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オーダー・メイト(Order-Mate)~兼食の猟犬と偏食だらけのインフォーマ~  作者: 湖陽 照
第1章 彩流市 編 ~交わる二人の愛食者~
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#16 運命の分かれ道 ~おすすめのルートを設定します~

 日は未だ高い。

 港湾地区をあとにし、私たちは大型トラックの列を一定の距離を保ちながら追跡を始めた。


 車は港の倉庫街を完全に抜け、寂れた海沿いの道をひたすら進んでいく。信号もなく、ただひたすらに一本道が続く、悪い意味で見通しの良いルートだ。


「……ねえセンジ。やっぱりあいつら、ただの密輸組織じゃないわよね。

あの馬鹿みたいに大きい容器とか、一体何に使うつもりなのかしら?」


 助手席からフロントガラス越しにトラックを睨みつけながら、ぽつりと呟く。

 分からないことだらけで、不気味だ霧の中を進む感覚が拭えない。


「分かりません――。

ですが、あの機材の量からして、相当な規模の組織が絡んでいる可能性はあります。少なくとも一個人や不良の集まりができる所業ではない。

なんにせよ、ここで見失うわけには――」

 

 彼がアクセルをさらに踏み込もうとした時――――


 前方の走る車列の合間から、一台のサイズ違いの車両が左側の側道へ車線を変えたのだ。


「――っ! センジ、あれ!」


 思わずダッシュボードを叩いて叫ぶ。

 それは昨夜見た、あの『黒いバン』だった。


 オフィス街の路地裏で男性を拉致し、私がカメレオン野郎とやり合っている最中に、闇へ消え去ったあの誘拐グループ犯のバンそのものだ。


 ハザードも焚かず、バンはトラックの列とは完全に別ルートの港町へ向かって、舵を切っていく。


「チッ、ルートが割れたか……!」


 彼が激しく歯噛みし、強引にブレーキを踏み込んで車の速度を落とした。トラックらはそののまま海沿いの一本道をどんどん進んでいく。

 そして、誘拐事件の直接の容疑車両であるバンは、町に向かってスピードを上げている。


「ど、どうするのセンジ!? どっちを追えばいいのよ!?」


「くそっ……! 確証がなさすぎる。

用途不明の積み荷の行き先を追うべきか、それとも誘拐犯のバンを追うべきか……!」


 苛立たし気にハンドルを叩くセンジさんの指先が、苦渋に軋みながら白くなるほど強く握りしめる。

 ここで選択を誤れば、スポイラーの真相も被害者の行方も、下手をすれば黒髪黒目の相棒候補のことすらも、永遠に闇の中だ。


 どちらの車両も、一秒でも躊躇すれば二度と追い付けない程の速度で走る。

 私たちの視界から、どんどん離れていく。


「ああ、もう! 考えてる時間はないわ! ねえ、AI!!」


 私は完全に考えあぐね、藁にもすがる思いでコンソールの赤いボタンを強く押した。


「この先のルート分岐、トラックの車列と、左に向かったバン、どっちを追いかけるのが正解なのよ!? 敵の追跡ルートを教えて!!」


 『ポンッ』と軽い電子音が鳴ると、ボタンが赤くパチリと点灯した。

 そして、あのやたら上品な合成音声が車内に響く。


『――音声入力を確認いたしました。

現在地周辺における、おすすめのドライブコースは、観光エリアを抜けた先にある『潮風を堪能できる絶景カフェ』でございます』


「そんなお気軽なナビは求めてないのよ! 追跡ルートを聞いてるの!!」


『目的地を絶景カフェに固定しました。交通規制に従って走行します』


 その瞬間、私のお願いを完全に無視したAIが、観光客で賑わう港町の方向へ勝手にハンドルを切った。

 バンの進路と同じ方向へ、問答無用で強引についていこうと車体が勝手に動き出す。


「役に立たない機能ばかり仕込むなぁ、あの男は!! 

