3-1 釣った魚には興味がないらしい。
ーーー何故、私はクレア様のもとで働いているのだろう。
不慣れな屋敷を掃除しながら、私はぼんやりと考えていた。
そう、つい一ヶ月前までは、私は慣れた屋敷であるオーラル家にて働いていたのだ。
それが、クレア様の権力(探偵としての報酬)により、私は反論できないまま、クレア様の下で働くこととなった。
『ふん、こないだ忠告しておいただろう。』
死んでいる目で屋敷に着いた私を、クレア様はわざわざ見に来て、鼻で笑っていた。
……だめだ、思い出すだけで苛々してしまう。
なにより、一番苛々してしまうのは、ある決まりについてである。
私は、どういう訳か、クレア様専属のメイドとなったのである。
一般的に、主人専属のメイドなど存在しない。
するとしても、それは主人のお気に入りという意味となる。
あまり、良い意味ではない。
しかし、クレア様は裏の顔である探偵として情報の漏洩が、とか最もらしい理由をつけ、私を専属とした。解せぬ。
勿論、私に拒否権はない。
クレア様のお部屋の掃除や、午後三時のティータイムは、専ら私の役割となってしまった。
是非別のメイドにお願いしたかったのだが、顔はまぁまぁ整っているのに対し、性格がだいぶひねくれてらっしゃることを屋敷のメイド達はしっかりと理解しているらしく、悉くそっけなく断られてしまった。
全くもって人気がない。妻がいらっしゃるヘンリー様でさえも、人気があったというのに。
そのような経緯があり、部屋の掃除とティータイムの準備を自分でやるしかない日々を送っている。
ーーー何故、こうなってしまったのか。
定期的にため息をつきそうになるが、堪える。
ティータイムのための紅茶とカップ、菓子を用意した私は、クレア様への部屋へお邪魔する。
中には、クレア一人のみである。
最初は一人でいることに少し驚きがあった。
オーラル家では、執事のローランドがヘンリー様のそばにいることが多かった為、当主一人のみという事が新鮮であった。
だが、クレア様はよく一人でいることを好んでいるようで、使用人達も用事がない限りは部屋へ行かない。
使用人達から好かれていないというよりかは、不必要に近付かないという接し方である。
「テーブルに置いたら、もう出てっていい。片付けは五時に来てくれ。」
クレア様は私を見るなり、そう言って、またすぐに手元の書類に集中する。
全くもって、無愛想である。
……専属のメイドと言うと、聞こえは甘く感じるかもしれないが、此処の専属メイドに関しては、甘さの欠片もない。あるのは、互いの無関心ぐらいだ。
そう。
クレア様は私のことを好きだと言ってきたが、私が屋敷に来てからというもの、このような扱いである。
本当に私が好きだと言った人か?
やはり、あの時、頭がおかしくなっていたのではないだろうか?
私としては、無理矢理愛人にされずに済んでいるし、屋敷に来てからアプローチすらないので働きやすい。
しかし、わざわざ私を報酬としてオーラル家から貰ったくせに、無関心なのは、それはそれで釈然としない。
それなら、私をとっととオーラル家に戻してくれないだろうか。
実際に、先日それとなく戻してもらえるように、慎重に頼んでみたが「却下。」の一言だけで済まされた。理解不能。
それから、私は不自然ではないレベルで、なるべく冷たく接するようにしている。
クレア様からの言葉に、小さく「かしこまりました」とだけ言って、さっさとティーカップと紅茶と菓子をテーブルの上に置く。
そして、さっさと部屋を出た。
あまりにもクレア様と接する機会が限られており、さらに話すらもろくにしないため、私はすっかり油断してしまった。
次の日、平然としたクレア様から私はとんでもない所へと連れて行かれたのである。




