第30話
ドレミさんのレッスン。まず最初は基礎的なステップのマスターから。これを2日で終わらせないと行けない。
ちなみに練習時間は1日5時間、それ以上はパフォーマンス的にも良くないしゲームの世界なのに遊べないのはつまらないとのこと。ドレミさんもゲーム好きでこのゲーム買ってるからね。
「本来ならダンスは一曲を通しで覚えるものだけど、今回はフリースタイルのダンスだからね。まずは基礎をしっかりと固めた上で繋ぎ方を教えていくよ」
「はい。分かりました」
ということで早速ステップの練習。流石に外でやるとモンスターが寄ってきて危ないから今いるのは町のはずれにある訓練場。この場所は町中で唯一戦闘スキルを使っても良い場所なんだよね。
ちなみに人は全く居ない。そもそも知名度低いらしいからね……生産室に帰っていったメイカが言うにはβの人も知らない人が殆ど。だから気兼ねなく練習できる。
「そこ!足の幅が広過ぎる!あと5cm狭く!」
「着地後の隙が長い!膝を使って衝撃をちゃんと殺しなさい!」
「ターンの時の身体のブレ!勢いに流されずにちゃんと意識して身体を止める!」
ドレミさんのレッスンは中々の鬼指導。でも何処がどうダメなのかを的確に言ってくれるし、実際に見せてくれるから何がダメなのか分かりやすい。
直すべき場所が分かればそれをしっかり反映させて直していく。勿論1回で直せるわけじゃないからダメ出しを受けながら地道にね。
「ここはこうして……ここはこうで……」
頭がこんがらがってきそうだけど、1つ1つしっかりとクリアしていく。
「あら随分と飲み込みが早いわね。今まで教えてきた生徒の中で1番早い……なら少しペースアップしていこうか」
私が覚えるのが早かったからか練習のペースが更に上がった。上がったとは言うけど休憩は適度に取るし、満腹度回復もしっかりと挟む。
「そういえばドレミさんってダンスのトレーナーさんで良いんですよね?今日平日ですけどお仕事大丈夫なんですか?」
休憩中、ふと気になったから聞いてみた。よくよく考えてみると私やメイカは夏休みだから平日も遊んでいられるけど、ドレミさんはどう見ても社会人だよね?平日で丸々1週間指導って大丈夫なの?
「あー、大丈夫だよ。前は事務所に雇われてたんだけど今はフリーで、お仕事も特に入ってないからね」
「そうなんですね。メイカのお祖母ちゃんの知り合いってなるとアイドル事務所ですか」
「そうだね。ちょっと大きめの事務所だったよ」
ドレミさんは一口水を飲むと事務所名を教えてくれ、それを聞いた私は飲んでた水を吹き出しかけた。いやだってね……
「スターライトジュエルって……かなり有名な事務所ですよね?紅白とかにも出てるアイドルが所属してたような」
「そうだね。私はちょっと前までそこでアイドルたちのダンスの指導してたんだよ。紅白に出てた子たちも何人かは私の教え子なのよね」
メイカ……とんでもない人を先生として紹介してくれたね。でもそんな人がなんでフリーに?
(聞いてみたいけど……あんまり聞かない方が良さそう)
なんとなく地雷踏みそうな気がした。若干黒いオーラ感じたしね。そんなことがありつつもレッスンは続いていき1日目が終了した。
練習後は久しぶりに森に行ってこようかな……薬草とか集めてきたらメイカの助けになるだろうからね。巣には絶対突撃しない。
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sideメイカ
「あ、おかえりなさい。どうでした?モモカの方は」
「うん、あの子は良いね。あそこまで意欲的で教えがいがある子は由香里以来かな?」
「スターライトジュエルの伝説と比較されるとはモモカもやるなぁ……」
社会現象を巻き起こした伝説と呼ばれるアイドル。今はアイドルを引退してモデルや俳優として活躍されているけど、アイドル時代の栄光は今も語り続けられている。
そんな由香里さんダンス技術を磨き上げたのがドレミさん。他にも多くの有名アイドルを指導してきたドレミさんを……
「追い出しちゃってスターライトジュエル、その内落ち目になるんじゃないですか?うちのお祖母ちゃんもあそこからの仕事はもう受けないって言ってますし」
「でしょうね。私は別に自分のことを凄いとは思っていないが……今の社長は金と自分の見栄しか考えていない。今あそこのスタッフには社長のイエスマンしか居ないわね」
そう今のスターライトジュエルは昔の輝きを失ったと業界内では言われてる。先代の後を継いだ息子が金の亡者&重度の見栄っ張り。金のために所属アイドルに仕事を沢山振るくせに、衣装代とかはネチネチ文句を言って値引きしてこようとする。