こらっ! カフェに向かって勝手に加速まで始めるんじゃない!」


 身勝手な車に激怒するセンジが必死にブレーキを踏み込もうとした瞬間、コンソールの液晶モニターがバババッとノイズを立て始めた。

 強制的に切り替わったサーモ画像が、突如として前方のバンの姿を捉える。


『――緊急トラフィックを検知。広帯域熱源スキャナーを強制起動します』


 車体の透過図が鮮やかな赤や黄色、緑、青といった熱源グラフィックとして表示された。

 ピコピコと警告音を立てて拡大する。


『スキャン完了。

前方のバンの後部座席に極めて不自然な体制で横たわっている人間の熱源が1名、検知されました』


「人間の熱源……!? 誰か乗せられてるってこと!?」


「はい。ただいまのスキャン結果により、左折ルートへ再セットしました、自動加速を継続します」


「不自然な体制の人間だと……?」


 AIが叩き出したデータを見つめ、彼の瞳がプロの鋭さへと一瞬で切り替わった。彼は顎に手を当て、即座に矛盾を弾き出す。


「昨夜の段階で拉致された被害者を、こんな時間まで悠長に連れ回しているとは考えにくい。

……ということは、これは今さっき新しく攫われた、別の被害者か……!?」


「新たな被害者……! 積み荷の正体は分からなくても、今まさに誘拐が行われているなら放っておけないわよ!」


「ええ、警察でなくとも見過ごすわけにはいかない! 

サキ、運転の主導権を奪い返します、しっかり掴まっていなさい!」


 センジは自動運転の加速で暴走気味のハンドルを強引に奪い返し、アクセルを強く踏んだ。

 未登録のカスタムカーが激しいスキール音をあげ、新しく攫われたであろう被害者を乗せて走るバンを追って、猛スピードで坂道を駆け上がっていく。


「赤信号で止まるわよ!」


 坂道を登り切った交差点の赤信号に引っかかり、前方のバンがブレーキランプを鮮明に点灯させて急停止した。

 私たちの車もその数十メートル手前でブレーキを掛けて止まる。


 ――――ガタガタガタッ!!


「……っ!? ねえ、なんかおかしくない?」


 バンの車体が左右に激しく大きく揺れ始めた。

 濃いスモークの張られた窓ガラスの向こうで、複数の人間の影が揉み合っているのシルエットがよく見える。


「中で誰かが暴れてるんだわ!」


「被害者が抵抗しているのか……!?」


 センジがハンドルを握り直した――その瞬間だった。


 激しい揉み合いの衝撃で、バンの後部座席のドアが内側から勢いよく開いた。

 小柄な影が男を押し出すため、力任せに圧し掛かろうと身体が大きく外に飛び出す。


 バサッ、と激しい動きの中で、その影が被っていた暗いフードが完全に脱げ落ちた。


 かんかんと照り付ける太陽の光をダイレクトに浴びて反射する光の輪。

 何処までも突き抜けていく蒼い蒼い空と遠くに見える煌めく海、白い町並みの前では、ある意味鮮烈と言える色。

 

 少し長い襟足を項で小さく一つに結ばれた――――――『()()』だった。


「――黒髪……っ!」


 思わず声をあげる。

 誘拐犯に攫われた新たな被害者とは他の誰でもない、昨夜私をキレッキレのアシストで救ってくれた、あの正体不明の不審者だった。


 だが、大人しく捕まっているようなタマではなかったらしい。

 後部座席の男を相手に、狭い車内で猛烈な大立ち回りを演じていた。


 開いたドアから突き落とそうとするも、掴み返して反撃してくる男に黒髪はポケットから何やら小さい箱のようなものを素早く引き抜く。


 バチバチバチィィィッッッ!!!


 強烈な放電がの車内でも分かるくらいの青白いスパークが起こる。


「ア゛ッ――――」


 あの謎の小箱が放つ電撃はよほどの衝撃だったのか、首筋に押し当てられた大柄な男は悲鳴を上げる暇すらなく、全身を激しく硬直させ、そののまま路面へとボロ雑巾のように転がり落ちた。


 すると今度は流れるような動作で運転席へ強引に迫る。

 運転手がバックミラー越しに慌てて拳を飛ばすのがシルエットで見えたが――


 バチィッ!!!


 激しい光が再び車内を照らす。

 暫くすると、運転席のドアが開き、男が派手に路面へと放り出される。ぐったりとした男は完全に意識を失っていた。


「運転手まで気絶させて放り出した!? まさか、自分でバンを走らせる気ですか!?」


 そのまさかと言わんばかりに、運転席のドアが乱暴に閉められた。

 そして赤信号を無視し、タイヤから猛烈な白煙を上げて、坂道の向こうへ猛スピードで駆け下りていった。


「ちょっと、あの子バンを乗っ取って暴走し始めたわよ!?」


「ええ、放っておけば最悪一般人を巻き込んでクラッシュしかねない! 

追いかけて止めますよ、サキ!」


「オッケー、アクセル全開でぶっ飛ばして! 力づくででも捕まえるわよ!」


 センジが答えるようにギアシフトを叩き込み、カスタムカーのエンジンが猛獣のような咆哮を上げる。


 こうして、私たちはようやく見つけた黒髪の子が強奪してバンの大暴走を止めるため、真っ白に輝く観光地を舞台に猛追撃を開始したのだった。

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