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オーダー・メイト(Order-Mate)~兼食の猟犬と偏食だらけのインフォーマ~  作者: 湖陽 照
第1章 彩流市編 ~二人の愛食者~

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#13 映画公開まであと ② ~出撃! 秘密の地下トンネル~

 センジさんの指摘にソムリエはクスクスと笑い、SEはキーボードを叩く手を止めて誇らしげに胸を張った。


「ふふ、簡単な理由ですよセンジ様。サキ様が元ハンターである以上、お貸しできる手は限られます。

これはいわば妥協案――――大人の取引です。


普段からサキ様にはColor能力による高純度のサンプル回収の件で大変お世話になっておりますから。

そのお礼と、提供した試作武器の貴重な実践データをいただくための担保、というわけです」


「何より、サキ氏が言っていたあのスポイラーに命令できるパッチでござるが……もしそれが事実なら、とんでもないバグでござるよ! そんな代物、拙者達が見逃すとでも? いや、ない! それに、おもちゃの電動水鉄砲を魔改造するX氏のクレイジーな閃きとセンス、ロマ研一同、興味が尽きないのでござるよ! サキ氏、何卒ご本人ごと実物をぶんどってきてくだされ!」


「穢れの無いサンプルをもたらすサキへの恩義、そして常識を覆した漆黒を宿す無名への興味……それだけで、俺たちが動く理由としては十分すぎる。

――――おいサキ、これをカメラのストロボ部分に換装しろ」


 キングロードが差し出したのは重厚なカートリッジだった。


「カメラを使うならば、闇を照らし悪を暴く閃光こそ至高の魔法――

即ちフラッシュ。

閃光を放つCollarを充填して高出力になるよういじってある。

そいつをくれてやる。断じて地味な戦いはするなよ」


「わぁ、ストロボのカスタム。流石キングロード、かっこいい!」


「――おいサキ。そのパッチとやらは当然だが、俺はあのギャラクシアに料理玩具をバラシてくっつけた、ジャンルを問わない組み合わせにそそられているんだ。

本来交わるはずのないジャンルを強制合体させるそのセンス……」 


 奥のデスクで忙しそうしていた監督が、トップらしい貪欲な笑みを浮かべて最高な無茶ぶりを要求してくる。


「いいか、黒いのをこのラボへ連れてこい。

こいつらから貰ったもん全部使って、最高の絵面(せんか)を撮ってくるんだ、いいな?」


「つまり拉致って来いってこと? 任せて、もともとそのつもりだから!」


 元気よく返事を返すと機嫌よさげに不敵に口元を上げた。


「ソムリエ、()()()のこいつらに、お前が仕立てた足を回してやれ。

おい、ルーキー! 大至急ガレージのハッチを開け!」


「う、うわぁ。先輩たち、本気で警察を出し抜く気だ……!」


「かしこまりました、監督。こちらをお使いください、サキ様、センジ様。

完全未登録の試作品になりますが――、休暇中のお客様の特別なドライブにふさわしい逸品をご用意いたしましょう」


 そう言って私に鍵を渡すと、カウンターの端末に細い指先を滑らせる。

 同時に見慣れない研究員が、冷や汗を流しながらラボの隅にある隠しコンソールへ飛びつき、大慌てで重厚なレバーを引き下ろした。


 『ピピッ』と電子ロックの解除音が響いた直後、地下3階の強固な壁の一部がゆっくり重くスライドしする。

その奥のガレージから、スタイリッシュでありながら一般車にみえるように偽装された車が静かにその姿を現す。


 さらに驚いたことに、車の奥の暗闇には、何処までも続く巨大な地下トンネルがぽっかりと口を開けていた。


「ちょっと待て!! この隠しハッチとトンネルは何ですか!? 

支部庁舎の地図や緊急避難経路図に、こんな道は記載されていないはずだ!」


 常識担当センジが、胃を抑えながら全身の毛を逆立てながらツッコミを入れる。組織の規律をまるっきり無視した秘密基地じみた隠し通路に、困惑を隠せないようだ。


 すると監督は、いつの間にか取り出していた葉巻型の電子タバコをこれ見よがしに咥えて吹かすと、二やつきながら口にする。


「フン、男の職場には誰にも見せない裏口(ロマン)が必要なのさ。

かつて戦時中に使われていた古い軍用の地下壕だ。埋め立てられていたのを俺たちが掘り起こして繋ぎ直した。

支部の正規の出撃ゲートなんて通ってたら、手続きで日が暮れるからな」


「解説を奪いに拙者が来たっ! この地下壕の出口は複数あるでござるが、その内の一つが、今はもう使われていない港エリアの裏側に直結しているからして。そこから抜ければ、検問を無視して倉庫エリアに躍り出られるハズッ! 

車に誘導ルートを転送しておくでござる」


「あはは! 規律破りの秘密のルートなんてゲームみたい! 

