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私と彼の新しい生活  作者: 竹野きひめ
第八話 俺と彼女の過去
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8-1 私と友達と女子会

俺と彼女の過去




「あ、涼」


と手を振られその面々を見て走り寄る。

今日は一月四日。

礼は仕事に行って昼前の都内の大きな駅で一年ぶりにプチ同窓会、女子会の待ち合わせをしていた。

礼のマンションも大きな駅の隣の駅に存在するがここはもう少し毛色が違う。

あっちが大人の街ならばこっちは若者の街と言ったところだ。


着いたのは私が一番最後だったようでごめんと謝るとまだ時間になってないからと言われる。

集まったのは沙織と彩音と有希と私。

四人は高校の時からの同級生だ。


「聞いたわよ、涼。彼氏出来たんだって?」


場所を変え駅前の百貨店の上のフロア。

少し高めの値段設定の店に予約をしておいてくれたのは有希だった。

腰をおろしおしぼりで手を拭く前にそう聞いたのは彩音だった。

名は体を表すとはよく言ったもので彼女の口は私よりずっと早く色々な言葉を言うんだ。


「……え、えっと」


おしぼりを取ったまま右手に持って思わず体が固まった。

彩音の隣に座る沙織がごめんと形だけ拝んでくる。

情報早いなぁと瞬きを繰り返すと右隣からのんびりした口調。


「まぁまぁ、彩音ちゃん、とりあえずそういうのはお料理頼んでからにしましょうよ」


彩音が動ならこれは静だ。

メニューを開きながら有希が言う。

彼女は本当に昔からゆっくりと穏やかだ。

その穏やかさは礼とは全く違っている。

手を拭きそれに同調するように彼女が持つランチメニューと書かれたラミネートされたそれを見る。

ふわんと柔軟剤の香りが有希からした。


「しょ、しょうがないわね。私Aセットで、いい」


彩音がそう言い口ぐちにメニューを決めていくが有希だけはその特有のペースでBも良いわねなんて言ってる。

店員が通りかかりオーダーを取ってくれてようやく私もAにするわと言った。

店員が行ってしまって手を拭きながら彩音と有希の視線に気づく。

そうですよね、と思い小さなその白い布を三回畳んでテーブルへ戻した。


「彼氏が出来たの」


小さく俯いたまま伝えればおぉっと声が上がった。

その声につられて顔を上げると有希までも息を飲んでいる。

沙織だけが本当に申し訳なさそうにこちらを見ていた。


「どんな人なのよ。沙織もそれは頑として教えてくれなかったわ」


さあさあ言いなさい白状しちゃいなさいというその言葉にううむと小さく唸る。

さてどこまで話そうか。





昼時を大きく過ぎていつもの通り伸びた蕎麦と冷えた丼物を俺は机で、祐樹は応接セットで食べている。

彼は何も聞かない。

逆にそれが何と言うか心をざわつかせて海老天を食べ終わった所で顔を上げた。


「涼はな」


と言えば同じく天丼の海老を半分くらい食べたまま彼が顔を上げた。

ごくりと海老を飲み込んでどうしたと返してくる。


「たった数日で俺を楽にしてくれたんだよ、それで昨日みたいな事になった」


口を開いたものの結局曖昧にしか言えない。

彼女をレイプした事も過去の嫌なヘドロを吐きだした事も、祐樹にすら伝えられない。

それでも祐樹は目を細めて海老を丼へと戻した。


「そうか。別に無理に話さなくてもいいぞ」


そう言って笑う彼にそれ以上の他意は無くうーんと一つ唸ってから蕎麦をやっつける。

それよりと彼が声を掛けてきた。


「昨日メール届いたか?」


そう言われ頷く。

風呂に入った後に四桁の暗証番号を聞きネットの設定を終えればメールが何件か届き、その中のひとつに彼のメールがあった。

やはり慣れない機種に時間がかかりようやく開く頃には涼はもう夢の中だった。

件名も本文も無くたった一枚の写真が添付されただけのそれを俺は保存して待ち受けにした。

沙織さんと高松さんの毒牙にかかり化粧品で黒い髭を描かれたというのに全く起きずに寝ているその写真。

見る度に吹き出さずには居られないがそれでも無機質な画面が暖かく感じられる。


「届いたよ。待ち受けにしたよ」


そう告白すると彼はごふっと飯粒を吐いた。

おいおい、汚くするなよ。

それからごほごほと咳き込んでペットボトルのお茶に手を伸ばす。

半分くらい一気飲みをしてからどんとそれを置いた。


「何だよ、惚気じゃねーか」


そう言われ肩を竦めて食べ終わった丼に蓋をする。

どんな機種買ったんだと聞かれてそれを差し出せば彼が立ち上がり受け取りロック画面のまま涼の顔をみてまた吹いた。






「私の彼氏になってくれた方はね、住む世界が違う人なの」


運ばれてきた料理、大きな弁当箱形式のまるで花見弁当のようなそれを前に告げる。

四つに区切られたそこにはお造りと揚げ物、煮物とご飯が入っている。

煮物に添えられた小さな栗きんとんがお正月を彷彿とさせる。


「住む世界が違う?」


と聞き返してきたのは有希だった。

お澄ましの蓋を開けそれをその横に置きながら怪訝そうな顔をしている。

それに倣い他の三人も蓋を開ける。


「うん。そう。彼は……そうだな、彼と結婚したら玉の輿だと確実に言われる立場にいる人なの」


何と言うかまだ佐久間の名を二人に言うのは憚られた。

沙織は直接会っているから良いとして当人が居ない場でとても名前を出せない。

どんな噂を立てられるか分からない。

大き目の厚い箸袋に入ったプラスチックの箸を取り出しちいさくいただきますを言ってから揚げ物を掴む。


「玉の輿、ねぇ」


彩音が漏らすように呟いた。

沙織がそうだわと私の言葉に相槌を打つ。


「住む世界が違い過ぎていて毎日が驚きの連続なの」


綺麗に盛られたそこから取った海老は少し冷めていた。

それでも抹茶塩を付けて食べれば美味しい。

銘々に好きな物から食べ始める。


「それはどれくらい違うものなの?月とすっぽん?」


そう聞いたのは有希だった。

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