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オーダー・メイト(Order-Mate)~兼食の猟犬と偏食だらけのインフォーマ~  作者: 湖陽 照
第1章 彩流市編 ~二人の愛食者~

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#14 映画公開まであと ① ~上映中は立ち上がらず、お席にてご鑑賞ください~

 ――――猛烈な白煙と爆音BGMを撒き散らしながら、カスタムカーが豆粒になってトンネルの奥へと消えていく。

 ハッチが重厚な音を立てて完全に締まり、ラボの中に静寂が戻った。


 そのあまりに派手な暴走っぷりを見送る面々は、唖然とするどころか、むしろ満足げな笑みを浮かべる。


 それまで作業台で冷や汗を流しながら様子をうかがっていた新人が、おずおずとした様子で口を開いた。


「……あの、先輩方。色々と咲さんのためとか大人の妥協案とか理由をつけてましたけど……」


 【テスター・ルーキー】は先輩たちをキョロキョロと見回す。


「なんだかんだ言って、ただ自分たちが趣味で作ったヤバい武器やカスタムカーを、実践で試したかっただけじゃないですか?」


 純粋な一言が、ラボに思いの外よく響いた。

 一瞬の静寂の後、4人はゆっくりとルーキーの方を振り返り――――


「「「「当然だろう(でしょう)」」」」


 寸分の狂いもなく、完璧に口を揃えて肯定して見せた。


「私が仕立てたあの未登録車は、現実を無視したあまりにも過激なスペックを注ぎ込んだ狂気の産物ですからね」


「だからこそ、あのじゃじゃ馬を笑って御せるのはPALETTEと言えどサキ、奴ぐらいだろう。規律を重んじるばかりの凡人どもに、俺たちの(ポリシー)が詰まった決勝は到底扱えん。

……それに、同乗していたセンジのことも俺は一応気に入っている」


 渋々ながらも、キングロードはそっと呟く。

 センジの生真面目さは決して悪いものではないが、ロマンに生きる彼らからすれば少々ネックな質でもある。


「あの凄まじい加速Gに耐えて、曲がりなりにも気絶せずハンドルにしがみついているのは流石だ」


「意識が途切れればセンサーが作動して緊急停止するようになっていますからね。あのタフさは、お見事というほかありません」


「欠員補充要員ではあるでござるが、なんだかんだ言って、サキ氏がハンターに就任してから一人目のバディ結成までずっと隣にいた御仁ですからな。

サキ氏のムチャクチャに付き合ってきた期間は、歴代のバディ面々と比べるまでもないのでは?」


 結局のところ、現場も人もクラッシュさせる女を胃痛一つで付き合えている以上、彼の実力は折り紙付きなのだと、皆理解している。


「――お前ら、観劇の時間だ」


 監督が、さっきまで書いていた図面をメガホンのようにくるくる巻いて、大型のメインモニターを差した。


「サキが持ってったカメラのライブ映像を、モニターに回せ!」


 監督の鶴の一声で、モニターにサキの持つカメラの視界が映し出された。

 ブレッブレの映像からは、二人の絶叫と、トンネルの闇をライトの光が恐ろしい速度で飛んでいく画が流れる。


「ええっ!? ライブ中継!? あのカメラって本当に録画機能が動いてたんですか!?」


 驚くルーキーに、ソムリエが美しくも意地悪気な職人の顔で言う。


「試作とは言え私どもが、『タダ』であれらを手渡すわけがないでしょう?」


 流れる映像を見ながら、驚きっぱなしの新人に丁寧に説明する。


「あのポータブルカメラ型の銃には本物の常時録画機能が搭載されています。

サキ様が持ち歩いている間、現場の全てを勝手に高精細動画としてこちらのラボへ転送される仕組みです」


 優雅な物腰で語りながらも、何処か不穏で、恐ろしくて、首筋にナイフでも添えられているかのような緊張感が襲う。


「――これは言わば、私どもへのお礼(チップ)の代わりですよ。

もしも現場で『スポイラーを使役するパッチ』なるものや、良からぬ輩の陰謀が撮れていたら……」


 ソムリエの眼鏡の奥の濃い青に冷徹な星の光が一つ、キラリと瞬く。


「その時は上層部へ提出し、あの頑固なボスに現実を認めさせる証拠にして差し上げますよ」


「ライブでござるか! ならば音響周りはこの拙者に任せるでござるよ!

