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THE NEWWORLD  作者: cyan
33/33

33.装備選びは楽しいよね?

異世界を旅するのに必要なことは何か、考えを回らせる。

まず最初に思うのが魔物との戦闘だ。

主武器を刀にするがヴェルフィアードは使わない。使えないともいう。鬼人族で誰かに見られるリスクは避けたい。

それに、せっかく魔法が使えるのだから、魔法を主軸に戦闘方法を組み立てたいと思う。

それなら、森の中で魔法の練習をしながら体慣らしをしつつ、ついでに魔物の素材を収集して金策もできそうだ。

人間が居るところに行くのは最低限の戦闘がスムーズにできるようになってからにしよう。いきなり人と接するのは怖い。


それでは装備をどうするかだ。

アイテムボックスで装備一覧を呼び出して眺めること暫し、気になる装備を取り出していく。湖の時には自動で装備された武具も装備しようと思わなければ手に持つことができた。

倉庫の肥やしとなっていた魔法職系のローブを3点出してみる。今までに使用したことがないからか、いまいちしっくりこないが、とりあえず魔法職系の装備を他にも出してみることにした。

靴はショートブーツ型の2点、杖も2点、魔法書を1冊。なぜかゲームでは魔法書も鈍器扱いだった。

それから、魔法ステータス補強用のアクセサリーも取り出す。ネックレス、リング、ブローチ、ピアス、ブレスレットが1点ずつ。



うーん…

何かが違う気がする



取り出した装備を身に付けて自分が戦闘するイメージがまったくできないでいると、控えめな、でもそわそわしたグランに呼びかけられる。例のごとく自分の世界に行ってしまていたようだ。


「ああ、ごめん。何?」


「ご考慮中に申し訳ございません、あの…」


歯切れの悪いグランの視線は、私とお店屋さんよろしく広げられた物の一つを行ったり来たりしている。


「ああ、見たいならいいよ」


そう言ってグランに手渡すと、ばつの悪そうな嬉しそうな顔をして両手で恭しく受けとり、表紙をひと撫でした。

そう、グランが興味を示したのは魔法書だった。

小さく弧を画く口元とキラキラさせた瞳でパラリパラリと魔法書を捲るグランの指先がかっこ可愛い。


ーこほんっ


アリアの咳払いが聞こえて、グランがはっと顔をあげる。


「グラン、主様に失礼ですわよ」


「すまぬ…。主、申し訳ございません」


直ぐに下げられた頭のせいで隠れたグランの顔。褐色の肌でもはっきと判る赤みが頬に射したのを見逃さなかった。


「読んでていいよ」


「いえ、後ほど…、主がお休みの時に読ませていただきます」


遠慮しなくてもよいのに、と思ったがグランの意向を汲んでおくことにした。魔法書はグランにあげると言うと、嬉しそうに袖口に収納していた。

嵩張ることなく消えた魔法書で気がついたが、精霊たちにあげた物はいったいどこに収納しているのだろう。物を渡したことがあるのはグランとアリアだけだが、手に持っているわけでなし、荷袋を持ってるわけでもない。

不思議に思って訊ねると、亜空間に収納できるのだと言われた。



なんと!

そんなことができるの!?



私が興味を持ったことに気づいたアリアが宝石を腰帯の辺りから取り出して見せてくれる。私があげた宝石を大事そうに両手で掲げている。うっとりとした瞳が可愛い。

精霊の亜空間収納に感心していると、別に袖口や腰帯は関係なく、任意の場所から出し入れができるとグランが説明してくれた。それこそ目の前の空間から出し入れもできて、個人の趣味で取り出す方法を決めているそうだ。


「ファングとウラハの剣も?」


「ボクたちのは魔力で作ってるから亜空間とは違うのー」


ウラハが言いながら、両手に投げナイフを3本ずつ出現させる。投げた後いちいち拾いに行かなくても魔力を霧散させるだけでよいのだと得意気だった。胸を反らしてえっへん状態は可愛い。

服も魔力構成らしく、切られても魔力で修復できるとわざと服を破って直して見せてくれたのはファングだ。自慢気に一生懸命アピールしてきたけど、破らなくても良かったと思う。腹筋ゴチソウサマデス。



待てよ…

武具を装備できるんじゃない?



