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オーダー・メイト(Order-Mate)~兼食の猟犬と偏食だらけのインフォーマ~  作者: 湖陽 照
第1章 彩流市編 ~二人の愛食者~

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#15 アクション!!

 コンソールの赤いボタンを連打しても、爆音のせいで声が通らない。

 何度も言い回しを変えながら叫び、爆走する車を止めようと四苦八苦すると――


『――目標エリアへの潜行私道(ルート)を走破。送信された出撃自動運転データを終了します。これより、マニュアル運転へ移行。

安全運転を心掛けてください』


 あの眼鏡を彷彿とさせる上品なボイス。


 『お前が言うな!』のセリフと同時に、それまでガチガチに固定されていたハンドルが急にふっ、と軽くなったのをセンジは感じた。


「……っ、動いた!」


 センジは大慌てでブレーキを踏み込み、私は音符マークが描かれたツマミを見つけ、急いで回す。

 ――ようやく、車内に静寂が戻った。


 トンネルを抜けると、パッと眩しい日差しが飛び込む。


 日はまだ高い。

 地下であまりにも濃い時間を過ごして分かりにくかったが、外はまだ昼だったらしい。

 ドッと疲れが押し寄せ、しばらくお互い無言が続く。


 ――――しばらく走らせて辿り着いたのは、古い港エリアの更に奧。

 色褪せた巨大なコンテナが不気味に積み上げられた、人気のない港湾地区のコンテナ倉庫だった。


 警察の検問を裏から見事に出し抜いて先回りする事には、どうにか成功したらしい。


「ふぅ……初っ端から生きた心地がしなかったわね。

SEが誘導ルートを送るって言ってたけど、ナビじゃなくて自動運転の方にだなんて、最初からそう言いなさいっての……」


 車から降りた私は、ぱたぱたと私服の襟を払いながら呼吸を整えた。

 

 センジが車を巨大なコンテナの死角へと滑り込ませ、静かにドアを開けて外へと出た。

 真昼の太陽が、潮風吹く錆び付いたコンテナの山をじりじりと照らしている。


「サキ、ここからは完全な隠密行動です。……忘れないでください。

 私たちはまだ、何も知らなさすぎる。そもそもこの場所に犯人や被害者が本当にいるのかすら、分かっていない」


「分かってるわよ。だから、はっきりとした証拠を掴みに行くんでしょ」


 装備帯――キャンバスに備え付けたソムリエ特製のポータブルカメラ型偽装銃の感触をしっかり確かめた。


 コンテナでできた迷路の隙間を縫うようにして、静まり返った倉庫エリアの奥へと慎重に歩みを進める。

 昼間だというのに薄暗く、寒々しい。

 

 歩きながら、ふと前を行く彼の背中に声を掛けた。


「ねえ、センジ。今更だけどさ……なんで私のこと、そんなに信じてくれるの?」


 昨夜、ボスには妄想だと鼻で笑われ、同僚達も私の目撃談を真に受けなかった。

 それなのに、この規律重視の男は――、ラボで端末をいじっていた時には、既に有給申請をしていたという。

 「どうせ一人でまた突っ走っていくことになるんだろう」――――と。


 何故こそまで付き合ってくれているのか、純粋な疑問だった。


 彼は足を止めない。前を歩いたまま、静かに、しかし迷いのない声で応じた。


「君は確かに問題ばかり起こしますが、つまらない嘘で周囲を惑わせ楽しむタイプではない」


「……センジ」


「君が就任してから一人目のバディと組むまでの間……私はずっと君の隣にいたんですよ?君がどれだけ真っすぐで、どれほど勘が鋭いかも、胃を痛めつつ傍で見てきました。

……本当にスポイラーが人の命令に従うというのなら、ハンターとして決して無視できない、それだけです」


 淡々と語る彼の言葉に、胸の奥が暖かくなるのを感じる。

 腐れ縁だなんて普段から憎まれ口ばかり叩かれているが、この人は誰よりも私のハンターとしての本質を信頼してくれているのらしい。


「……さて、ここから先は我々ハンターの管轄外の領域だ。間違っても警察とブッキングするわけにはいきません、より慎重に行きいますよ。


……サキ、足音を消しなさい」


「ハイハイ、お目付け役さん。頼りにしてるわよ」


 私はニッと笑い、カメラのグリップを握り直した。

 私たちは再び呼吸を合わせ、海鳥の声が寂し気に響く倉庫エリアの奥へと潜行していった――。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 錆び付いた鉄箱の隙間を慎重にすり抜けていく。

 日中の強い日差しが細く強い光となって、まるでサーチライトのように薄暗い通路を照らしている。


 ――――潮風の香りに混じる、嗅ぎ慣れない薬品のような刺激臭。

 二人は眉をしかめた。


「センジっ、あそこ――」


 コンテナの影に身を隠しながら、そっと顎で促した先。

 人気のない倉庫街の隅の岸壁に、一隻の不審な大型船が接岸していた。

 船のタラップから数台の大型トラックの荷台へと、慌ただしく積み荷を運び込まれていく。


 男たちが運んでいたのは、謎の巨大な容器だった。

 中身が入っていない、空っぽで透明。人一人軽く入れそうなほどの円筒状のポット。


 さらにその周囲には、ハンターの兵装プラントとも異なる、見たことも無い用途不明の謎の機材が大量に置かれていた。


「……こんな人気のない港の奥で、あれほど大量の積み荷をいったい何処へ運ぶつもりだ?

