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夢のような  作者: pipi
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2-8 何故こうなったのか。





「説明をして頂きたいと思います。」


クレア様のお部屋にて、私は鬼気迫る覚悟を持っていた。


ヘンリー様とローランドから聞いた衝撃的な話。

私とクレア様はお互いに好意を持っている?

結婚を前提にお付き合い?


クレア様はどこかで頭を殴られたのだろうか?

何故、このような不可解な事を言ったのか検討がつかない。


ペンダントの件では申し訳なかったが、この件に関しては別である。


これ以上、変な誤解が広まらないためにも、私は覚悟を持って、わざわざクレア様の家にまで押し掛けたのだ。




「……説明も何も、そのままの意味だ。私と結婚を前提に付き合うということだ。」


ここまでの覚悟を持って来たにも関わらず、クレア様は涼しい顔をして、さらりと言った。



「何故、お付き合いなど?無事に解決しましたから、もはや私が密偵をする必要は無くなりました。ペンダントの件も、約束通りに致しました。なんのために、お付き合いなど言い出したのか分かりかねます。」


「ふむ。そうか。どうやら、君はそちらの方面では鈍いようだ。ーーーはっきり言う。」


「ええ。」


「私はアイが好きだ。好きだから、付き合ってほしい。結婚をしてほしい。」



私は頭がふらりとした。

かろうじて意識を保ち、整理をする。

互いに好意を持っていると嘘をついたのは、クレア様が私を好き?


そんな訳がない。

ペンダントから密偵までの一連の出来事において、どこに私を好きになる要素があったというのだ。



「信じられません。本当の理由を仰って下さい。」


「嘘はついてない。」


「真顔で好きだと言われても、真実味に欠けます。」


「感情の起伏が少ないものでな。信じてもらえるなら、泣くことも笑うこともできる。」


「失礼致しました、結構です。」


「…………。」



私とクレア様は自然とお互いを見合う。


だが、決して甘いものではない。

お互いに腹の内を探るような、もはや睨み合いに近い、静かな闘いである。


クレア様もまた真顔で見てくるものだから、そこが怪しい。

実はまた何かを私にして貰いたい為に、こんな罠を仕掛けたのではないだろうか。



「何かを依頼したいのであれば、睡眠薬や脅しを行うことを止めて下さい。内容にもよりますが、正直に話して下されば、出来ることであればやりますから。」


「…………はぁ。」


そういうと、クレア様はため息をついた。

正直にちゃんと言ってくれれば、また密偵をやっても良いのだと遠回しに伝えたのにため息をつかれるとは。心外である。



「信じてもらえてないようだが、これは罠ではない。」


「と申しますと?」


「先程も伝えたが、君が好きだから言っている。それだけだ。」


「………………。」


「こちらも君を騙した前歴があるから強く言えないが、全く信用されてないようだ。」



ーーー当たり前である。

睡眠薬を盛られ、脅迫を受け、あまつさえ密偵をやらされたのだ。

私をそうさせた人物を信用などしない。



「もういい。信用されていないのは分かった。ヘンリー様には付き合っていないと伝えておくから、もう出て行ってくれ。」


「必ず。必ず、ヘンリー様にお伝え下さい。」



私が念を押すと、クレア様は片方だけ眉を上げた。

返事はしてくれなかったが、伝えてくれるだろう。


部屋から出て行こうとした時に、後ろからクレア様がこう言った。



「ーーー言っておくが、私はしつこいからな。」






















クレア様と話し合いを終えた私は、ヘンリー様とローランドとレイティ奥様に、クレア様とは付き合ってもいないし好意を持っていないことを、しっかりと伝えた。


あらあら、とレイティ奥様が困ったように言い、ヘンリー様とローランドは何か言いたげな様子であったが、気にしないことにした。


幸いなことに、それ以外の者には広がっていなかったため、私はほっとした。


最後のあの一言が少し不穏ではあったが、もう忘れることにして、いつも通りにオーラル伯爵家で働いていこう。



ーーーそう思っていた筈だったのだ。




これからの平穏無事なメイド人生をまた歩んでいこうと思った一週間後のことである。


私はヘンリー様から呼び出された。


その時は、何も不審に思わなかった。


そう。ヘンリー様の困ったような、気まずそうな表情を目にした瞬間に、例の嫌な予感が始まったのである。




「その…アイには申し訳ないんだけどね…。」


「はい。」


「えーと……、」


ヘンリー様は気まずそうにして、ローランドに顔を向けた。

それに気がついたローランドが言ってください、という顔をする。



「あー、今日限りでオーラル伯爵家は辞めてもらって、アイにはクレア様のもとで働いてもらうことになったんだ。」



ーーーは?



「ごめん!クレア様が今回の報酬に、君をメイドとして雇いたいそうで…。」



ーーーえ?



「これは、出世ですよ。アイ。クレア様は有力な商人ですから。そんな家で働けるのはメイドとしても箔がつく、有り難い話です。」

「そうそう!うちで働くよりも、給料も良いだろうし、メイドとしては良い異動だよ。」



ーーーへ?





ヘンリー様とローランドから色々と言われるが、何一つ心に響かない。何一つ魅力的に思えない。


頭に浮かぶのは、あの言葉。


『ーーー言っておくが、私はしつこいからな。』




アイツ………やりやがったな………


この世界にきて、私は初めて人を恨んだ。








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