今まで精霊の装備品など考えもしなかったが、実体化したのなら装備することもできるかもしれない。ついでに装備品で能力上昇のバフ効果も期待できるのではないだろうか。


それぞれに何を持たせようかとアイテムボックス内の装備品を一覧表示にして眺めていく。使用したことがない物が多く、攻撃力、防御力、付加効果をいちいち確認するが、コレクションしていたありとあらゆる装備品の数にうーんと唸る。


「あの…、主様?」


「ん?」


誰にどれを渡そうかと悩んでいたのを中断して顔をあげれば、不思議そうな表情の4人が目に入った。



そっか!

本人たちに選ばせればいいんだ!



ぽむっと手を打ち、とても良い解決法が見つかったと嬉しくなる。考えるのが面倒くさくなったわけではない。何も私が決めなくても意思があるのだから尊重すべしである。

そうと決まれば見てもらわなければ始まらない、とばかりに剣や防具類を取り出していく。どんどん山積みされていく装備品に「は?」とか「え?」とか「おおっ!」、「わぁっ!」と間の手が入る。



うんうん

いっぱいあると楽しくなってくるよね!



「好きなの選んで?」


アイテムボックスから出しきり両手を広げて、さぁどうぞのポーズ。丸投げじゃない、はずだ。


「「「「・・・・・・」」」」


それぞれが手にとって、あれでもないこれでもない、と選んでくれると思っていたが、全員が無言かつ困惑顔で制止している。

少ししてお互いに顔を見合わせる4人に、私も何故だろうと首を傾げてしまう。

どうやら代表してグランが話すようで、居住まいを正して口を開いた。


「あー、その、主の装備を我らが選ぶのでございますか?」


「ん? 違うよ? グランたちの装備を自分たちで選んでほしいんだけど?」


「我らの、ですか?」


何故に自分たちの装備なのか、という疑問が顔にありありと出ていた。さっき理由を話したはずなのに聞いてなかったのだろうか。しっかり者のグランにしては珍しいこともあるもんだと思った。もう一度どこから話したほうがよいか天井を見上げ、ふと気づく。



あれ? 私言ったよね?

言わなかったっけ?



ぽくぽくぽくちーん。そんな脳内音が響いた。



言ってないわ!

うん、脳内会議しただけで話してないわ!



これは私の説明不足だったと見上げていた天井とさよならした。

装備をできるかもしれないから選んで試してほしいのだと言おうとして、くわっと目を見開いたグランが声を張った。


「左様でございましたか!」



え? なにが?



ひとり納得したようで、うんうん頷き首を横に振るグランが器用だ。私をはじめ、この場にいる誰もグランの思考に追いついていないのは明らかだった。


「なんだよ!? グラン意味わかんねぇ!」


考えるよりも先に言葉が口を突いてでたのはファングだ。代弁者万歳の気持ちになる。今この瞬間、なぜかグラン相手に自分で考えずに答えを訊くのは勇気がいるのだ。


「主の深慮が解らぬとは愚かな…。多少は己で考えることも致せ」


ファングに向けられたグランの冷ややかな視線と低音ボイスが怖い。

私自身が何も深く考えていないことを、いったいどう解釈したのか解らない。私にも是非教えていただきたい。

アリアとウラハを窺うと解ってるのか解っていないのか判然としない顔でいる。きっと私と同じで解っていない、と思いたい。私もそっと視線を逸らすことしかできなかった。

そんな中で「ぐぬぬっ」と変な呻きをもらしたファングはそれでも勇者だった。


「わ、わかんねぇから訊いてんの!」


「はぁ…、擬態であろう」


ため息混じりで吐き出された『擬態』に反応したのは2人だった。然もありなん、と首肯している。当然、私とファングではない2人だ。



いやいや、当たり前って顔してるけど違うよね!?

アリアもウラハも今解ったんだよね!?