臨場感マックスのサラウンドシステムでお送りいたしますぞ!」


「フッ、ならばこの俺がふさわしい環境を作ってやろう」


 キングロードがコンソールを操作すると、夕暮れ時のようにラボが暗くなる。


 その場にある機能性100%の武骨な椅子は、シアター仕様に次々と変形していった。

 シルバーの座椅子からは真っ赤な蕾が花開くように、柔らかくもしっかりしたクッションが咲き誇り、寒々しい骨組みはアンティーク調の木材風に育つ。

 

 元々大きかった大型モニターが、どういう仕組みなのかさらに大きくなっていき、煌々と光を放っていた。


 ――――完璧な映画館へ、ようこそ。


「おや、皆さん素晴らしい手際ですね。

……ではルーキー、ポップコーンや、冷たいお飲み物は如何ですか?」


 上品に微笑むソムリエが、何処からかポップコーンが詰まった器とグラスをスマートに取り出した。


「おいソムリエ、俺はショウユバターだ。あの東洋の調味料は美味い! 

あと冷たいコーラを並々と注いで持ってきてくれ!」


「俺にはペッパーだ。それとジンジャーエール、炭酸は強めに頼む」


「拙者は冷やしキャラメル味を大盛りでリクエストでござる!

あのガリガリ触感はやみつきですからなぁ。あ、飲み物はドクターペッパー一択!」


「ハイハイ、かしこまりました。皆さん注文が多いですね。

……どうぞ、こちらはルーキーの分ですよ。

苺ミルクと苦めのアイスティーになります。塩を少し散らしておきましたので、動いた貴方には丁度いいでしょう」


 ソムリエが苦笑いしながらも手際よくドリンクを注ぎ、ただただ立ち尽くす新人の前にポップコーンと飲み物を差し出した。


「ポップコーンまで用意してあるんですか!?

武器の無断貸し出しに非公式の秘密のハッチでの出撃、おまけに無許可の戦況盗撮ライブシアターって……。

先輩方、本気で不謹慎過ぎませんか……?」


 あちこちから飛び交うお菓子の注文と、完全に趣味の映画鑑賞のノリに切り替わったラボの光景に、ルーキーは呆れたと言わんばかりにツッコミを入れる。

 すると暗がりの奥でコラを片手に持った監督が、揚々と新人の肩を叩いた。


「思い出してみろ、ルーキー。

この世界で未知の存在であるスポイラーを研究し、いじることを許されているのは俺達PALETTEと一部提携している民間企業だけだ」


 監督はモニターに流れるサキのカメラが映す光景を眺め、声を弾ませた。


「スポイラーの持つ力は、既存の科学を越えたフィクションじみたものも多い。

つまり、かつて俺たちが漫画やアニメ、映画の中で夢見た大技や武器、ガチェットに乗り物の数々を現実に昇華させて創り出す特権が俺たちの手の中にあるんだ。

しかもそれを実用できる状況と需要があるときた」


「そんな最高の環境(チャンス)を目の前にして、ここぞとばかりに己のロマンを全部ぶち込んで、何が悪い? 

規律なんていうのは、人の道さえ外れなきゃ問題ない。研究者らしくデータの検証(映画鑑賞)といこうじゃないか」


「――はいっ!」


 ルーキーが釣られて嬉しそうに返事をして、ポップコーンを一つ摘まむ。


 こうして、PALETTEの規律を完全に無視した偏屈な職人たちは、サキが港湾地区で巻き起こすであろう、最高にド派手な絵面のデータを、特等席のシアターでワクワクしながら待ちわびるのであった……

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