳を真っ向から射抜いてみせた。


「私のいた世界じゃ、この手の異世界トリップものの小説やアニメなんて、山ほどヒットしていた。その主人公たちのほとんどが、10代半ばの、若くて無敵な子供たちばかり。……最近じゃ、いい年したおっさんが飛ばされるネタも流行ってたみたいだけど」


「しょ、小説のアニメのネタ……?」


「私は、そのどっちでもない。一端の大人だと胸を張れるほど人生経験があるわけじゃない。

けれど、適当にフラフラ探検していれば『いつかメインルートを踏んで勝手に奇跡が起きて家に帰れる』だなんて夢を見られるほど、子供になりきれる年齢でもない。これでも24だし」


「シヨウ……」


「だからこそ、あっちから仕掛けてきた、あの厄介で不可思議な面倒事の渦中に自分から進んで飛び込むって決めた。

……まともじゃない情報は、まともじゃない場所を探すのが一番手っ取り早い。あいつらのド真ん中に突っ込むのが、現状私が打てる手だ。

――あいにくこの身一つで異世界に飛ばされたんでね、白旗は手持ちにない」


「……っ、あはは!!」


 シヨウのその、一見理詰めに見えて、あまりにも強引、肝の据わった半人前の大人としての覚悟を突きつけられ、私は思わず胸の奥のハンターとしての本能が激しく歓喜に震えるのを感じて、大爆笑してしまった。


「最高じゃない、シヨウ!! よし、決まりよ! センジさん、異議なしよね! ロマ研のボスの命令なんてガン無視して、私たちは今から、この最高に頼もしい異世界人と一時的な最強の共同戦線を張るわよ!!」


「……はぁ。君のそのトチ狂った直感に、有給のすべてを巻き込まれる私の胃の身分にもなってください、サキ。

……ですが、シヨウ。貴方の――いえ、君のそのまともじゃない覚悟、私も確かに受け取りました。歓迎しますよ」


 センジさんも観念したように深い溜息を吐き、しかしその形の良い唇に不敵な笑みを浮かべて、ガシッとシヨウの前に右手を差し出した。


 黒雨のスコールがトタン屋根を激しく叩くなか、プレハブの無人店で、私たちはついに彩流市を揺るがす共同戦線としての契約を交わしたのだ。

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