ついでに自分に盾突くアイドルやスタッフは冷遇して仕事を減らしたり、酷い時は契約解除や解雇を迫ってくる。そのせいでまともなアイドルに抜けられて、ドレミさんみたいな有能社員も居なくなっちゃったんだけどね。
(まぁ、お祖母ちゃんがブチ切れたのは値引きよりは所属アイドルの質が下がったこともあるけどね……)
まともなアイドルが減っちゃって、食事管理の甘いのが増えた。作ってもそれのせいで手直し……それが何度も続いたらキレるわ。あと衣装の扱い雑で破損の手直しで私が手伝いに呼ばれたくらいだし。本職の技術を見ることができて満足ではあったけどね。
「まぁ、今はフリーのトレーナーで伸び伸びとさせてもらってるわ。抜けた子たちも新しい事務所で頑張ってるみたいだし……前の職場はどうでもいいわ」
「その割には顔が辻斬りみたいになってますよ。刀鍛冶の血が出ちゃってます……子どもが見たら泣きますよ?」
「あら、それはごめんなさいね」
ドレミさん。実家が刀鍛冶で更にはドレミさん本人が剣道の有段者……そのせいか偶に怖い笑顔出てくるんだよね。才能を『磨く』じゃなくて『研ぐ』って言いがちだし。
「そういえばモモカちゃんってダンス未経験なのよね?」
「そうですよ。幼稚園の頃から一緒ですけどダンスは経験無しです。それがどうかしました?」
「いや、その割には飲み込みが早いと思って。今日のレッスン、短期間コースとはいえ経験者の子でも厳しいレッスンだったのよね」
「あー、それは単にモモカの特技ですね。あの子、『見た技術を取り込む』のが得意なので」
正確には過程を理解できるものを覚えるだと思うけどね。モモカ自身がそれに全く気づいてる様子無いけども……
モモカは『何が』『どうして』『こうなる』の3ステップを理解できたものへの学習能力が凄い。特に学校の授業とか数学や英語は公式ばっかりだから成績が良いし……芸術とかの創作性が必要なものや球技に関してはだいぶポンコツ入るけど。
(スポーツはなんでか球技だけ下手なんだよね……)
クラスメイト全員で頭に?が浮かんでるからね。他のスポーツは女子で1、2位を争うぐらいなのに……ダンスは大丈夫そうで良かった。
「てかモモカちゃん。アイドルとしては良い逸材ね。容姿も可愛らしいしダンスの飲み込みも早い。あの様子なら歌も行けるだろうし……事務所がまともな頃だったら絶対スカウトしてたわね……」
「あー、多分スカウトしても断りますよ?モモカ、あれモテたいが行動原理の馬鹿ですから」
アイドルとか恋愛禁止だから嫌って言いそう。そこは一貫してるからなぁ……
「モテたいって……え、あの子容姿整ってて性格も良いのにモテてないの?」
「モテはしてますよ?本人が鈍感過ぎて気づいてないのがありますけど」
まぁ、そこは男子がヘタレなのもあるけどね。あまりにもモモカが好物件すぎて怖気付いてアタックできてない。多少のアピールをしてもモモカが恋愛経験値カス過ぎて気づかない。そもそもあの子、『彼氏が欲しい』って思ってなさそうなんだよなぁ……
「あと周りの女子のガードが硬いのもありますね。偶に自分に自信があるナルシストとかが告白しようと近づいては来ますけど、モモカに近づく前にシャットアウトしてますし」
てか他の女子に愛され過ぎてて守りが硬過ぎるのもある。あの子、モテるために女子力の塊みたいなことになってるから女子受けも良いんだよ。
料理、裁縫、美容……どれも勉強や動画を見たりして身につけてる。女子にとっては困ったときの桃香様だからね。
「まぁ、モモカの恋愛はどうでもいいです。明日のレッスンは何やるんですか?」
「今日の練習と変わらないわね。とりあえず基本は明日で固めるつもり……3日目からは応用力の練習ね。あとはついでに歌とかも覚えてほしいところだけど」
「歌。あんまり戦闘に関与しなさそうなものはちょっと……いや、そういえばモモカ《美声》ってスキルあったな」
というか忘れてたけど歌と言えばアレがあったか……ちゃんと使うのに面倒な条件があるせいで、このゲームでも数少ない産廃スキルと呼ばれるあれが。
(アレの条件の1つはモモカのあの職業スキルでなんとかなる。もう1つはモモカの努力次第……肝心のもう1つの方は)
「このゲーム、確か綺羅羅さんもやってるんでしたっけ?」
「ん?そうだよ。作詞作曲のインスピレーションが欲しいって……今は仕事でログインできてないみたいだけど」
成程……綺羅羅さんの力を借りられればあのスキルもどうにかなるかな?とりあえずちょっと情報調べてみるか。アレが使えればモモカの戦闘力は格段に上がるはず。
(やれやれ……私のサポートをしてもらうつもりが。こっちがマネージャーみたくなってきそうだね)
元々そんな関係だけどさ。私はそう思いながらドレミさんに頼まれていたものを渡し、1人だけの生産室で掲示板を開き情報収集を始めた。