あいつら、何を企んでいる……」


「ただの密輸にしては、物々しいわね。

……ねぇセンジ、あいつら機材をトラックに積み終えたら、もうここから移動する気よ! 追いかけないとっ――!」


 そう言って、コンテナの陰から一歩前に踏み出そうとすると――、


「――サキ、落ち着いて下さい」


 低い、いつになく真剣な声色が引き留めた。


 私の肩をガシッと片手で力強く制し、形の良い眉をひそめて、鋭い眼光のまま眼下の現場をジッと見据える。

 いつも胃を痛めている先輩ではなく、前線を知り尽くしたハンターの顔だった。


「まだ奴らの目的も何も分かっていない。焦って飛び出せば、こちらがただでは済まない。

――しばらくここで、様子を伺います」


「……分かったわよ」


 あまりのカッコよさに毒気が抜かれ、大人しくコンテナの影へと身を潜め直した。

 そうして息を殺しながら、じっと男たちの搬出作業を見つめていた――、まさにその時。


「――おい、そこで何してる」


 背後から、男の声が突如として投げつけられた。


「「――っ!?」」


 ビクッと私とセンジさんの身体が硬直する。


 いつの間に回り込まれていたのか、振り返ると私たちのすぐ後ろのコンテナの隙間から黒服の男が鋭い視線をギラつかせて立っていた。

 男の目が、不審な二人組を捉えている。


 ここで怪しまれて大騒ぎになれば、すべてのトラックに逃げられてしまう。

 私はコンマ数秒で脳細胞をフル回転させ、装備帯からカメラを掴み大慌てで目の前のコンテナ群にレンズを向けた。


 ――カシャ、カシャ


 静寂に包まれた倉庫街に、乾いたシャッター音が響く。


「すみませ~ん、写真家です!」


 私は無邪気な()()()として、満面の笑みを浮かべた。


「人気のない古いコンテナの、この錆び付いた鉄箱のテクスチャが最高にかっこよくて! 夢中で構図を探してたら、いつの間にかこんな奥まで迷い込んじゃって……! 

邪魔しちゃったのなら、ごめんなさい!」


 カメラを抱えて明るく話す私に対し、男は眉をひそめたまま、冷淡な眼光で一歩詰めよってきた。私が持っているカメラに手を伸ばす。


「おい、やめろ。この辺りの写真を撮ったんじゃないだろうな? 

――データの履歴を見せろ、今撮ったものは全部ここで消去していけ」


 不審な船や積み荷を撮影されて警察に持ち込まれるのを警戒しているのだろう。

 男の声には僅かな殺気が混ざっていたが、私がレンズを向けたのが、ただの置き捨てられているコンテナだったこともあり、激昂までには至っていない。


 「いや、ちょっ――」と思わずカメラを隠そうと身を引いてしまった時、トンッと背中がぶつかった。

 温かさを感じる間もなく、スッと自然な動作でセンジが割って入る。


「いえ、今来たばかりですよ」


 私のカメラをそっと上から優しく手で押し下げ、落ち着いた大人のビジネスライクな笑顔を見せた。


「彼女は一度カメラを持つと周りが見えなくなる質でしてね。本当に立った今、この辺りに来たばかりなんです。写真もさっき撮ったものだけですが……。

ほら、言われた通り今撮ったデータはすぐに消しなさい」


「はーい、すぐ消しまーす!」


 男の目の前でわざとらしく操作し、撮った写真を綺麗さっぱりゴミ箱へ放り込んでみせた。

 センジのあまりにも冷静で完璧な立ち回りと、実際に目の前でデータが消去されたのを確認したのを見て、男はフンと忌々しそうに舌打ちをする。


「……チッ、ここは立ち入り禁止だ。さっさと失せろ」


「はーい、ごめんなさいねー!」


 男が私たちの脇を通って、トラックの方へ歩き去っていく。

 男の姿が見えなくなった瞬間、私は深い溜息を吐き出して、センジさんを振り返った。


「はぁ……間一髪とはこのことね。ナイスフォロー、センジ。

流石付き合いが長いだけあるわね」


「心臓に悪い真似はやめてください。ですが、いよいよきな臭くなってきましたね、男たちの警戒も強まっているように感じます。

――ほら」


 彼に促されると、エリアから一斉に発車する何台ものトラックが車列が見えた。


「――っ、急いで車に戻って追うわよ!」


 私はすぐさま踵を返し、ソムリエのカスタムカーを目指して全速力で駆け出した。

 直ぐに追いつき並走するセンジが、私服のポケットからスマートに車のキーを取り出し、ロックを解除する。


「ええ、警察の到着を待っていては完全に撒かれます。

非公式の追跡になりますが……状況が状況です。致し方ないでしょう」


 バタン、と勢いよくドアを閉め、車に乗り込む。

 彼は手際よくエンジンを始動させると、静かな駆動音を鳴らして急発進した。

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