私は解っていないけどさ…



「説明……」


「してください」とも言い出せずに単語だけで言葉を切ってしまう私に、グランが「御意」と返してくる。

これでは、まるでファングに「説明してやってくれ」と言わんばかりだ。空気を読んだ対応なんだ、と自分に言い訳して悲しくなった。


「我らはこれより神殿及びヴェルフィアード殿の森を壮途につく。すでに一部の魔物と精霊には遭遇しているが、我らのような精霊の存在は稀有なものであることは解るな?」


一旦、グランが言葉を区切り、ファングが頷いているのを確かめてから続ける。私も一緒になって頷いていた。


「まず、我らが主と伴に行かぬという選択肢はない。さすれば、人型の精霊がおらぬこの地で精霊であることを伏す必要がある。ならば、些か不本意ではあるが人族に擬態しておくが良策、主はそう仰せになられておられる」


「「・・・・・・」」


続きを待つファングと私であったが、まるで全部説明したと言わんばかりに話が途切れた。


「グランー、たぶん解ってないよー?」


ウラハの言葉にファングの耳と尻尾がへにょんと垂れた。私の幻覚なのだけど、確かに見えた。

すがるようなファングの瞳が私を捕らえるが、私も解っていないから補足のしようがない。見つめられても困るのだ。なので、そのまま目線をグランにバトンタッチする。

目線のバトンを受け取ったグランが大きくため息をついても身動ぎしないよう頑張って耐えた。


「我ら精霊は魔力そのものであろう? 見た目の修復も、武具の創造も全て魔力で行っているが、それは人族ではありえないことだ。いくら人型をしておっても人族でないと露呈してしまうのは灼然。主と伴に人族に紛れ込み、主に仇なすモノを討つためには人族が身に付けるような武具で擬態が枢要ということだ」



おおう…

ちょっと不穏な単語も聞こえたけど

そこまで考えてなかったよ?



擬態、カモフラージュ、周囲の風景に溶け込むことにより、敵の視を欺き、対象を発見されないようにする方法などと意味を脳内で咀嚼する。

言われてみればその通りかと思いもしたが、武具を装備しただけで擬態になるのかとも頭に過る。

だがしかし、外に出るにあたって手ぶらでは違和感がある。攻撃されても直ぐに修復できる防具も、武器を魔力で出したり消したりも一般的ではないはず。

そう考えれば、対策できることは意味の無さそうなことでもしておいて損はないとグランは言っているのだろう。


「流石だ…」


思わず称賛の声がでた。

グランは謙虚にも私に示唆されるまで気づかなかったと言うが、そもそも私には考えついていないことだった、とは今さら言える雰囲気ではないから言わないけれど。

ちなみに、グランの小難しい言葉に苦い物を食べた顔をしてたファングには噛み砕いた表現でウラハが解説していた。


ここまでくれば4人が装備を選ぶのは早かった。

装備によるバフ、デバフ効果など考えたこともないせいだろう、選ぶ基準は見た目のみだったからだ。

それでも各々に合った装備を選んでいたと思う。少しだけ気になるところはあるけれど、あえて何も言わないことも必要なのだ。


そして、私の装備はというと、やっぱりこれが悩むところだったが、いくら魔法をメインの戦闘にしても近接戦闘で動きにくいローブは選択し難かった。

グランの擬態発言を参考に、剣士の格好した魔法使いは敵を欺くのに良いのではないかと思いついて、結局のところ常の蜘蛛の糸(アクラニ)の服、竜皮の胸当て、竜の籠手、風靴に落ち着いた。

森で視た男たちの装備と比べても違和感はないはずだ。


しかし、武器には迷ってしまう。『黒竜の神魂』は通常使用にできないし、他の剣では振るった場合の魔力に対する耐久度が心配だ。

悩んでいると、ウラハが選んだ『マティス・エスパダ・ロペラ』を全員から推された。

刺突用の片手剣、レイピアの一種で装飾華美なネタ武器だ。ゲーム中では武器破壊攻撃されても絶対に壊れず、耐久度も存在しない不壊の代わりに、攻撃ダメージが1しか与えられないという別名『非力な王子様』と呼ばれている。


たしかに『マティス・エスパダ・ロペラ』なら神格での魔力が通っても壊れることはないだろう。きっと私の魔力で武器が壊れないようにっていう彼らの配慮だと思いたい。

剣のアイテム情報を知らないとしても、これは侮れない選択だと思う。とことん冒険者な装備に剣だけは異様に浮いていたとしても。

柄や鞘、剣身にまで施された恥ずかしい装飾の剣を佩く姿にキラキラした瞳で似合うと言われ、遠い目をしてしまったのはご愛敬というものだ。

お読みいただき、ありがとうございます。

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