第13話
最初の町から西。山と森の間を抜けて辿りついたのは花の町フローラ。町のあちこちに花壇が置かれ、建物も壁を朝顔のような植物が伸びて花を咲かせている。
「ふ、馬車で削られたメンタルがジワジワ回復していくよ……」
「あの馬車。安くて早いんでβの時はよく使ってたんだけど……あの時と違って時間制限無いし、普通のやつ使おうか」
そうして欲しい。あれは拷問も良いところ。何度も乗ったら慣れるだろうけど、その前にメンタルが死んでると思う。
「そういえばこの町にはなんで来たの?理由まだ聞いてなかったから気になってたんだけど」
「ここの目的はダンジョンの素材だね。ここにある花の迷宮は染料に使える素材が手に入る。丁度最初のイベントがダンジョンだから丁度良いし」
あと花の迷宮は植物系のモンスターが出てくる場所。山の相手に比べて魔法への耐性が低いのに経験値は美味しい……山に挑む前の良い狩場なんだとか。
「もしかしてこっち先に行くべき?」
「そこは人による。まぁ、モモカはこっち先の方が良いかもね。本職の魔法使いに比べて魔法の威力弱いし」
ついでにここの迷宮はパーティー毎に内部が作られるため。他のプレイヤーと遭遇することは無い……ダンジョンは狭くて暗いためPKの狩場になりやすいんだって。
「PK……確かプレイヤーがプレイヤーを倒すやつだっけ?」
「そう。このゲームはPK有りだからね。まぁ、やると犯罪者認定されちゃうからする人居ないけど」
犯罪者認定されると町中での活動が基本できなくなる。そして懸賞金がかけられて逆に獲物として狙われるようになる……βの時にはPKを狩る賞金稼ぎ的なプレイヤーも居たんだとか。
「PKってもう居るの?」
「んー……多分?正直始めてすぐにPKやり始める人は居ないと思う。装備とかある程度揃って無いと弱いし……犯罪者プレイヤーはブラックマーケットっていう裏市場じゃないと買い物できないんだけど、ブラックマーケットは値段高いからね」
そんなわけで現状PKをする人はあんまり居ないんだとか。とはいえする人は0とは言えないから注意しなきゃだね。
ちなみにPKする旨味は殆ど無い。倒しても相手が持ってたお金、装備、アイテムは奪えない。対人戦も決闘ってシステムがあるから、やる理由としては殆ど自己満足か修羅道を突き進みたいって感じ。
「前者は兎も角、後者は鬼強いから……出会ったら死を覚悟した方がいいね」
「笑いながらそんなこと言わないでよ」
本当に気をつけよ。私は笑うメイカを見ながら小さく溜め息を吐いた。
▷▷▷
「これが花の迷宮……のポータルね」
私は目の前の花の生えた生垣のアーチを見上げる。見ただけではダンジョンの入り口だとは思わないもの……そのアーチにはシャボン玉のような膜がユラユラと揺らめいていた。あれに触れればダンジョンに行けるって話。
「それじゃあ早速」
私はアーチに近づいて膜に触れた。触れた途端、トプンっと飲み込まれるような感覚を味わうと周囲を花の咲いた生垣に覆われた場所に立っていた。生垣は高さが3mはありそうな程高い……そして正面には進んでくださいと言わんばかりの通路が。
「生垣でできた迷路って感じかな」
オシャレな感じのダンジョンを早速歩き始める。通路の幅は3mくらいで丁度良い感じ。長い武器持ってる人は苦労しそう。
「ギ、ギギギ……」
通路を進んでいると蔓草が捻り合ってできた人みたいなモンスターが出てきた。頭には真っ赤なボタンのような花が咲いている。
「えーと、確かバインヒューマってモンスターだっけ?」
ちなみにこいつの素材も集める対象。頭の花が3色あってそれが染料になるらしい。
「さーて、新しいスキルの力を試そう。【アシッドショット】!」
私はユラユラと近づいてくるバインヒューマに向けて酸性の液体を放つ。液体を浴びたバインヒューマからジュワァァァ……と音と共に白い煙が上がっていく。
「ギ、ギ、ギ……」
バインヒューマは苦しむように身体を歪に動かし始める。効いてるね……持続ダメージが良い感じ。
「《カリスマ》を《八方美人》にして良かったね」
少しでも上げたCAMがダメージを増やしてくれる。そうしているうちにHPを削り切ったのかバインヒューマは萎れるように倒れて消えた。これで赤い花ゲット。
(それにしても思ってたより持続ダメージ高いような。もしかして持続ダメージに《恋の一撃》が発動してる?)
だとしたら強いような。《恋の一撃》の弱さは一撃に対してほんの少しのダメージしか入らないこと。持続ダメージ1つ1つにそれが適用されるならチリ積のようにダメージが加速する。
「これは少し検証かな?もっと敵に使ってみよう」
私は迷路を進みながら色々試していく。特に蹴り……山に行った時に忘れてたからね。早めに蹴ることに慣れておかないと。
「こんな感じで良いのかな?ゲシゲシ」
私は強酸で苦しんでいるバインヒューマを小突くように蹴り続ける。蹴るコツがさっぱりだからしょぼい蹴りしかできない……空手とかその辺の動画とか見て勉強した方がいいのかな?身体そこそこ硬いから見たところで活かせるか分からないけど。
「ジュギギ……」
「お、なんか新しいやつが出てきた」
現れたのはスプラウトトレントが成長したようなモンスター。頭部の葉っぱがワサワサ生えてるところにはオレンジみたいな果実が実っていた。これはフルーツトレントだったかな?これも3種類くらいレパートリーがあるんだっけ?
「ジュギギ……!」
フルーツトレントはモシャリと頭のフルーツをもぎると、野球のピッチャーのように振りかぶって投げつけてきた。ただ速度遅くて余裕あるで回避できた。
「【アシッドスプラッシュ】!」
攻撃を避けた後、私も攻撃を放つ。【アシッドスプラッシュ】並びに【ウォータースプラッシュ】の発動時の動きは右手で魔法陣を握りしめ、それを撒くように横に振る。不必要な動きだけどイメージはしやすい。
「ジュギギ……!」
強酸性の液体を浴びたフルーツトレントが不快そうに身体を揺らした。頭のフルーツがポロポロと落ち、それをフルーツトレントが踏んでパン!と弾けている。あれもダメージになってそうだね。
「【アシッドショット】」
私はトドメの魔法を撃ち込んでフルーツトレントを倒した。フルーツトレントからはトレントの果実ってアイテムが3個入手。どうもこれ食べられるみたい……破裂しない。
「はむ……ん、美味し」
試しに1個皮をむいて食べてみると瑞々しく甘酸っぱい凄く美味しいオレンジだった。これストックしておきたい。それぐらい美味しい。
「フルーツトレントは見つけたら狩ろ」
残りのオレンジを食べつつ、私はフルーツトレントを探していった。他の果物も気になるね。