おまけに車まで用意してくれるなんて、みんな、最高に話が早いじゃん!」


 カメラと特製ストロボをハンター専用の装備帯――――『キャンバス』に装備し、ソムリエから貰った車のキーを指先でくるくる弄びながら彼を振り返った。


「ここまでお膳立てされちゃ、もう行くしかないわよね?

警察より先に潜り込むわよ。コンテナエリアへ、いざ出発!」


 センジは額を抑え、盛大に肩を落としている。


「……はぁぁ、武器も車もハッチも非公式ですか。

――分かりました。放っておいたら、君が警察と大喧嘩を起こすか、或いは洗剤を撒き散らす不審者に返り討ちに遭うか、どちらかですからね。


――――キーを貸しなさい。せめて私が運転します」


 やけくそだと言わんばかりに、懐から少し乱暴に銀色の包装シートを取り出すと、愛用の胃薬を一錠取り出して口に放り込む。


 せっかくのやる気が削がれないように、大人しく差し出された右手にキーを渡すと、カスタムカーに乗り込んだ。私も続いて助手席に座る。


 センジが運転席でシートベルトを締め、エンジンボタンを押した。


 その時――、


 コンコン、と助手席の窓ガラスが叩かれた。

 とっさに反応して左を向くと、ソムリエが軽く腰を曲げながら立っていた。


 パワーウィンドウのボタンを押して窓を下げると、彼は告げる。


「サキ様、この車両のカスタムの内容についてですが、残念ながら時間がありませんので、今ここで口頭で説明を差し上げることができません。

ですがご安心を。もし何かしらトラブルが起きた場合は、コンソールの赤いボタンを押してください」


「ボタン?」


「はい。AIによる音声アシスタント機能が搭載されておりますので、そちらが全て案内してくれます。

それでは、『行ってらっしゃいませ』。どうぞ良い休暇を――」


 美しい一礼をして下がると同時に、センジが「……相変わらずスパイ映画の見過ぎですよ、あの男は」と呆れかえりながら、ギアシフトをドライブに入れ、アクセルに軽く足を載せた。


 次の瞬間だった――――――


 ドンッッッ!!!


「――きゃああああっ!?」


「なっ……うおあああああああああっ!?」


 シートに身体が深く沈み込むほどの、尋常じゃないGが私たちを襲う。


 彼がペダルを数ミリ踏み込んだだけだというのに、未登録のカスタムカーはタイヤから激しい白煙を上げ、トンネルの闇に向かって見事なロケットスタートを決めた。

 メーターの針が跳ね馬のように一気に振り切り、車は恐ろしい速度でどんどん加速していく。


「ちょっとセンジ!? 飛ばし過ぎ!! 

実はあんたもロマ研の男達のロマンに当てられて、内心めちゃくちゃ興奮してんじゃないの!?」


 あまりの速度に助手席のアシストグリップを必死に掴みながら、一瞬ビビったのを誤魔化すようにからかってやった。

 すると、ハンドルを必死に握りしめて青ざめているセンジさんが、ひきつった顔で絶叫し返してくる。


「違う!! 私じゃない!! 車が勝手に走り出したんだ!! ブレーキが全く効かない、完全な自動運転です!!」


「はあああ!? なにそれ、馬っ鹿じゃないのッ!?」


――――――ジャァァァァン!!! ドンドコドッコ、ダンダンダンッ!!


「今度はなに!?」


「なっ……なんだこの爆音は!?」


 暴走する車のスピーカーから、腹の底を揺らすようなドラムとベースが弾け飛んできた。昔のスパイ映画調の爆音BGMが濁流の如く車内に雪崩れ込む。

 あまりの音圧に鼓膜がガンガン叩かれるのを感じる。

 コンソールの液晶パネルには――――



【SE特製:出撃BGM ~これで君も3倍は強くなれる~】



 というふざけた文字がでかでかと点滅していた。

 ただでさえパニックなのに、ディスコ状態の車内で余計にパニックが煽られる。


「SEの奴、ひとの車に自分のこだわりを勝手に仕込みやがったわねっ!! 煩すぎてナビの声が聞こえない!!」


「チッ、あの音響オタクめ……! 

隠密潜行して先回りする作戦だって言ってるそばから、これではただの暴走族じゃないですか!!


サキ!! 自動運転の解除はどうやるんだ!? ついでにボリュームのツマミはどこです!!」


「私が知るわけないでしょ! ソムリエのAIに聞きなさいよ!!」


 トンネルの両脇を点々と飾る薄汚れた誘導灯が、線となって流れていく。

 喧しく鳴り響くBGMと共に、景気のいいスタートを強制的に切ることとなった私たち。


 完全に制御を失った車は港湾地区へ、ノンストップで爆走していった――――

ご一読ありがとうございました。


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